浮かび上がるシルエットは、まるで、影絵を見ているようだと思えた。

鶴はそのまま、優雅に水を啄み、ふくろうが鳴き、木々はざわめく。

耳を澄ませば、遥かなる刻と、生命の息吹を感じられる気がした。

都会特有の喧騒や、人のしがらみ。追い立てられたつもりの似非強迫観念。

そんなものの全てから切り離されたままのこの場所に、僕は埋もれてしまいそうだ。

悩みや汚い僕の全てを洗い流したくて、そっと湖の淵に近づいたのに、鶴は逃げもしなくて。

そのまるで他人を気にしたそぶりを見せないことが、妙に僕のささくれ立った心を穏やかにしていく。

  ミナモ
湖の水面に口をつけると、甘い香りがしたようで。

喉に流し込んでみれば、それもただの水でしかないのだと知れる。

その柔らかい口当たりに、涙が溢れた。

一心不乱に水を飲み出した僕を、ヒタと双眸が見据えている。

もちろんそれは、傍らの鶴のモノであったが、生憎鶴は、それ以上僕への興味はなさそうだった。

ただ物言わぬ姿で傍らにいる、それに僕は阿呆みたいに救われたように思えるのだった。


【3 / 5】
 しおり 戻る
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -