寒いのは嫌いなんだ。
「子供は外で遊びなさい」
って言われるのが一番嫌いだったから。
だから、冬なんか消えちまえばいいのになんて、思うのだけれどね。
あの日の彼は、兎角、可愛いくて。
鼻もほっぺも真っ赤でさ。
唇はガサガサで、鼻水まで垂らしてたんだけど。
寒い日に外で遊ぶことの何が面白いのか、楽しそうに三輪車を漕いでいる。
『あの子はさ、体が弱いからあまり外で遊べないんだって』
嗚呼、誰かがそんなことを言っていたっけか。
あの子の双子の弟は、学校で人気者だ。
所謂、イケメンスポーツマンってヤツだから。
小学生女子の恋心って虚いやすいけど、彼はよくモテる少年だ。
傍目に見る幼なじみは表裏一体。
野球に明け暮れて焼けた肌と、病弱な白い肌をした双子ちゃん。
今以って私の傍らで、ゴロゴロしているのは件の二人の男だった。
白いのも、日焼け野郎も、ホールケーキの奪い合いを地味に繰り広げている。
「ねぇ、二人とも甘党なのよね?」
興味なさそうな、呆れた口調の私の問いに、
「ん?」
と答えた彼らは、白いクリームを口の端につけてはいたが、今や大学生なのである。
大学野球で頑張る彼と、かたや私と付き合って5年も立つ彼。
あの冬に芽生えた恋は、何時しか育ち、花を開いた。
三輪車に嬉しそうに乗った少年が、今や私の王子様。
あの日の私は、色白で如何にもか弱さそうな彼に、声をかけたのが始まり。
「何が楽しいの?こんな寒いのに……」
私の言に、彼はさも幸せそうに言ったっけ。
「一緒に遊ぼう?……って言って見たかったんだ」
フフっと随分上品に笑った彼は、私の不服そうな態度にはお構いなし。
彼に振り回されて、16年。
貧弱な体質はそのままに、彼の身長は伸びたけれど。
今も彼は、さも幸せそうに微笑って、
「さーちゃんにも、ケーキあげるね」
と、生クリームがべっとりついたケーキが刺さるフォークを突き付けようとする。
(私は、甘いのは苦手なんだけどね。特に、ショートケーキは!)
「ご遠慮申し上げます」
頑なに断る私に、不服そうな彼だけど。
可愛いと今も思う、双子ちゃん。
これからも、こいつらと仲良くしていたいと思う19歳。
(もうすぐ終わってしまうけど)
お題
三輪車に乗った王子様
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