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「こらっ鈴!(りん)
また病院を抜け出したな
駄目だと言っているだろう?」

「パパ…ごめんなさい」

鈴は毎日、病院を抜け出し
外に遊びに言っている。
鈴の病気は余り良くなく
外には出てはいけないのだが
まだ、鈴は遊びたい盛りの年頃 14歳なので
父も手を焼いている。

そして今日は父の仕事現場の近くへと来た時
空をぼんやり眺めている囚人に目を惹かれたのだ。
そしてずっと、柵越しにその囚人を見つめていた。

「パパ、私もうそろそろ外へ戻って走ったりしたい」

「鈴。パパもそうさせてあげたいが
鈴が毎日抜け出すからなぁ」

痛い所を突かれた鈴。
父は腕時計を見て苦い顔をした。

「鈴、パパもう仕事に戻らなければいけないんだ…
ゴメンナ、何時も何時も…」

鈴は笑って一枚の写真を出した。

「大丈夫よパパ
私にはママが居るから」

鈴が持っているのは
母の写真。
五年前、鈴の母は病気で死んでいる。
病弱な鈴の体質は母親譲りの物なのだ。

「うん、そうだったな 鈴
じゃあパパ行ってくるよ」

鈴は笑顔で手を振る
父は扉を開けながら、鈴に手を振り返す。

パタン

と病室に鳴った。

「私の大切な「鈴」
お願いだ、消えないでくれ…
奇跡よ、起きてくれ」

父は力強く歩いて行った。



鈴は思っていた

あの囚人は今何をしているのかな?
私と同じで多分する事が無いだろうな

「明日も彼処に行ってみようかな…?」

鈴はとても柔らかに笑った。


















次の日。
虎之介は「晴れたね、早く外行きたい」と
とても張り切っている。
雨の日以外は看守が毎日天気を伝えに来る。
今日は「晴れ」

外にいる時、柵があると言う事だけで
看守達は余り見ていない。
柵は以外と高く、針金には鋭い刺が付いているので
上まで上がる前に脱落する者が多い。
うまく脱獄出来たとしても、またすぐに此処へと戻って
誰よりも先に殺されてしまうから。

柵の外にいる者と話す事は
いけない事とされている。
勿論、外にいる者もだ。

…が、外には殆ど人は通らない
余り気にしなくても良いのだ。

「虎、僕、先に外に出てるよ?」

虎之介はOKと指で作っている。
蓮は虎之介より早く昼食を食べ終わったので
先に外へと行く事にした。

外に出て蓮は一番に気付いた。
柵の外、白いワンピースにピンクのストール。白い帽子。
ショートの黄色い髪の毛 蓮と色が似ている。
昨日見た、あの可愛い女の子。

「 あ 」

鈴は大きな笑顔で蓮を見た。
そして一つ礼をすると
帰って行った。

「……っ………」

鈴の笑顔に蓮は一目で恋に落ちた。
苦しく、切なく、胸を打つ鼓動。

「蓮、ごめん遅くなって…蓮?」

虎之介の見た蓮は頬を赤く染めて
俯いていた。
それと、悲しげな顔をもしていた。

「虎…僕、今日は部屋へ戻っ…」

虎之介は蓮の言葉を遮って言った。

「じゃあ、俺も戻るよ
何があったのか教えてよ?」

蓮は小さな溜息と一緒に虎之介の頭を撫でた。

「虎、人の話は最後まで聞こうな」

虎之介はニコニコしながら
頭を押さえて、蓮の後ろに着いていった。







「そっか、その子に惚れたんだ…」

虎之介に全てを話した蓮は
静かに頷いた。

「あっ、そうだ!」

閃いた!と虎之介は言うと
鉛筆と紙を持って蓮の目の前に置く。
蓮はキョトンとしながらも
虎之介の笑顔を見て気付いた。

「あの子に…手紙を書くの?」

虎之介は頷いた。
蓮は早速、鉛筆を握り書き出した

  『もし良かったら
    手紙の書き合いをしませんか?』

この短い手紙を何度も何度も
蓮は書いては消して書いては消してを繰り返して
やっと書き終わった。
そしてまた問題が出た。

「この手紙…どうやって渡そう…かな」

高い柵。喋れないという壁。
そして蓮はひとつの考えを出した。

「ねぇ、虎…この手紙を紙飛行機にして
彼女の方へ飛ばす…ってどうかな?」

虎之介は指を鳴らし

「ナイスアイディア!」

と大きな声で言った。








鈴は、今日抜け出した事は父にはバレなかった
ホッと胸を撫でおろしていた。
なかなか「バレない」と言った事は少ないのだ
鈴は、今日会った囚人の事を静かに考えていた。

「また、明日も会いたいわ」

この胸の高鳴りは何なんだろうか…

鈴は微笑んだ。








今日は曇り。
虎之介のテンションも曇り
そう蓮は思っていた。

対する蓮はワクワクしていた

またあの子は来てくれるのだろうか?
あの笑顔を見れるだろうか?
僕と文通してくれるのだろうか?

全部に?が付く程、蓮は不安とワクワクを持っていた。

昼。
昼御飯を食べ終わった蓮は
食べ終わってない虎之介に一言、言って先に外に出る事にした。
紙飛行機を持って…。

「空、晴れてきてんじゃん」

連は太陽の光で柵を見る事が一瞬出来なかった。
柵には、
あの子が立っていた。
昨日と同じ笑顔で。
ニコリ。
今日はちゃんと蓮が笑い返せた。
そして紙飛行機を渡す為に看守の目の届かない角へと
女の子を手招きした。

「あのっ!…」

喋りそうになった鈴を蓮は制止した。
喋りたいが、看守にバレてしまっては
蓮も、鈴も危ないのだ。
そして、蓮はにっこり笑うと
紙飛行機を指差して「飛ばすから受け取って」と合図した。
飛ばした紙飛行機はつぃと弧を描いて
鈴の手元に届いた。
蓮は「開いて」と また手でサイン。
鈴は謎めいた顔をしながらも、紙飛行機を開いた。

  『もし良かったら
    手紙の書き合いをしませんか?』

鈴は、頬を赤く染め
蓮を見つめると、笑顔で頷いた。
そして手紙を持って、蓮に手を振りながら帰って行った。
蓮は、鈴が居なくなるまで
手を振り続けていた。

「蓮、今の子か?」

蓮の真後ろで虎之介が
ボソッと呟いた。

「うわあぁ!!」

「あ、ごめん〜ビックリした?」

絶対悪気ないぞこいつ…

蓮は飛び跳ねた心臓を落ち着かせようと
何度か深呼吸をする。

「虎、居たなら別に出てきても…」

虎之介は言葉を遮って喋り出した。

「大丈夫、蓮の恋路はジャマしないから(笑)」

プチン
蓮の頭の中で何かが切れた音がした。

「毎回、毎回 人の話は最後まで聞けって言ってんだろ―――!!!」

あぁ、まったく…

蓮は笑顔で、虎之介の頭を撫でた。













蓮は夢を見た。
真っ暗な真っ黒な夢。
暗すぎて、闇すぎて、蓮がひとつ思った事は

「僕、みたい」

暗いんだ…。
暗いのは嫌だ…。

「蓮…怖い…」

虎が泣いてる…
虎?

「虎?僕は此処だぞ?」

横になっているのか
立っているのか、それさえも分からないくらい暗く、寒い所。

其処に、
輝く一本の道が出来た…
虎之介は道の先で笑っている。
そしてその光の先で笑っているもう一人の娘(こ)
手紙を渡した女の子だ
暗い、蓮の未来にその女の子が照らした道を蓮は通って行く。
止まらない。
















「………………夢……」

蓮にとって、とても長い夢。
夢から覚めた蓮の横で虎之介が良い夢を見ているのか
笑っていた。






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