●○8●○




夜。7時50分。
虎之介の処刑の時間は8時ジャストから
もう残り時間は短い。

「…蓮、ありがとう」

蓮は虎之介に「え?」と小さく聞いた。

「友達でいてくれて」

「虎…之介」

「俺ね、蓮が友達じゃなかったら
人生の半分は損してたと思う(笑)
それぐらい蓮と居るのは楽しかったし
毎日が宝物だったんだ」

虎之介が照れながら笑う。
それに対して、蓮も照れて顔が赤くなり笑いかえす。

「僕も、虎が友達でよかった
これからも友達でいてね」

それを聞いた虎之介は歪な笑顔に戻る。


あぁ、虎にこんな顔をさせたいんじゃないのに…


その時
コツンコツンと、この部屋に向かって歩いているであろう
看守の足の音が聞こえた。

それを聞いた二人は
一気に青ざめる。

虎之介は勢いよく
蓮を力強く抱き締めた。

「〜///!虎っ?」

「蓮、大好き…ありがとう、ありがとう
感謝しても、しきれないけど…」

コツンコツンコツン……ピタ
看守が部屋の前で止まる。
ドアが嫌な音を出して開く。

「時間だ」

若い二人の看守は虎之介の腕を引っ張って行く
虎之介は首だけ蓮の方に傾ける。

「蓮、バイバイ」

また、嘘の笑顔で――――。











あぁ、もう、無理








「…て?」

蓮はぼそっと呟く。

「蓮?」

蓮の目に涙が滲む。

「どうしてっ!!!!
どうして、僕等なんだ?!!
どうして、虎之介なんだ?!
どうして、虎之介は死ななきゃいけない
僕等は何もしていない!!」

蓮は気付けば看守に言っていた


僕が足掻いたところで何も変わらないかもしれないけれど
けど、何もしないではいられない
どうして、最後の最期まで虎之介は辛い顔をしなきゃいけないの?


蓮は今にも看守に掴みかかりそうだった。それを止めようと虎之介は必死に叫んだ。

「れ…蓮!!いいから、もういいから!!」

虎之介は叫ぶ。

「良くないよ!!!
いったい何が良いって言うんだよ?!!
虎、お前悔しくないの?
何もしてないのに殺されるんだよ?!!」

「…テメェ…っっ……悔しいに決まってんだろ、このっバカ蓮!!!
俺の気持ちぐらい察しろ!
蓮はまだ生きられる
なのにわざわざ命を短くしてどうすんだよ!!!!
俺は、蓮に生きててほしいから!!!
だから、もういいんだ!!!」

看守がいる前での暴言は“死”の時間を早める事を意味する
虎之介は蓮には生きてほしいと必死に訴えた。

今まで二人は言えなかった事(言葉)が狭い部屋に飛び交う。

蓮と虎之介の言い合いが止んだ時。
虎之介の腕を持っていた二人の看守が



泣いていた。



「ごめんな…」

看守の一人が、虎之介の頭を撫でた。
蓮も虎之介も何がなんだかわからない様子だった
二人は顔を見合わせた。

もう一人の看守が喋りだす。

「お前らみたいなガキを殺すなんて
俺等は聞いてなかったんだ…
迫害されるのは大人だけで、子供は皆売られていくと話を聞いていた」

続けてもう一人が喋る。

「だが、この収容所に来てみればほぼ毎日毎日仕方なく子供を
殺して、殺して、殺して………っ
出来るなら今すぐ自由にしてやりたい
けど、此所の収容所より良い場所なんて無いそれにバレて殺されるより
自由な時間を多くとって幸せに死ねるほうが……うっ……」

喋っていた方の看守は泣き崩れていた
その代わりにもう一人が喋り出す。

「俺等も上には逆らえない、ただの下衆だ
逆らえばそこに待っているのは“死”
お前の言ってる事は正しいな…
どうして、お前達ガキが俺等よりも先に死ななきゃいけねーんだろうな
悪い、許してくれとは言わねぇ
だが、しっかりお前達が生きていた事は俺等が忘れない
死んでも胸に刻み続けよう」

蓮は、涙を必死にこらえた

「そんな事…思ってる人も居たんだ…」

虎之介は蓮に言葉を掛けた。

「蓮、俺少しは怖くなくなった気がする」

「虎…」

遠くの方で声がする。

「〜〜〜お前等なにやってる
処刑の時間を5分46秒過ぎている早くしろ!!!」

その声を聞いた虎之介は
看守に微笑みかけた。

「看守さん…毒ガス室入ったら
俺、蓮と喋りたいから少し遠くに居てください」

二人の看守は頷きそして「すまない」と言ってからもう一度歩き出す。
虎之介は首だけ蓮の方に傾ける。

「蓮、ありがとう行ってきます」

虎之介は笑顔だった気がする
涙で滲んだ蓮の瞳には
虎之介がどんな顔をしているかなんてわからなった。

蓮は深呼吸を繰り返す。

虎之介の背中が見えなくなってから
静かに三人に礼をした。


静かな部屋に残る
看守の涙の後を、蓮はしばらく見つめていた後
毒ガス室に繋がる壁に近付いた。




prev next


TOP



「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -