二つの羽が、月の鈍色に照らされる。

それらの羽は、美しいという言葉がよく似合う。

舞う姿はさぞや、可憐なことだろう。

そして、それら二つの羽が月夜に迎合するのだ。

人に住家を追いやられる道すがらに、出会った瑠璃。

人知れず、湖の辺で羽を休める美しい象徴の女王達は言う。

「悲しいのじゃないわ」

そうよ、ともう一方も同意を示して頷く。

「悔しさも、とうの昔に忘れてしまったもの」

呟く声に滲むのは、他のどんな思いだと言い得るのか。

追われ、捕らえられして、いなくなった仲間を思う日がないわけはないのに。

甘くて美味なる水も、心地好い寝場所も、森の全てを奪わんとする人々。

そんなことを、責めもしない二つの瑠璃は、忘れたといいながら静かに涙を落としているのだ。

「嗚呼、湖に身を沈めてしまいたい」

頼りなくか細いその声は、とても美しくて。

「誰もいないのだから。女王なんて言えないのよ」

「そうね。笑いぐさにしかならないわ」

微笑む瑠璃の女王は、身を寄せ合う。

空には、明けの明星が輝き出した。

白みかけた空に抱かれて眠る。

(いつかまた、平和な森で仲間と生きたい)

女王のささやかな願いは、今日もまた、月と共に溶けて消えゆく。


「殺してやりたいと、口が裂けても言わない理由は?」

「あの惨劇を繰り返したくはないからね」

ルリチョウは、晴れやかに笑った。




お題 瑠璃色 #1e50a2

咲くやこの色様に寄せて。

※ルリチョウと表記したのは、二つの瑠璃(瑠璃蝶と瑠璃鳥)のことを現しているからです。
但し、二つの生態と背景は無視していますので悪しからず。


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