●○10●○


少し、前の日。鈴は父親に「生きては此所を出られない」と伝えられた。
心が、崩れそうだった…。
何のために苦しい治療や外で遊ぶのを我慢したのか、と
鈴は、ずっとずっと考えていた。蓮とのこれからを
そして、考えて、考えて、考え抜いた後に鈴は思った。
「あの人には心配をかけたくない。」と
だから、さよならって、遠くに行くから二度と会えない、震える手を押さえながら
溢れる涙を紙に落とさないように拭いながら…そう手紙に書き留めた。
前より歩きにくい足、見にくい目、遠い耳…。どれも、邪魔で仕方がなかった。

「彼に会うための足が動きづらい」

「彼を見るための目が見にくい」

「何時か…彼の声を聞くためのこの耳が遠い…」

鈴は静かに自分自身をきつくきつく抱き締める。
二の腕に少し朱の色が滲む。

そして、少ししてから
手紙を届けるために鈴はベッドから立った。

「今から行くね、伝えに行くね…」

ドアに手を掛けた時、父が入って来た。
鈴は手に持っていた紙飛行機を後ろに隠したつもりだったが父には全て見えていた。
そんな鈴の姿を見て、父は愕然とした。
ひっしと鈴の肩を掴み離さない。

「鈴!!何処へ行く!!」

「……お願い、通してパパ」

鈴は掴まれている肩を
振り払おうとするが全く動かない。
鈴の力が弱くなったのか、父の力が強いのか。

「…鈴!パパは知ってるんだ…鈴がずっと無理をして
その手紙を届けている事……
……鈴?鈴はもう、歩けない!」

力強く父は言う。
負けない程、鈴も語調を強めて言う。

「行くの、私。まだ歩けるよ!
あの人の為なら歩けるの!動けるの!!
この手紙を待ってる人がいるの!!」

そう言った、鈴を父は「だが、」と続けようとしたが
無駄だった、鈴は父が狼狽えた一瞬を見逃さず手を振り払うと、最後の力で走った。

「鈴!!」

必死に走る娘を父は止める事が出来なかった。

「あの子が此処まで必死なのを初めて見たな……」

父の目に涙が溜まる。
じわりじわり溜まり、一筋流れた。

父は胸ポケットから妻の写真を取り出し
抱き締めるように抱え込む。

「ディア…やはり君も寂しいのかい?
僕だって寂しいのさ、ディアを病気で亡くして必死でわけの解らない育児と家事をこなしてディアの愛がわからなくて
次は鈴が……………
僕がそっちに行くから、鈴は…
鈴の未来は奪わないでくれ
僕の未来に…鈴を残してくれ
ディア……っ…」

父の心もまた崩れそうだった。

窓から入る風に濡れた頬が撫でられ涼しい。

「ディア…」

ピロロと父の携帯がなった。
仕事のメールが入ってしまったが
父はメールを無視して、鈴の帰りを待った。










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