もしも、
今日はネジの誕生日だった。
ネジとテンテンはたまたま休暇が重なり、リーとガイ先生は任務で里をあけていた。
「ふたりだとちょっと淋しいね。でも今度改めて、四人でお祝いしようってガイ先生も言ってたもんね」
「別に構わないんだけどな」
「そんなこと言わないの。ほら食べよう」
テンテンは自分の部屋にネジを招き、出来るだけたくさんネジや自分の好物を考えご馳走を用意した。彼女の部屋にあるテーブルは隙間がないほど皿で埋め尽くされた。
「こっちがお蕎麦、こっちもお蕎麦」
「蕎麦だらけだな」
「ネジの大好物でしょ」
ネジは「まあな」と困ったように笑っていた。
しばらく二人は他愛ないお喋りをしていたが、話題が任務のことになると二人は少し真剣な顔をした。じつは最近、激しい任務が続いたために木ノ葉でも何人かの殉職者が出たのだ。そのことを思い出すと、テンテンはいまこの瞬間の幸せがすごく貴重なもので感じるとともに、死がより身近なものに思えるのだった。
「ねぇネジ、もしもわたしが突然死んじゃったらどうする?」
テンテンは大好きなゴマ団子を頬張りながらネジに訊ねた。
「それは、考えたこともないな」
ちら、とテンテンを見やりさらりと言うネジ。
「悲しい?」
「当然だ。でも、」
言葉を詰まらせるネジを見て、テンテンは頬張っていた団子をゴクンと飲み込んで、「なになに?」と身を乗り出した。
「いや。それよりお前は、オレが死んだらどうする?」
「ネジが死んだじゃったら〜…?びっくりしちゃうね」
テンテンは笑った。
「少しは悲しんだりしないのか」
「悲しいけどさ、でも、」
テンテンはネジと同じように言葉を詰まらせた。ネジは彼女とは違い、問いだそうとはせずに静かに見守っていたので、テンテンは少しずつ言葉を紡いでいった。
「でも、ネジはバカな死に方とかしないだろうと思うのよ。正しいというか、良い死に方をしそう。だから、すごいなっておもうとおもう。悲しいって思うのは、きっとこういう日常にあんたがいないって改めて実感したときだと思うんだよねー」
テンテンは肩で大きく息をして、改めてネジを見た。
「無駄な死に方はしたくないよね、お互いに…!」
「まぁ、テンテンはたまにドジを踏むからな」
ネジはそう意地悪く言ってテンテンの頭を二度ほど小突いた。
そして両手で自分の頭を庇ったテンテンは少し頬を膨らませると、思い出したように言った。
「ねぇ、さっき何て言おうとしたの?わたしが死んだら悲しい。でも、って…」
「まぁ、いいだろ。さっさと食え」
「あ、ごまかしてる〜」
「そもそも誕生日にするような会話じゃないだろう」
ネジが眉をひそめてそう言ったので、テンテンは「そうだね」と頷いた。
そしてそっとネジに寄り添って、「お誕生日おめでとう」と言った。
ネジは穏やかに笑った。
そして、大切なテンテンからの祝いの言葉へのありがとうの代わりに、“でも”に続く言葉を言った。
「お前はオレが守ってやる」
「へ?」
「ん、なんでもない」
テンテンは後になって、この言葉の意味に気が付くと、ますますネジへの想いが溢れた。
「ネジ、これからもよろしくね」
ネジはただ静かに彼女の言葉に頷いたのだった。
おしまい