●○7●○


二人は、真っ青な空を見上げながら
他愛もない話を繰り返していた。

虎之介は何時もなら避けて通る筈の
弟(リゥ)の話もしだした。

「蓮、俺がどうして“晴れ”が好きなのか教えてあげようか?」

「うん、そう言えば聞いた事無いね」

虎之介は空に手を伸ばし
何かを掴む仕草をして、静かに手を自分の胸におろす。

「リゥがさ「晴れている空を見れば、誰でもたちまち元気になるんだ!」って俺に言ったからなんだよ
幾ら泣いてても、悲しくても晴れている空を見れば誰でも元気って」

空を見上げながら、蓮は小さく笑んだ。

「小さいながらも、虎の弟らしいな」

ははっと虎之介は空で笑う。

「俺らしい…か」

静かに風が虎之介と蓮の
頬を撫でて行く。

「…リゥさ、母ちゃんの事守れてんのかな?」

「…守れてんだろ…リゥだって男だよ?」

虎之介は空から目を離し
蓮に笑いかけた。

「うん、そうだよな!」

蓮もそれに対して微笑み返した。







今日、虎之介が本当に笑ったのはこの時だけだった。






そして、虎之介は蓮に告げる。

「蓮……聞いて、俺ね生きたい
リゥに、母ちゃんに会いたい…
でもね、無理なんだ……
俺ね、今日の夜、死ぬの…
昨日、言われたんだ」

あの時連れ出されたのはその話をするためだった。

強く風が吹く
蓮は「ははっ」と声だけで笑うと飛び起きた。
飛び起きる反動でチラリと葉が舞う。

「…虎之介!!言っていい冗談と
言っちゃいけない冗談の区別ぐらい…」

虎之介は蓮の言葉を遮る。
そして、静かな低い声で虎之介はもう一度蓮に言う。

「ごめん、蓮
俺も冗談って信じたいけど冗談じゃないんだよ…」

虎之介もゆっくり起き上がる。

「…虎っ!」

蓮は目から溢れる物を止められず流し零し続けた。
同じく、虎之介も目を赤く腫らしながら蓮に向かって、また笑っていた。

「〜っ〜〜〜バカ、蓮が泣くから俺にも移っただろっ!
蓮のが年上なんだから
もっと兄さんっぽいところ見せてくれよな
最後くらい…」

蓮は「最後なんて言うな」そう言いたかったが全て涙に飲み込まれる。

「……あっ……うぅ……」

止まらない涙。
歪に笑っている虎之介。
その二人に反比例するかのように真っ青な空。
そして、虎之介は喋りだす。

「リゥと母ちゃんに謝っといてよ蓮
俺の代わりに…もう、会えないから
さ、蓮 笑おうよほら、空は晴れてる」

幾ら空が晴れていても蓮は笑えなかった
それでも蓮は上を向き、涙を拭き取った。
幾らでも溢れる涙。
止める事なんて、出来ない。

「………〜〜っ〜〜〜。」

虎之介はもう一度横になり
空を見上げる。

「蓮、約束をしよう」

「………どん……ひっく…な?」

蓮の声が、上擦る。
それに虎之介は笑む。

「俺の最後の約束」

蓮は一旦虎之介の方に顔を向ける
やっぱり、虎之介は笑顔。








「俺が死ぬ時には泣かないで?」













虎之介にとって最後の青空は
何色に見えたのか――――。














prev next


TOP



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -