「おかげで、いいものを貰えたから」
先輩の微笑みの色が、少し違う気がする。
(一体、何を貰ったと…?)
「ファーストキス、なんだって聞いたわ。ごめんなさいね、了承もされていないのに」
少しも悪びれた様子のない先輩が、笑い含みに言う。
今更だが、蘇生するために人口呼吸をしたんだと気付く。
何で、ファーストキスだって知ってるのか?
そりゃあ、決まってる。
「皐!バラしたろ」
茶目っ気たっぷりな皐は、
「お喋りなのわかってて話すのが悪いんじゃん」
なんて、ケラケラ笑いそうに言うわけで。
「他の奴にも、話したのか?!」
嫌な予感は、的中。
「当たり前でしょ?バーカ」
嘲笑うかのような、皐は面白そうにしている。
焦る俺とは、裏腹に。
「北沢くんって、随分初なのね」
楽しそうなのは、先輩。
命の恩人、兼、ファーストキスの相手。
いやいや、好きなんだけどね。
藤堂先輩に俺は、恋しているけれどね。
心の準備とかもあるし、せめて、意識があるときにしたかった。
なんて、生死の境から生還したことなんか忘れて考える。
そんな俺に、藤堂先輩は、
「北沢くん、付き合ってあげる」
……………
…………
………
(……へ?)
「へぁ、うぉえ…な、な、何で?何でなんですか?!」
「可愛いんだもん、北沢くん。…ねぇ、お返事は?」
キリッとした柳眉。
嗚呼、こんな美人な先輩と?
とんでもないことになってしまった。
何だか、今の方が死にそうな気がしてきた。
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mae : ato bkm