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数ヵ月後。
蓮と虎之介の部屋2つ隣の仲の良かった子が殺された。



そう、殺されたんだ…。



連日、蓮の隣の毒ガス室から悲しみと苦しみの声が聞こえてくる。
蓮と虎之介は毎晩その声を嫌でも聞かなければいけない…。

今日も、聞こえてくる―――。

「……っ!」

虎之介は静かに蓮に近寄る。

「虎……大丈夫だよ……」

虎之介は必ずこの時だけは蓮にしがみついてくる
その間ずっと震えている。












声が聞こえなくなってから
虎之介は蓮の服を静かに掴んで言ってきた。

「俺等が死ぬのって何時だろう」

「!!」

虎之介の声はとても弱々しいものだった。
「なに言ってんだよ虎…僕と虎は此処を出て……」

虎之介は蓮の言葉を遮る、何時ものクセで。

「俺だって…馬鹿じゃないよ
もう…無理だよ、希望が持てないんだよ……蓮」

悲痛な虎之介の叫びに
蓮は涙が出そうだった。

「虎…そんな事言うなよ…」

話をしている時だった。
キィィ…と高い音を鳴らして蓮と虎之介の居る部屋の扉が開いた。

看守が三人立っている。

「なんの…ようです」

蓮は虎之介を庇うように前に立ち、看守を近付かせないようにした。

「お前に用はない……どけっ」

一人の看守に殴られ
頬に鈍い痛みを感じた。

「蓮!!」

二人目の看守は虎之介の手を掴むと
部屋の外に出そうとする。
それを阻止しようと蓮は虎之介に手を伸ばすが虎之介に触れる前に
三人目の看守に阻まれる。

そして、もう一発殴られた。

「離せっ……くっ…虎…」

虎之介は二人の看守に両腕を持たれ身動きが取れそうもなかった
仕方なく足を動かして前へと進む。

「……れ………ん……っ」

虎之介の顔は恐怖に満ちていた…。

虎之介が見えなくなったところで
蓮を掴んでいた看守が手を離し
蓮の部屋を出ていった。

バタンっと

軽い空気に音が響く。







響く







――――響く。





「……」

沈黙。

「……………」

長い沈黙。後、



「虎之介ぇ―――――!!!」



蓮は叫んでいた。



















ずっと蓮は考えていた
虎之介が居なくなってから。
だが、何も結論は出ないままだった。





虎、早く戻ってきて…
僕を、ひとりぼっちにしないでよ…
お願い……――――――。






気付くと、朝になっていた。

今日は晴。
小さな窓から当たる日光が眩しく蓮を照らす。
虎之介はまだ部屋には帰っていない。

目を開けた蓮の周りには無数の紙飛行機が散らばっていた。

近くにあった昨日の鈴から受け取った
紙飛行機を手に取り蓮は読み直す。

とても短い手紙。

「今日は何を書こうか…
暗い事は書きたくないなぁ…」

蓮は小さく溜息をついた。
小さな窓から漏れる太陽の光を蓮は目で見つめていた。

その時虎之介が看守と一緒に戻ってきた。

「蓮…」

……………笑顔で。




「虎!!!」

「蓮…ごめん1日…」

ははっと虎之介は笑いながら
頭を掻く仕草を見せた。

「大丈夫?看守になにかされてない?!」

「うん、大丈夫」

そう言って虎之介はまた笑う。
ただ、蓮は気付いてしまった。







虎之介の笑顔がとても歪だった事に…。









でも、蓮はそれに触れてはいけない気がしてただただ虎之介の頭を撫でていた。


















昼、いつも通り蓮は鈴に会い紙飛行機を飛ばした。
彼女は笑う。頬を赤く染めて。
それを見て、蓮も笑う。頬を赤く染めて。


蓮は、帰って行く鈴の背中を見つめていた。

(何時かこの人と喋れるのならば…)

鈴は今まで何度か開きかけた口を
蓮に止められている。
蓮が鈴の事を考えそうしてくれているのがわかっている鈴は日に日に
蓮と喋れる日を夢見ていた…が

(私には、彼と喋る資格が無くなってしまったわ……)

鈴は自分の“死”を知ってからは
喋ってはいけないと思い込んでいた。



鈴はチラリと蓮の方を見た
それに気付いた蓮は笑顔で手を振る。
鈴も、柔らかに笑って手を振り返しまた歩きだしていった。

そのやり取りが終った後に蓮は虎之介の所へ走って向かった。

今日は痛いくらいに晴れて空が青い。
雲なんて一つも無い。

こんな空の下で寝そべりながら虎之介は静かに空を見つめていた。

「ごめん虎、待たせて…虎?」

空を見ている筈の虎之介の瞳は
何も見ていないように蓮には見えた。
蓮の言葉にやっと気付いた虎之介は
蓮の顔を見ながら
空を指差し、こう言った。

「蓮…今日は空を…見ようよ……ね?」

そんな悲しい顔で…

虎之介はもはや笑えてもいなかった
蓮はその虎之介の顔を見るたびに悲しみを覚える。

けれど、蓮にはどうする事も出来ない
それが蓮にとってはもどかしかい。

空を見ていようと言った虎之介に対して蓮は小さな声で「サンセー…」と答えた。
虎之介と同じように
寝そべり空を見上げ
風を感じる。




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