starry heavens | ナノ

ジョセフたちが出してくれた小舟が二人の元へ来て、承太郎と名前は海からようやく引き上げられた。
乗ってきた船が爆発で大破してしまったため、今はその小舟に乗って絶賛漂流中だった。
最初の飛行機しかり、先ほどの船しかり、私たちが乗っている乗り物は壊れる運命にあるのだろうか?
少女の名前はアンというようだ。彼女は同性である名前に懐いたようで、こんな状況であるにも関わらず割と明るい声でペチャクチャとおしゃべりをしていた。

(…承太郎。)
チラリと斜め前方向にいる承太郎を盗み見るが、彼は目を閉じておりその表情を伺い知ることはできない。
先ほどの海中での出来事を思い出しては悶々としてしまう。これでは自分ばかりが意識しているようではないか。

(…実際そうか。)
承太郎は私のことなど何とも思っていないのだから仕方ない。
そんな私の視線に気が付いたのかこちらを見上げた彼とバッチリ目が合ってしまう。
吸い込まれるような綺麗な瞳に私は不自然な程大げさに視線をそらしてしまう。


「…………。」
そんな名前へ何か言いたげな承太郎だったがフゥと一つため息をつき再び目を閉じてしまう。
そんな私のモヤモヤとした気持ちを吹き飛ばすかのような少女の大きな声が響く。


「み、み、皆!あれを見て!!」
少女が指さした方向を見た瞬間わたしたちも驚きの声を上げることになる。

「な、なんだアレはっ!?」
霧の中から現れたのは先ほど私たちが乗っていた船とは比べ物にならない程巨大な船だった。

「これだけでかい船なら誰かが乗っているだろう。助けを求めよう。」
そう言ったジョセフさんに続き、それぞれが船へと乗り込んでいく。


「名前。手を。」

「あ、ありがとう…。花京院君。」
調度私の前に小舟を降りた花京院君がこちらを振り向いて手を貸してくれる。
まるで童話の中の王子様がお姫様にするような完璧な動作で思わず顔が赤くなる。花京院君が手を貸してくれたおかげでなんなく船へと移ることができた。
再度お礼の言葉を言おうと彼の顔を見上げると、彼の視線は私の背後へと注がれていることに気が付く。

「…そんなに睨むなよ。承太郎。僕はただ手を貸しただけじゃあないか。」
その言葉に思わず背後を振り返り承太郎をみるが、彼は帽子を目深に被っており表情を伺うことはできなかった。
そんな様子の承太郎に花京院だけがクスリと笑うのだった。



◇◇◇
乗り込んだ船の中は驚くほど静かだった。

「なんだこの船は!?操舵室に船長もいない!無線室に技師もいない!!それなのに見ろ!計器や機械類は正常に動いているぞっ!」
船が静かだったのは人が乗っていないせいだったのか。
それにしても不自然すぎる。人が乗っていない船が動くわけがないのにそれでもこの船は正常に機能しているのだ。

「全員下痢気味で便所にでも入ってるんじゃねぇの。」
お気楽なポルナレフの言葉に思わずため息をついてしまう。スタンド使いの仕業かもしれないというのに呑気なものだ。

「ねぇ!こっちに来て!」
少女に腕を引かれてそちらへと向かう。

「うわっ!オランウータン…?」
少女が見つけたものは檻に入ったオランウータンだったようだ。動物がいるということは当然世話をする人間がいるということだ。
しかしこれだけ探したにも関わらず私たち以外の人間は見つからない。いよいよ可笑しい状況にそれぞれが首を傾げる。

「猿なんぞどうでもいい!こいつに餌をやっている人物を探すぞ!」

ジョセフさんのその言葉に再び甲板の方へ出て捜索を開始する。

その時だった。
ギギギという不自然な音が響く。音のした上の方を見上げるとクレーンがユラユラと揺れていた。
そしてそのクレーンは「あっ」と言う間もなく突然に落下し始めたのだ。真下にいる水兵は気がついていない。唯一ジョセフさんが気が付き声を上げる。

私はクレーンが落下し始めた瞬間に走り出していた。射程距離に入った所ですぐさま能力を発動する。


「ピィイイ!!」
高い鳴き声を上げた『クリスタル・ミラージュ』は水兵の真上に結界を出現させる。

____ガキイィイン
硬いもの同士がぶつかった物凄い音が辺りに響く。水兵がクレーンの下から移動したところで私は結界を消した。

「な、なんだ…今のは。」

「一瞬クレーンが何かにぶつかったように落下を止めたように見えたが…。」
不可解な出来事にざわつく水兵たちだが、私はその横でホッとため息をついた。

『よくやった!名前』
スタンドを通じて話しかけてくるジョセフさんに向かって微笑む。
しかし安心はしていられない。今のは偶然起こった事故なんかじゃあない。

「だれも、操作レバーをいじっていないのに、クレーンが動いた…。」

「気を付けろ。やはり傍にいるぞ。スタンド使いが…。」
訳の分からないことの連続で水兵たちの間でも不安の声が上がる。

そしてそれは少女も同じだったようだ。
私の服の裾をギュッと掴んできた少女の顔は不安そうに歪められている。
そんな彼女を安心させたくて、私は思わず少女の小さな手を握る。すると彼女は驚いたようにこちらを見上げてきたので微笑み返す。

「…君に対して一つだけ真実がある。それは我々は君の味方ということだ。」
ジョセフさんの言葉に少女は少し安心したのか一瞬コクリと頷いたかと思うと、私の手を離して再び船室の方へ走っていってしまった。

「あ…っ。待って!一人じゃ危ないよっ!」
今の所敵の姿が見えないとは言え、スタンド使いでない彼女を一人にしておく訳にはいかない。私は少女を追って船室へと向かった。

「おい…っ」

「承太郎。ここは名前に任せよう。あの女の子も同性である名前の方が話やすいこともあるじゃろう。」

「…………。」
承太郎はその言葉に納得がいかないかのように、じっと船室の方を見つめているのだった。