七夕-奇跡の届く日-


隣の小さな手を握りしめ
ぼくは空に向けて指を指す。


―――誰にもわからない
――――ぼく等、二人の思い出だ。

















『蘇らせ屋、無料』

こんな不思議な看板を下げてる店に
宙翔(ひろと)は入っていた。
気付けはふらふらと足が勝手に進んでいた。
占いの店のように雰囲気が暗く
そのせいか空気もじめじめとしている気がする。

「貴方の蘇らせたいものは何ですか?」

その店の主人なのだろうが、部屋の暗い場所に居て
上から下までぼんやりとしか見えない。
宙翔にすっと伸ばしてきた手には
七夕の短冊が握られている。

「短冊?」

「それに蘇らせたいものの願いを書きなさい。
その短冊は「蘇り」にしか効きませんので…
それから、その願いの叶う期間も明後日の昼間から夜まで。12時間
願いを書いた短冊をこの店にある笹に吊るして帰って下さい。
以上です。」

それをいい終えた主人は
静かにすっと居なくなった。いや、本当は座っただけで居るのだろうが
気配がなくなったのだ。居なくなったの方が正しい。

宙翔は半信半疑のままその短冊に蘇らせたい願いを書いた。
宙翔にはどうしても叶えたい願いがあったからだ。
きっとそれは誰にも叶えられない願い。

宙翔は店の中にあった笹に短冊をくくりつけ一礼をして店を出た。

『雅にもう一度会いたい。宙翔』










ぼくの初恋の相手、雅(みやび)。
ぼくが骨折して入院していた時に出会った女の子。
雅は体が弱く、昔から病院内の生活しかしてこなかったと教えてくれ、それからと言うと
ぼくは退院した後もほぼ毎日の様に病院に行き外の話を雅に聞かせた。
そんな雅には夢があった。

『私ね、何時か天の川が見てみたいの』

ぼくはすかさずに答えた。

『今度見に行こう!体を善くしてぼくと見に行こう!』

その時の雅の笑顔は忘れられない。



ある日、何時ものように雅の居る病室を開けると
雅の居た筈のベッドは真っ白で
雅の叶えられなかった小さな夢と
雅との約束が守れなかった悔しさに
ぼくはただ、ただひたすら泣いていた。






それから1年がたち七夕の季節が近付いた。
今年は七夕の日が快晴で天の川が見られるかも知れないのだ。

七夕が近付くにつれ
雅と見たい気持ちが抑えられなくなった












「貴方の願いを聞き入れましょう」

















7月7日。15時30分

何時も通り学校へ行って、家に帰ったら…………………。
雅がいた。

「み…………やび?」

驚きのあまりぼくは持っていた鞄を自分の足の指に落として
悶えた。

「いってぇ!」

「宙翔ってば、おっちょこちょい」

クスクスと
ぼくの目の前で雅が笑っている。
これはあれか?一昨日行った『蘇らせ屋』のせいか?
だったら時間が無い。
7月7日が終わるまで9時間30分しかない

「雅!雅の願いを叶えに行こう!
病院じゃない外を歩こう、………天の川を見よう!!」

自分でも可笑しいくらいにテンションが高い
雅の手を繋いでぼくは喜びを噛み締めていた。

「雅…天の川見れるの?」

「そう!見れるんだ!
何があってもぼくが居るから」

喜びに舞い上がりながら
僕は学校の屋上に向かった。

その学校までの間
雅が行ってみたかったゲームセンターや
本屋。ファーストフード店などに立ち寄った。

そして学校に着く頃には
薄暗くなっていた。


―――残り時間、5時間。


そこから学校内の案内に移った。
体育館、音楽室、生物室……
そして、僕の教室。

「宙翔の教室がここね?
わぁー、黒板ってこんなにおっきいのね
宙翔の席はどこ?」

教室に入るや否や
雅はきゃあきゃあと喜んでいる

「僕の席はここ」

廊下側の前から二つ目の机に座る。
それを見た雅はぼくの机の隣に寄ってきて
静かに言った。

「隣の席に座ってもいい?」

頬を赤く染めながらそんな事言うもんだから
ぼくは声を裏返しながらどうぞと呟いた。


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