●○4●○


蓮と別れてから少し、歩いた。
とても笑顔で、歩いた。
鈴は紙飛行機を持って足早に歩いていた
…けれどそれは最初の内だけだった。
直ぐに疲れてのろのろと遅い歩みに変わった。

「この頃疲れるのが早くなったわ…」

そんな事を思いながらも、鈴の頭の中は手紙の返事を考えるので大変だった。

「多分あの人は優しい人ね
私が何を書いても、上手く優しく返事を飛ばしてくれるわ」










それから雨の日以外の毎日、
蓮と鈴は手紙のやり取りをし合った。

手紙と言っても他愛のない物。

『今日は、物凄く楽しい事があってね……』
『貴方は、何時も何をしているの?…………』

そう、楽しい事。びっくりした事。
その日あった事。そう言う事を紙飛行機にまとめ、飛ばし二人は笑いあった。









手紙を書き出してから何週間。
寝ている時に急に寝ていた虎之介が唐突に蓮に言った。

「……早く此所から出れるのかな?」

蓮はぴくりと肩を振るわせると虎之介の方を向いて
にこりと微笑み言った。





「大丈夫、出られるよ」






今日は雨。大雨。
二人の気分はとても沈んでいる。

虎之介は蓮の言葉に対して
笑顔で頷きそのまま眠りについた。




虎之介が眠りに就いたのを見ていた蓮は
軟らかに、虎之介の頭を撫でた。

「ごめんな、虎之介…
僕って、嘘吐きかな…?」

蓮は知っていた。
何時か自由になれるなんて看守が言っていたけど
嘘だと知っている事を、、

此所に連れて来られてきた時から
蓮達は「死」の順番を待っているだけだと言う事を…。

「僕は、幾等…嘘をつかれたって、どんな嘘だって
あの子がいれば
全部本当になる気がした…でも…」

心の何処かで「嘘」を認める気持ちがある。
それも辛い。
蓮は近くにあった紙飛行機を見つめる。

あぁ、涙が止まらない……
虎が起きちゃう…

蓮は自分の口を手でふさぎ
声を閉ざした。

「……っ……ふっ………」

蓮は静かに沢山の床に広がる紙飛行機を触った。

『「僕とこっちに来て話そうよ」』

この思いは伝わらない…。

「伝わらない…伝えられない!
汚い僕とあの子じゃ…差がありすぎるんだ…」

声を殺しながら泣く蓮に
気付いてしまった虎之介。

「………れ……ん…………」

聞こえる筈のない声で蓮を呼んだ虎之介。
部屋の角の沢山の紙飛行機。
日に日に量は多くなる
虎之介の手元に落ちている紙飛行機に目をやると文字が見えた、虎之介はその文字から目が離せなくなり
虎之介も涙が零れた。
紙飛行機には『この手紙を書いている時が一番の幸せ』と書いてあったからだ。

ザァーと雨の音が部屋に響く。

虎之介は気付いた。
虎之介の生きる希望が家族なのに対して、
蓮の生きている意味、希望、幸せが「あの子」なのだと。

毎日あの子を見ている事が
蓮の明日への幸せなのだと…。

雨は嫌いだ…大嫌いだ
俺だけじゃない、蓮まで悲しくさせる…
雨が降れば外に行けない
蓮があの子に会えないじゃないか…
雨は嫌いだ……………

虎之介は涙を拭い
蓮の泣き声が聴こえなくなるまで
起きていた。















「今日は雨。大雨…」

せっかく手紙を書いたのに明日になってしまった…

そう思いながら、鈴は溜息をつき昨日もらった紙飛行機を読み返そうとベッドへ戻った。

  『君の手紙を読んでいたよ
   毎日君が楽しいなら、僕も楽しい
   君との手紙も楽しみだ』

鈴は蓮の手紙を読み終わると
そっと紙飛行機を抱きしめ頬を赤く染めた。

「暖かい…」

父は鈴の病室の前で、その様子を見ていた。

「あの手に持っているのは…手紙か?」

貰う相手などいないはずなのに…

父は鈴のベッドの上に紙飛行機が乗っている事に気付いた。
そして、鈴は手に持っていた手紙を紙飛行機にするともう一枚の紙飛行機を持って
開き、読み始めた。
そして、鈴は頬を再度赤らめる。

そして、父も思い出した。
囚人の中に一人、紙飛行機を持っていて
大切に読んでいる奴を。

「…これが…恋なのかな…」

鈴は言う。



「そんな…」

父は苦虫を噛み潰した顔をして
鈴の病室に入っていった。

そんな父の気持ちも知らずに
鈴は手元の手紙を紙飛行機を折る振りをして見せた。

「あ、パパ〜お帰りなさい」

父は鈴の事は見ていなかった
見ていたのは手紙だ。

「鈴、その手紙をパパに渡しなさい」

鈴はとても驚いた表情をしていた。
「どうして手紙とばれたのだろうか」と言ったところか…。

「嫌です!!この手紙は…」

鈴の言い訳を聞かないで、父は鈴の手から無理矢理手紙を取った。

「止めてよ!パパっ返して!
その手紙は私にとって大切な…」

鈴は、ベッドの上で父の手にある手紙をどうにか取ろうと暴れた。

「大切な手紙…」

鈴は恐怖を感じた。
父の手紙の内容を読み終わった顔が
今までに見た事のない程に怖い顔をしているのだからだ。

「鈴!この文通している子とはもう会っちゃいけないよ!」

「どうしてなの?!パパ!!」

鈴が父に疑問を投げ掛けても答えは返ってこない。

「こんな事をしているから…
病気が、どんどん酷くなるんだ!!」

父は持っていた手紙をぐしゃりと手の中で潰した。

「止めて!止めてよ!パパ」

父の手から丸まってしまった手紙をやっとの思いで鈴は奪い取った。
父は苦い顔一つもしなかった。
ただ一言

「もう会うな」

と、怖い顔で言った。
父は力強く扉を閉めると仕事へ戻った。

父の居なくなった病室は静まり
鈴の声だけが響く。

「パパ…どうして?」

鈴はグシャグシャにされた手紙を泣きながら広げる。

「どうして会っちゃ駄目なの?」

鈴の問いに答えてくれる人は此所にはいない
だから、鈴は鈴自身で答えを出すしかない。

「…………っ…………彼が、囚人だから?」

広げた手紙に涙が落ちる。

解らない、分かんない
どうして?なんで?

「私には、解らないよ…
私には、彼に会うのが…最後の希望なのに…」

鈴の暗い未来に光を射したのが蓮だった。
蓮の暗い道に光を射したのが鈴だった。

「私の、光を奪わないで…」

鈴は静かに泣いた。





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