starry heavens | ナノ

『暗青の月』は承太郎によって倒された。
『スタープラチナ』に腕を掴まれ宙に浮いた状態の私はホッとため息をつくのだった。だがそれも束の間だった。

「っ…?なに…?」
チクリとした手の痛みに何事かと思い『スタープラチナ』に掴まれている方の腕を見上げる。

「っなにこれ…!?」
私の肩から二の腕にかけてびっしりと藤壺のようなものが張り付いていたのだ。
それは徐々に範囲を広げながら『スタープラチナ』の方にまで向かっている。

(ち、力が…入らない…)
まるでこの藤壺のようなものに力を吸い取られているような感覚だ。
力の入らなくなった手は『スタープラチナ』の手を掴むことすら困難でその手から抜け落ちそうになる。
それに気がついた承太郎がすぐにグイと力を入れて落下することは避けられた。

「名前…。しっかり掴んでいろ。海に落ちてぇのか。」

「じょ…承太郎……。私の手を離して……。」

「?…何言ってやがる…?てめぇ…。」
私の様子が可笑しいことに気が付いたのか承太郎はジッとこちらを見やる。

「っこれは…!?奴のスタンドか…!」
承太郎の焦りの声に周りの皆も気が付いたのか慌ててこちらを覗き込む。
その間にも私の腕に張り付いた藤壺は徐々に腕全体を覆い、『スタープラチナ』の方まで向かっている。
『スタープラチナ』にこの藤壺が張り着くのは非常にマズイ。原理はよく分からないがこの藤壺は私の力を奪っている。そして海へと引きずり込もうとしているのだ。

「っ承太郎!私を、離して…っ」
必死に訴えるが承太郎は聞き入れてはくれない。もう私の腕は全て藤壺で覆われ、手のひらにまできてしまった。


「承太郎っ…!このままだと、承太郎も「いいからテメェは黙ってな。俺は絶対にこの手を離さねぇ。」


「っ!!」

(____承太郎っ!)

その言葉に思わず涙が出そうになる。





藤壺は勢いを止めることなくいよいよ『スタープラチナ』の腕にまで浸食していた。

「…くっ!引きずり込まれる…!」
スタンドと本体は一心同体。『スタープラチナ』の腕にまで浸食した藤壺により承太郎は力が入らないようだった。慌てて船上にいる4人が承太郎を抱えて引っ張り上げようとするが、それよりも海中に引きずり込む力の方が強かった。

成すすべもなく承太郎は甲板から滑り落ちる。
その瞬間『スタープラチナ』は藤壺のついていない少女を掴んでいた方の手を勢いよく船上へと放る。あまり力が込められなかったそれは船上まで上がることはなかったが、再び落ちそうになるところを『法皇の緑』が触手で見事にキャッチした。


「承太郎…!名前…!」
水中に引きずり込まれた二人に花京院の言葉は届かなかった。

















静寂、深い闇____

ここには僅かな太陽の光が差し込むだけだ。



藤壺によって海の底まで引きずり込まれた私は、承太郎に抱え込まれていた。藤壺は今も徐々に範囲を広げており力が抜けていく。そんな私の様子を察したのか承太郎はさらにその手に力を込める。

『ようこそ〜。よぉ〜やく来てくれたな。『暗青の月』の独壇場、海中へ…ククク』
スタンドを通して会話をしているのでその声は海の中でも近くにいるときのようによく聞こえた。

『おに〜ちゃん。俺を舐めとったらいかんぜよぉ〜。人一人抱えながらこの俺と海中で戦えると思っているのかい?その足手まといをとっとと離しちまいなぁ〜。』
悔しいが何も言い返すことができない。私の口からは空気が漏れていくばかりで息が続かなかった。
徐々に意識が朦朧としていくのを感じる。

(もう…ダメ……)

『おっとぉ。そのお嬢ちゃんはもう限界みたいだぜぇ。急がねぇと死んじまうなぁ。クックック…?』



(………これは?私の唇に触れている、この柔らかいものはなに……?)


意識を失う寸前だった私の意識は少しずつ覚醒していく。


(…じょう、たろう?)

私は承太郎に口づけられていた。
いや、彼の中の空気を少しずつ送り込まれていた。それにより少しずつクリアになる思考。


(承太郎っ………!)

未来の承太郎と出会ったばかりの頃、こんな風にキスをされたような気がする。
思えば私の気持ちはあれから全て承太郎へ持っていかれてしまったのだ。

懐かしい、そして切ない感覚に私は無意識のうちに承太郎の太い首へと腕を回す。


『ひゅう〜!見せつけてくれるじゃあねぇか。まぁ最後だからなぁ。それくらいは勘弁してやるぜよ。』

唇は離されてしまい、こんな状況にも関わらず名残惜しい気持ちが湧き上がる。


『てめーのなりたい魚料理を言いな。刺身か?それともカマボコか?てめーのスタンドを料理してやるからよ。』

それからの承太郎は早かった。
『流星指刺』によってあっという間に『暗青の月』を倒してしまった。




承太郎に抱え込まれたまま海面に上がった私はようやく空気を吸い込むことに成功する。

「ゴホッ!ゴホッ…!」

「平気か?」

「う、ん…。ありがとう…。」

ジョセフさんが投げ入れてくれた浮きに掴まり二人で船上へと上がろうとするが、その瞬間目の前の船はけたたましい音を立てて爆発を始める。












____爆発


思い出すのは殺人鬼。
私をここまで追い込んだ張本人。


既視感を感じた名前は思わず目の前の承太郎に抱き着いてしまう。


「や、やだ……っ!じょたろ…さんっ…!承太郎さん…っ!!」





突然抱き着かれた承太郎は訳も分からず彼女を抱きとめる。
震えながら自分に抱き着いてくる小さい身体。
彼女が助けを呼ぶのは自分であって自分ではない。



____承太郎は何故か苛立ちを感じている自分がいることに気が付いた
















◇◇◇

暗闇の中に佇む男とその傍らにつく老女。

「DIO様。あなたほどのお方が何を恐れておる?」

「______ジョースターの血統。
奴らは侮れない。あのカスどもが我がDIOの人生にこうも纏わりついて来るとは。
このDIOの運命の歯車から奴らを取り除く必要性を感じてしまうのだ。」

「侮れないというだけで、DIO様自ら出向かれるおつもりですか?」

「そうだ。」

「くだらぬ!あなたはそのような下らぬ行動をしてはならぬ!すでに『女帝』『吊られた男』『力』『運命の車』『節制』『皇帝』『悪魔』、7名のスタンド使いが奴らを抹殺しに向かっております。
無論、あなたのご命令通り、小娘はここに連れて来るように命じてあります。」

「…そうか。」

「それにしても何故あの小娘を?何か気になることでもおありですか?」

「いや…。あの女からは何か奇妙なものを感じる。まるでこの世のものではないような…。
少しこの目で見てみたくなっただけのことよ。」

彼女を人目見たときから感じていた違和感。だが念写した写真越しでは分からないことの方が多い。




___時間はいくらでもある。焦らずに待つか

DIOは暗闇の中一人笑うのだった。