「お前はどうなんだ」
ぶっきらぼうなその問いに、
「私の髪をあの人はいたく気に入っていてね。濡れ烏の羽のようだとおっしゃったから」
と答える少女はとても幸せそうだ。
それと共に、どこか面白がる風をしている。
嗚呼、またそれで用もないのに俺を呼んだのか。
彼女の本当の姿を知るのは俺だけだから仕様のないこと。
それは、わかっているのだが。
「それで旦那様が、月見に誘ってくれたのだけどね…月なんて美味いものじゃないじゃない?」
不満を話しているのに、何処か面白そうにしている彼女。
「まあ、そうだろうな。それで?」
先を促す俺に、晴れやかに笑って、
「そろそろ、すっぽかして姿を眩ませてやろうかと思ったのだけどねぇ。せっかくの贅沢を失うのも惜しいしね」
有らぬ事を平然と言う彼女とは、随分長い間時を共有してきたのだ。
何、俺と彼女ができようはずがない。
狐花火(こはなび)。
それがこの少女の本当の名なのだから。
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mae : ato bkm