starry heavens | ナノ

香港への滞在を余儀なくされた私たちはある一軒の中華料理店で今後についての相談をしていた。

「我々は飛行機でエジプトへ向かうことは不可能になった。また飛行機内であのようなスタンド使いと出会ったら今度こそ大参事になるやもしれん。」

「陸路か、海路か…。」
ジョセフさんとアヴドゥルさんは考え込むように腕を組んでいる。
学生である私たち三人はそのような場所になど行ったことがないので二人の判断に任せるしかなかった。

二人の判断で今後は海路を使うという方向性になった。
その際も、普通に出ている船を使うと一般人を巻き込む恐れがあるということから、わざわざ私たちだけの貸切にしてもらうらしい。


不動産王だとは聞いていたがジョセフさんとはいったい何者なのだろうか。今入っているこの店だって出てくる料理とか内装を見れば相当な一流店だろうことは分かる。

そんな中、重苦しい雰囲気の私たちに突如として話しかけてくる男の姿があった。


「すみません。私はフランスから来た旅行者なのですがどうも漢字がわからずメニューが読めません…。是非教えてほしいのですが…。」
私たちに話しかけてきたのは銀髪の奇妙な髪型をした一人の男だった。
髪型もさることながら服装もとても奇抜だ。しかしフランスといえばファッションの最先端。私には良く分からないが実はこういうのがおしゃれなのかもしれない。
そんな男に対しても承太郎の態度はいつもと変わらなかった。

「やかましい。向こうへ行け。」
承太郎の優しさは基本的にこういう場面ではあまり発揮しないらしい。本質的には優しい人ではあるのだが。

「まぁまぁ承太郎。どれ、わしが見てやろう。香港には何度か来ているからな。」
そう言ってジョセフさんは男を私たちのテーブルへと招いた。
ジョセフさんは次々と注文をしているが出てきたものは始め注文しようと思っていたものと全く異なっていた。


貝におかゆに蛙…、
「ガハハハハ!まぁ何を頼んでも上手いもんじゃよ!!」

ジョセフさんの豪快な笑いに押されて私たちも食べ始める。

「お、美味しい…。」

「そうだろう!」
ただし蛙にはだれも手をつけなかった。


「おーおー、手間暇かけてこさえてありますなぁ。特にこの人参。『スター』の形をしている。
___そういえば最近知り合った私の友人がこれと似た形の痣を肩に持っていましたなぁ。」

その言葉に私たちは目を見開いて男の方を見やる。
「貴様…新手の…!?」

花京院君のその言葉は目の前で突然沸騰し始めた料理の音にかき消される。
その皿を下から突然現れた剣が貫いた。そしてそれはジョセフさんへ向けて振り下ろされる。
剣を左手の義手で受け止めたジョセフさんはそのまま机を反対側へ倒す。
机は必然的に彼の反対側に座っていた私に向かって倒れてくるのだが、私はと言えば突然の出来事に何がなんだか分からずただ倒れてくる机を他人事のようにボーッと見ていた。

「おいっ!」
隣にいた承太郎にグイッと腕を引かれて無理やり立たされる。
ハッと我に返ったときには私が先程まで座っていたところは見るも無残なことになっていた。

「ボーッとしてるんじゃあねぇ。」

「ご、ごめん…。」
承太郎が引っ張ってくれなかったら、私は今頃あのひっくり返った料理を全身に浴びて机と椅子の下敷きになっていただろう。
アヴドゥルさんが男を牽制するために『マジシャンズ・レッド』の炎を放つが、それはいとも簡単に相手のスタンドに受け止められてしまった。
その炎を先ほど倒れた机に向けて放ちあっという間に火時計を作ってしまう。凄まじい剣捌きだ。

「私のスタンドは『銀の戦車』!能力は素早く相手を切り刻むこと!アヴドゥル!貴様の炎は広い場所でこそ真価を発揮するだろう。場所を移動しよう。
それと…そこのレディ。」

「へ?私…?」
突然名指しされたことで素っ頓狂な声を上げてしまう。

「今から行われるのは血なまぐさい決闘だ。君のような可憐な女性が見るものではない。できれば外して頂きたいのだが。」
なんだそれは。
まるで私が戦力外とでも言っているようなものではないか。その言葉にムッとして男を睨みつける。

「お気になさらず!私だってスタンド使いなんですからね!名前も知らないあなたに心配して頂かなくても結構ですっ」
男は一瞬ポカンとしたかと思うと突然笑い出した。

「ハハハッ!中々に面白い女性だ。失礼した。私の名前は『ジャン・ピエール・ポルナレフ』。これ以上は店にも迷惑をかける。移動するぞ。」



◇◇◇

ポルナレフという男は敵の割にとても紳士的で礼儀を欠かさない男だった。
場所を移動してから始まったアヴドゥルさんとの戦いは凄まじいものだった。不意を突けばこのポルナレフという男に勝機は何度かあったにも関わらず、彼はその都度懇切丁寧に解説をしてくれたのだ。
その態度にアヴドゥルさんはとても好感を持ったらしい。戦いはアヴドゥルさんの勝利に終わったものの、ポルナレフの命までは奪わなかった。
そして二人の戦いの間に何度か出ていた『DIO』という名前。
もしかしたらと思っていたが、彼、ポルナレフも花京院君と同じようにDIOによって肉の芽を埋め込まれていた。
すかさず承太郎は『スタープラチナ』でそれを抜きにかかる。

「うげぇ〜これが気持ち悪いんじゃよな〜!承太郎!早く抜いてくれよぉ!」
二度目立ったため前回よりは冷静に見ることができたが、やはり見ていて気持ちの良いものではない。
抜き去ることはできたが、やはり芽は抜こうとする承太郎の手に突き刺さったため彼の手からは血液がポタポタと垂れている。

「…承太郎、あの…。」

「……?」
私はポケットから絆創膏を取り出して彼の手の甲に張り付ける。

「…なんだこれは。」

「え…、絆創膏だけど…。」

「そういうことを言ってるんじゃ…、ちっ…もういい。」
帽子の鍔を下げて彼は先に歩いて行ってしまった。
その肩を何故かニヤニヤとしたジョセフさんに叩かれた彼はうっとおしそうにその手を払っていた。

「花京院君…。この人、どうしよう?」

「そうだな…。ここに放っておいてもいいものか…。ところで名前さん。君と承太郎は一体どういう関係なんだい?彼の態度が君に対してやけに過保護に感じるんだが…。」

「そ…そうかな?」
自分では全然気がつかなかったがそうなのだろうか?
だとしたら嬉しいが…。私のことを話すにしても長い話になるしここでは少し難しい。

(そう言えばジョセフさんとアヴドゥルさんと承太郎にも、私の記憶を見ただけで自分の口からは何も話していないな…。)

あの後特に何も聞かれなかったからということもあるが、皆には一度きちんと説明しておいた方がいいかもしれない。
皆の今後に関わる、重要な話だ。もう少し落ち着ける場所に行ったらしっかりと話そう。そう心に決めたのだった。

◇◇◇

私たちはジョセフさんがチャーターした船で次の目的地を目指すことになった。勿論、一般客に被害がないように私たちだけの貸切だ。

そしてもう一つ、私たちの仲間にポルナレフが加わった。
彼は妹の仇という両手とも右手の男を探しているらしい。その途中でDIOと出会い、肉の芽を埋め込まれたということだ。

「妹の仇の男は間違いなくスタンド使いだ。DIOを目指せば必ず会える。そんな気がするのさ…。」
そんな真面目な話をしている最中、高い声が響く。


「すみませ〜ん。あのぉシャッター押してもらえませんか?」
二人組の女の子たちは承太郎に向かってハートを飛ばしている。やはりこの男は昔からモテていたらしい。

「うっとおしいぞっ!他の奴に言え!!」
そしてうるさいのが嫌いなのも昔から変わらないらしい。女性たちを一括したかと思うとプイとそっぽをむいてしまう。
そんな承太郎の変わりに出てきたのがポルナレフだ。

「まぁまぁ。お嬢さんがた。写真なら俺が撮ってあげよう。」
そして女の子たちの肩を組みながら写真を撮り始めてしまった。
先ほどまでかなりシリアスな話をしていたはずなのにその切り替えの早さに驚いてしまう。

「まぁなんというか…、頭と下半身かはっきりと分離していると言うか…。」

ジョセフさん。きっとポルナレフだってあなたには言われたくないです。と失礼なことを思ってしまう私なのであった。