●○14●○




カチリと時計の針が進んで行く。
もう、夜なのだ。未だに雨はやむ気配が無い。
看守の近付く足音がする。

蓮の番が来た――。

「さぁ、来い」

「…………。」

虎之介の時の看守がよかったな…等と蓮は考えていた。
あの娘の居ない今、蓮は「この世に未練は無い」と思っていた。
毒ガス室の扉は重そうで、太い。

「入れ」

ドンと背中に鈍い痛みが走る。
すぐに扉は閉められ、真っ暗な世界。
シューと乾いた音が鳴る。
蓮は静かに喋り出した。

「いって…あの看守…」

看守に部屋に入る時に思いっきり飛ばされ膝を打った。
じんじんと痛みが響く。

「虎の言ってた通りだ、暗い」

ポツリ、ポツリ言葉を紡ぐ。

「別に…僕には何も無いけど
でも、もう少し…生きたい」

蓮は目にいっぱいの涙を溜めて、喋り続けた。

「難しい気持ちとかじゃなくて、ただ最後に…君に…」






会いたい―――――――――――――。








「っ―――!」

鈴と過ごした日は戻らずに、蓮の頭の中で走馬灯のように蘇る。

初めて会った時の、あの笑顔。
恋をした事。
紙飛行機で文通をした事。
手紙で「楽しい」と言ってくれた事。
毎日、毎日が君でいっぱいで
いっぱいすぎて溢れそうで…
一つ一つが君に貰った宝物。

「それが僕の…けほっ、生きる糧になってたんだよ…」

ヒュウヒュウと喉の奥で息が空回る。
上手く息が出来ない。上手く喋れない。

きみは、闇が渦巻く、雑草の側に咲いている綺麗な、とても綺麗な一輪華…。

つぅ、と蓮の頬に涙が伝う。
冷たい床に手をついて、喉を手で押さえる。
蓮は、血を吐いていた。

「げぼっ…うっ…生きてく、世界が違った……んだ…」

蓮は、ゆっくり倒れた。
倒れて、か細い息をしながら目を開けると、側には紙切れが落ちていた。

『あぁ、あれは、紙飛行機の破片か…』

涙が零れる。
手を伸ばしても届かない、
あぁ、届かない――――――――。
あの娘と別れた時みたいだ。

蓮は少し体をずらして
紙飛行機の破片を掴んだ。

「はっ、はっ、はっ………」

蓮は、喋る事も辛くなっていた。


















「鈴…」

父が急いで病室に戻ると、鈴はもう喋る事も、体を動かす事も出来なかった。
その中で鈴は考えていた。

『お迎え、もうすぐ来るのかな…?』

つぅ、と涙が鈴の頬に伝う。

「鈴?」

父はそれに気付き
心配そうに、鈴の側に近寄り手を握り締めた。

『あの時の別れ際に強がらなければ良かった…
強がらないで、後ろを向いて彼に喋りに行ってたら…
強がらなければこんな気持ちにもならなかったかな?
でももう…遅すぎた……』

鈴の手を握ったまま父は座る。
鈴は頭の中が蓮でいっぱいだった。

『今も…何処かで笑う貴方に…会いたい―――――。会いたい』

父の握っていた方じゃない手から握っていた紙飛行機が落ちた。

カサリと

「?―――!!」

何かと思って落ちた物を見た
父は娘の握っていた物を見て、愕然とした。

「鈴、お前……!」


















蓮は、掠れる声で喋り続けた。

「…お願い…もし、これが最後なら…僕をあの娘と話を…させて」

蓮の声は暗く狭い部屋にただただ響くばかり。
蓮はもう、声も出せなくなっていた。
けれど、紙飛行機の破片を握る強さは変わらない。

『胸も、息も苦しい…せめて…』

蓮は最後の力を振り絞って、立ち膝になった

『せめて、君の名前だけでも…』

「知りたかった…」

そう言うと、パタリと倒れて、蓮は二度と動かなくなった。
看守が蓮を運び出す際、片方の手が開かない事を不振に思ったがそこまで気にする程ではなかった。










2人のある看守が蓮と虎之介が居た部屋で歩みを止めた。
その瞳には涙を溜めて、大量に残された
紙飛行機に向かって一礼をして
その場から離れていった。

















父は鈴の手に紙飛行機を握らせようとした時
握らせる前に父が鈴から最後の言葉を聞いた。

「会いたい」

父はくしゃくしゃの顔で鈴を見つめた。
そして、紙飛行機を握らせると鈴はにこりと微笑んだ。

『そう…私はお花。光が当たらない場所に咲いたから枯れるのを待つだけのお花。
でも、彼に会って私に光が当たったの』

「鈴…」

『お願い、これが最後なら行かせて、貴方の元へ――。』

父は小さく鈴に向かって呟いた。

「ママに会ってこい、恋もちゃんと…」

どうか、この子の恋を叶えてやってくれ…


ピ――――と無機質な音が部屋に響いた。








貴方が居たから ずっと私は
君がいたから ずっと僕は
笑顔をわすれずにいられたんだね
深い闇が二人を切り裂いてしまったけど…
深い闇がまた巡り合わせてくれました。

















また明日
同じ場所で…会えますように…。






















prev next


TOP



「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -