君にすがって泣く夢を俺は最近よく見ます。擦り寄った君の胸元からは清潔な石鹸のかおりと、規則正しい鼓動、静かな息遣い。何に怯えていたのか、今思い出してもさっぱりですが、君のやさしい子守唄に涙が自然に止まってしまったこと、それだけは鮮明に明瞭に、幼心に広がった安堵

心地よさは今でも覚えています。いまでも夢に君を見るくらいには。






















俺のあの人はよく泣くひとです。

今日もつまらないことで口論をしました。売り言葉に買い言葉、どちらもお互い傷付くことを知っていながら、わかっていながらも俺たちはそうなってしまう。似たもの同士、兄弟であると突きつけられているようで。彼が泣き出すまで、この戦争は長引くことが多い。結局耐えきれなくなった彼が出ていきます。それをひとり後悔と怒りと悲しみの気持ちで見送ってから、俺はぐったりと瞼を閉じるのです。




















涙はあの人の武器です。それを突き付けられてしまえば、俺はなす術がない。これがあまりに特殊で奇妙なことであると、もうずっと前からわかってはいました。俺はあの人には勝てない。雨の降るあの時も、銃口を向けたのは自分の筈なのに。君のしとどに濡れた表情ひとつで、引き金さえ引けない。出ていった後ろ姿を罵って蹴り飛ばすことさえ。腕を引いて引き止めることさえ。そんな魔力をあの人は持っているんです。こわいでしょ。





















そうして飛び出したあの人の取る行動なんて、容易に想像できてしまう。俺は何とはなしにその籠城する扉の前で行き場をなくして立ち尽くす。その間に聞こえる君のすすり泣きほど俺の心を揺さぶるものは、その瞬間この世にひとつとしてないでしょう。ずるいんです。どっちにだって非はあるのに。ごめんねと謝るのは、いつだって俺の役目になってしまいます。



















よく泣く人は強がりたがっている。どこかで聞いた言葉です。実際彼はどこまでも大人で、頭が良くて、優しくて慈悲深くて、それでいてとても子供です。泣くことの危うさをよくわかっていないんです。たとえその効力が俺にだけ現れていたとしても、堪りません。こうして丸みの綺麗な頭を撫でて甘やかす。悪いのは自分だったと折れてしまう。すると彼はどうかしら、ますますせきを切って涙をほとほと流すんです。軽い過呼吸になりながら俺の名前をよぶんです。






















ほんとうに、彼はこどもです。
そしてそれがとても愛しい。





















小さい頃聞かされたおとぎ話。寝ることが惜しいくらい聞き入る夜でした。あの人は話し方がとても上手でしたから。゛Don't grow up゛ある一節を読む君の声、甘いこえ。前髪をかきあげて頭を撫ぜてくれる。愛していると、離したくないと。当時夜泣きがひどかったと彼から後になって聞いたとき、それは大半君のせいだなと勝手に思ったものです。もう俺はあの時から君なしの夜は過ごせなくなっていた。neverlandが恋しかった。そうゆうことだったのだと思います。





















(あいつの弱点さ。まるでワルイコトをして叱られたみたいに小さなボーイ。その腕のあたたかさを俺は知っている。その大きさも、匂いも、感触も。俺がお前にできることはなんだ。美しく逞しく育ったお前に俺は何をしてやれるだろう。こんなふうにくだらない喧嘩で泣いたり笑ったり、怒ったり。せっかくの誕生日に寝込んだり、せっかくプレゼントを用意したのに忘れてきたり。そんな日々を。これからも。この先も。その先にお前がいるならば何も怖くはない。この体も症状も、愛していた証。楽しいことを思い出して。子供部屋の窓を開いて。ともに飛ぼう)



















(どうか入れて欲しい)
(そこしか俺は出入りできない)




















不思議な君。

不自由で不器用な人です。そんなに俺をいじめてたのしいのでしょうか。泣いたと思えば笑っている。怒ったと思ったら静かに微笑んでいる。しかしながらこの繰り返しの中で俺たちは生きています。君に与えた傷も記憶も、君からもらった過去も思いも、おそらく一生消えてはくれないでしょう。あなたの涙のように。あるいは照り映えるNYの朝日のように。射し込んでは美しく輝き俺を魅了することでしょう。その魔法で、その体温で、君自身で。























本当はこんなところで時間を食っている場合ではないはずで、すぐさま予約したレストランへ直行したいのですが。仕方がありません。夜の帳はもう降りました。さあ、君と俺だけの時間です。涙も笑顔も、その呼吸さえ渡してください。

























「今日は俺が君を抱きしめて寝るからね、ウェンディ」

























(00:00の朝を迎える、まどろみ)



























あなただけのこどもです、いつまでも。















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