ごめんね、あきちゃん。

ずっと、大切にしていたのに。

『二十歳になる前に、あの子を胸に抱きたい』

私にあの子は、捨てることができなかった。

やっぱりあの子は、大切な、大切な、猫ちゃんのぬいぐるみなんだもの。

柔らかいあの感触、チクチクしたナイロンの透明なヒゲがあったわ。

外に連れて歩いていたから、白かったのに薄汚れた。

そのあの子を抱いて、私は大人になっていくの。

手中になくても、何時だって胸中に収まるあの子。

親に貰った、優しい記憶。

愛しいのは、あの子を介した温もりなのだ。

優しさを、確かめたい。

あの子に触れたいのは、親に感謝を伝えたい。

そんな思いの裏返しなのかもしれない。

親離れも子離れも段々としていくのね。

少し寂しくて、切なくなるのは、何時だって迷惑かけているばかりだからね。

そんな私だってもうすぐ、二十歳になるの。

あの子との思い出を仕舞い直して、私が大人の仲間入りをするのは十二月。


(さよならじゃないの、時を納めるティーンエイジ)

ありがとうを、あの子に。

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mae : ato bkm
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