夢見花









先生……。
先生……。
貴方に植え付けられた答えは未だに出ないよ――。





と、いつものように登校前に旧校舎の裏庭へと向かう。そこにはアタシの事を待ってくれている主がいた。
あの黄色いクロッカスだ。
初心者ながらに覚束ない手で再生を臨んだ。
それから一週間以上が過ぎた現在、弱々しかった姿から立派に咲き誇る花へと成長してくれた。
勿論、咲き誇る輝きは椎名先生の花壇とは比較にならない。

でもこれはアタシの中でとても嬉しく、愛しい出来事であった。





今日も足取り軽く一輪のクロッカスの下へ向かうと待っていたのはいつもと違う光景であった。

「……あれ?」

ぱちくり、目を幾度も瞬たかせる。擦ってもみる。
しかし違う光景は現実だった。

黄色いクロッカスの隣に寄り添うように植えられた一回り大きな白いクロッカス。堂々と咲いていた。
昨日までは黄色いクロッカスが一輪だけであったのに。

「……なんで?」

気が付けば先生と同じ問いを口にしていた。でも無理はない。手品のようにいきなり現れた白いクロッカスの存在を直ぐに理解する術はなかった。

思いの外、黄色いクロッカスと距離の近い白いクロッカスに戸惑いを覚えながら、その場にしゃがみ込む。
そして黄色いクロッカスと同時に初めて出会う白いクロッカスに触れた。

指先が何故か震えて痺れに変わる。
痺れが血液を通って心臓へ信号として送られる。
そしてそれが大きな鼓動へと変わって行った。

黄色いクロッカスが昨日まではと感触が違うのが感覚的に伝わった。白いクロッカスが黄色いクロッカスに寄り添おうとしている姿も。





アタシは二輪のクロッカスを前に俯く。

どうして言葉では解らない癖にこうやって遣り遂げるのだろう。
そこにアタシの気持ちがどうだとかは予測がないのは大体解る。
でもさ、こんな風に形でいきなりされたら戸惑うのも当たり前でしょう?――。





白いクロッカスを植えたのは椎名先生だ。確信を持って答えられる。
何故なら、先生の花壇から何かが掘り起こされた跡が残っていたのだから。
解りやすいのか、解りにくいのか。
尋ねられたらやはり後者だと答えるだろう。でもこの白いクロッカスを植えた先生は素であることはアタシの勝手な解釈によって鼓動を更に速める。



「……なんで……寄り添ってるの……?」

椎名先生を投影した白いクロッカスへ尋ねてみる。当然花は言葉で答えてくれるはずはない。

でも――。
白いクロッカスの体温はとても温かく、黄色いクロッカスに足りない温度を与えてくれているようだった。





キーンコーン、カーンコーン。
放課後のチャイムが校内に鳴り響く。
部室に向かう途中、旧校舎の廊下の窓から裏庭に座り込む人を見掛けた。
いつものよれよれの白衣が今日は折り目正しくキッチリとしている。
あの白衣は先日アタシが先生に返した白衣だ。

「っ!」

バンッと廊下の窓を両手で叩くと躊躇いもなく窓を全開にしてその人物のいる裏庭へ叫んだ。





「……椎名先生!」

アタシの声が静寂な裏庭に響き渡った。上から声を掛けられた主がゆっくりとやや不機嫌な表情でこちらを見上げた。
足下には今日も自由自在に操る尻尾を持つ野良がいる。
目と目が合うと罰が悪そうに一層目を細めた。

そんなことは今は関係ない。
真実を、先生を知りたい――。





「これからそっちへ行ってもいいですか!?」

そのアタシの問いに先生はふいっと何も答えるべくもなく花壇の方を向いてしまった。
しかしアタシの答えは決まっていた。

「ニャア!」

先生の代わりに野良が返事をくれた。アタシは階段を掛け降りようとしている。





夢見花

(クロッカスのみぞ知る二人の未来。)
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