浮かび上がるシルエットは、まるで、影絵を見ているようだと思えた。
鶴はそのまま、優雅に水を啄み、ふくろうが鳴き、木々はざわめく。
耳を澄ませば、遥かなる刻と、生命の息吹を感じられる気がした。
都会特有の喧騒や、人のしがらみ。追い立てられたつもりの似非強迫観念。
そんなものの全てから切り離されたままのこの場所に、僕は埋もれてしまいそうだ。
悩みや汚い僕の全てを洗い流したくて、そっと湖の淵に近づいたのに、鶴は逃げもしなくて。
そのまるで他人を気にしたそぶりを見せないことが、妙に僕のささくれ立った心を穏やかにしていく。
ミナモ
湖の水面に口をつけると、甘い香りがしたようで。
喉に流し込んでみれば、それもただの水でしかないのだと知れる。
その柔らかい口当たりに、涙が溢れた。
一心不乱に水を飲み出した僕を、ヒタと双眸が見据えている。
もちろんそれは、傍らの鶴のモノであったが、生憎鶴は、それ以上僕への興味はなさそうだった。
ただ物言わぬ姿で傍らにいる、それに僕は阿呆みたいに救われたように思えるのだった。
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