彼女はそう、狐なのだ。
その狐に摘まれたのだと、気付く馬鹿な人間たち。
それを思い浮かべて哀れに思った頃、西日が光をなくし弱くなる。
東の空は、紫を帯びて闇を連れてくる。
見上げた空に、俺も面白そうに、一つ鳴く。
橋の欄干から飛び上がり、ふと地上を見下ろせば。
人の子が、慌てたように家路を走り抜けていくのが見えた。
気ままな動物の、ちょっとしたお遊び。
そんなものに翻弄される、人間を哀れに思いながらも、憧れてもいる自分に気付く。
かといって、彼女の様に化ける術はない。
だから、その変わりに、泣き笑い生きる人の、豊かさに幸あれと願う。
そんな俺は、嫌われ者のカラスだが。
「俺は、好きだぜ」
呟いた声は、夕闇の向こうへと掻き消されていくのだった。
(それは、去年の秋の終わりに)
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mae : ato bkm