starry heavens | ナノ

「部屋分けはワシとアヴドゥル、承太郎と花京院、それから…。」

「私、お姉さんと一緒ね!」

「まぁそうなるじゃろうな。」

「じゃあ俺は一人部屋だな。ラッキー!こんな良いホテル来てまでムサイ野郎どもの顔を拝みたくねぇぜ。
あ、でも名前。お前はいつでも俺の部屋に遊びに来ていいからな!」


無事にシンガポールに到着した私たちは疲れを癒すために数日このホテルに滞在することになった。
さすがはジョースター不動産の創始者。今いるこのホテルは相当に良いホテルであろうことは値段を見ずともよく分かった。

「シーズンだから並んで部屋がとれず、それぞれバラバラになってしまった。不安はあるが…。それぞれの部屋番号をよく覚えておくように。」
ジョセフさんの言葉にそれぞれ頷き解散となった。


日本を出発してから早数日。敵のスタンド使いに襲われ続けて休まる時間などほとんどなかった。
ようやくの安心できる環境に少し肩の荷を下ろす。

「お姉さんシャワー浴びてきちゃいなよ。結局ベトベトのままでしょ?」
言われてみて思い出した。そして思い出してしまうとそればかりが気になって仕方なくなる。

「そうだね…。じゃあちょっと入ってくるね。誰か来ても開けちゃ駄目だよ。」

「分かってるって!もう、子供じゃあないんだからそんなに心配しないでよ!」
プリプリと怒るやはり子供らしい彼女に内心微笑みながらも私は浴室に向かうのだった。



◇◇◇

髪を乾かして部屋へと戻る。生まれ変わったかのようにさっぱりした。
本当は湯船を張って、しっかりとお湯に浸かりたかったがここのホテルはシャワーしか備え付けてなかったので残念だ。

「お待たせ〜。アンちゃんもよければ入ってきたら?」
テレビを見ていた彼女の横に腰かける。すると何故か彼女は私を観察するようにジィっと見つめてくる。

「どうしたの?」

「お姉さんってJOJOとどういう関係なの?恋人同士?」

「へっ!?ななななななななんで!?」

「え?だって…よく見つめ合っているし…。JOJOもお姉さんの所は気にかけている風に見えるから…。あの服だってお姉さんに貸してたしさ…」

最後の方はボソボソと話していたためいまいち聞こえずらかったが、これはもしかして…

「もしかして、承太郎のことが好きなの?」
その言葉に茹蛸みたいに真っ赤になった少女は慌てて否定する。

「いやいやいや!!違うって!ただちょっとかっこいいなぁって思っただけ!そう、憧れみたいなもの!お姉さんとJOJOの間に割って入るようなことはしないってぇ!!」

「そ、そうなの?」
あまりに全力で否定するからなんだかこちらが悪いことをしたような気になってくる。
そんな時部屋の扉がコンコンとノックされる音が響く。

「あっ、だれか来た!はぁ〜い!」
話題を逸らすように少女はパタパタとドアの方へ駆けていく。
私は慌てて少女を引き留めると覗き穴から外の様子を伺う。そこにいたのは承太郎と花京院君だった。慌ててドアノブを開ける。

「どうしたの?何かあった?」
承太郎を見上げながら尋ねる。

「じじいの部屋に集合だ。ポルナレフの部屋にスタンド使いが現れた。」

「えぇ!?ポルナレフは大丈夫なの!?」

「さぁな。兎に角行くぞ。」
後ろでハテナマークを浮かべる少女に向かって部屋からでないように伝え、承太郎と花京院君に続いてジョセフさんの部屋へと向かった。


◇◇◇

「おお!来たか、三人共!あの少女は?」

「部屋から出ないように伝えてきました。」

「それがいい。」

「ポルナレフはどうした?」

「まだ来てない。全くあいつめ、自分で私たちに集まるように言っておきながらルーズな奴だ。」





ポルナレフがジョセフさんたちの部屋へ到着したのはそれから30分程たった後だった。
到着した彼は何故か色々な場所に刺し傷があり、血を流していた。

「ポルナレフ!?どうしたの…!?」
入り口の所で崩れ落ちそうになるポルナレフを支えようと彼の元へ駆け寄る。

「つ…疲れた……。」
慌てて彼の手を自分の肩に回して支えるようにしてベッドへと誘導する。

「…もしかして、もしかすると『悪魔』のスタンド使いにもう襲われていたのか?」
キョトンとしたジョセフさんの台詞にポルナレフはプリプリと怒りだす。

「これみて分からねぇのか!ああそうだよ!もう倒してきたよっ!ったく…。」
てっきりスタンド使いが現れただけだと思っていた。すでにもう戦っていたとは…。
怒っているポルナレフを見て一同はなんとも言えない気持ちになる。

「…なんか、ごめんね。ポルナレフ。とりあえず傷の手当てしなきゃ…。」

「名前〜!お前だけだぜ!俺に優しいのは〜!!」

「ひゃあっ!」
ベッドに座ったポルナレフは突然目の前に立つ私の腰に抱き着いてくる。
だが驚きの声を上げたのと同時に彼の身体はすぐさま離れていった。

「ぎゃあっ!なにすんだ承太郎っ!首!首絞まってるからぁ〜!」
承太郎はポルナレフの服を引っ張ってベッドへと放り投げた。
そんな彼の行動に「けが人によぉ、ヒデェ奴だぜ」とブツブツと文句を言っている。

「…それだけ盛れんなら問題ないな。さっさとスタンド使いのことを話しな。」







ポルナレフに聞いた『悪魔』というスタンドは人形のような見た目を持つものだったらしい。
しかしポルナレフの話を聞く限り結構ギリギリの戦いだったようだ。本当に無事でよかったものだ。

「うーむ、やはり我々は四六時中狙われていることを考えて行動した方がいいだろう。
それにポルナレフの部屋で死んだボーイのことを考えるとポルナレフが疑われるのは避けられない。」
そう言ったジョセフさんはどこかに電話をし始めた。

「SPW財団に来てもらうことにした。我々はこんなところで足止めを食う訳にはいかないからな。」
本当にジョセフさんは何者なのか。絶対に敵に回したくない人だ。

ポルナレフの手当ても終わり今後の行動について話しあう。
とりあえず明日にもインドに向かう列車の切符を買ってこの国を後にすることにした。

「ポルナレフ、お前は承太郎と花京院の部屋へ行け。何もなければそれぞれ明日まで自由行動とする。」

「ちぇっ。せっかくの一人部屋だったのによぉ〜。」
ジョセフさんの言葉にそれぞれが部屋から出て行こうとする。

(あのことを話すのは、今しかない…!)

「あ、あの…!」
私の言葉に部屋を出て行こうとしていた面々が足を止める。

「どうした?名前。何か言いたいことがあるのか?」
急に集まった注目にどうしていいか分からず視線を泳がせるが、アヴドゥルさんに促されて大きく頷く。

「み…皆に、話しておきたいことがあって…。」

「名前、もしかしてお前ことについてか?それならワシと承太郎とアヴドゥルはすでにお前の記憶を見て…。」

「違うんです…!もっと、もっと大事なことなんです…っ」
私の必死の形相にただならぬものを感じたのか全員が口を噤む。
一番に動いたのは承太郎だった。
部屋に戻ってきたかと思うとソファに腰かけて足を組む。

「いいぜ。話してみな。お前のその様子からして、どうやら俺たちの今後に関わることらしいからな。」
承太郎の言葉に、私が未来から来たということを知らない花京院君とポルナレフだけが頭にハテナマークを浮かべている。

「そうか。二人は知らなかったんだな。彼女、名前は十年先の未来から来た人間なんじゃ。しかも10年後の承太郎とは良い仲なんじゃよ。」
ニシシと笑うジョセフさんの言葉に二人は口をポカンと開けてしまっている。
そりゃあ意味が分からないだろう。突然10年後の世界から来たなどと言われても。
承太郎はそんなジョセフさんの言葉に苛立ったように、「余計なことを言ってんじゃねぇ、クソジジイ」とお怒りだ。

「えっと…、信じられない気持ちはよくわかるんだけど、本当のことなの…。私は今から10年後の世界から来た人間です。」

半信半疑と言った様子で花京院君がおずおずと口を開く。

「えっと…、それは何らかのスタンド攻撃にあって、ということかな…?」

「私にも分からないの。でも意識を失う前の私は、確かに敵のスタンド攻撃を受けた。それで自分は死んだと思っていたんだけど、目が覚めたらこの世界に…。そこでホリィさんに助けてもらって今に至ります。」
ポルナレフと花京院君は顔を見合わせて信じられないようにこちらを伺っている。
この反応はいくらか予想はしていたが、疑われるというのはやはり慣れない。居心地の悪さを感じて目線を下げて自分の腕をギュッと握る。

「コイツが未来から来た。それは確かだ。」
シンとした部屋に響いた低い声、それは承太郎だった。

「それはなにか根拠があってのことなのかい?承太郎。」

「ああ。出会って間もない頃にコイツの記憶をジジイの能力で見た。それは確実だ。」

「……なるほど。」
再び口を閉ざした花京院君。
ポルナレフもいつもとは違った真面目な表情をしておりその空気は重々しい。
耐えられなくなった私はジョセフさんに向けて口を開く。

「ジョセフさん…。あの、私の記憶を…、二人に…。」

「名前…、だが、」
ジョセフさんは戸惑ったように私と承太郎を交互に見ている。その様子に承太郎はため息を吐いて口を開いた。

「…っち。仕方ねぇだろーな。俺もアレの見るまではコイツの話を信じられなかったからな。」
帽子を目深に被って諦めたような声を出す承太郎。私は再度ジョセフさんを促す。

「…ジョセフさん。」

「……分かった。では「その必要はないぜ。ジョースターさん。」
声を上げたのはポルナレフだった。

「俺は名前の言うことを信じるぜ。だからわざわざコイツの記憶なんて見なくてもいい。」
ポルナレフはそう言ったかと思うと私の頭に手を乗せて、髪の毛をグシャグシャに撫でまわし始めた。

「コイツは敵なんかじゃあねぇよ。な?花京院?」
ポルナレフのその言葉に花京院はフッと笑みを浮かべる。

「確かに。寧ろ君たちの前に突然敵として現れた僕たちの方が怪しい存在と言えるだろうな。」
二人の言葉にジワリと目の奥が熱くなるのを感じる。

「おわっ!?名前〜、泣くなって!」

「すまない…。疑ってしまって。」

「ううん…、いいの。信じてくれて、ありがとう…。」




___この人たちを死なせたくない

強くそう思った。