改めて、頭上を見上げる。

「嗚呼、薄墨みたいな色してる」

呟く私の背後に、ふっと、笑う気配を感じた。

振り返ると、やはりそこには爽やかな笑顔があって、

「薄墨なんて、ちょっと不吉な色を思い浮かべているんだね」

なんて言う、彼は誰だったっけ?

(そういえば、薄墨って香典の名前書くヤツだっけな…)

「あ、今誰こいつって思ったでしょ?」

見透かされて、顔に出ていたかしら?と顔を思わず撫でてみた。

人好きのする屈託のない笑いを顔に浮かべたまま、

「僕は、塩碕努っていいます」

「あっ、私は…「安藤さんだよね?安藤満瑠さん」

「何で知ってるの?私の事なんか」

悲しいけれど、これが正直に気持ち。

「だっていつも、一人だし。本ばっか読んでるし?」

見てるのか、そんなに。

何故?一体何でなんだ。

思わず身構えるように、体を強張らせるそんな私に、

「わー、警戒してるし。ほんと安藤さんって猫みたいだよね」

なんて言い、そして、耳を疑う一言を放つのだ。




「安藤さんって可愛いよね。もっと笑えばいいのになぁー」

顔が一気に熱を持つ。

これは、きっと真っ赤かの林檎ちゃんだわ。

自分でもよくわかる。

(頭から湯気でそう…なんてこと言うんだ!!)

そんな私には構わず、彼は何かをまだ言っている。

私の耳には、彼の『安藤さんって可愛いよね』という言葉がリフレインしていて。

頭は、真っ白でショート寸前。

懐かしいあの歌が、口ずさめそうよ。

空は、薄墨を零したような色で染まるばかり。

太陽は、微かに西から光を送るけど。

彼と私のを見ているのは、木に停まるすずめだけね。

(天は、薄墨に染まっても)

安藤さんが、これは彼こと、塩碕努くんの一目惚れから始まったお話だと気づくのは、まだまだ先の話なのです。

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mae : ato bkm
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