―――3―――


「何が綺麗なの?」

後ろからすっとんきょうな
知聡の声がする。
僕はびくりと肩を震わせ振り返った。

「お…ま、待ってろって言ったじゃんか!!」

知聡は勝手に入ってくるやいなや
どかっと、僕のベットに座ってる。
僕は慌てて開けていた窓をぴしゃりと閉めた。

「何が綺麗だったの?俺にも教えてよ」

少し、口ごもる。

「……さ…桜だよ桜!
そんな事より、なんだお前人ん家乗り込んできやがって!」

どうにか話を変えたかった僕は
慌てながらも、知聡の隣に座った。

「ん――〜会いたかっただけ
それだけだよまじで」

へらへらと笑って喋っている知聡に少し呆れながらも
僕も小さく笑い返した。
舞桜の事はばれてないみたいだ。

……………そう言えば
バレるも何も見えないんだっけ…

安堵した僕はやっと、知聡のペースに慣れてきた。

「そう言う言葉は彼女に言ってやれ」

「俺、彼女いないもーん」

ははっと軽く笑った僕の頭を
知聡が何故か荒く撫でて?きた。

「明日でも会えんじゃんか…」

そう、僕が言うと
真剣な顔でこちらを知聡が見つめて来た。

「今日はありがとう、それからごめん」

知聡は小さく頭を下げる。

「知聡……」

まさか、知聡に謝られるなんて思ってもいなかった僕は
どうしていいのかわからず
おどおどしてしまった。

「………でも」

濁ったような、突き刺すような
そんな声で知聡が僕に聞いてきた。

「本当にあの屋上に清水を眠らせた犯人は居なかったんだな?」

僕の心に静かに響いた。知聡の声。
ぼんやりと平然に僕は親友に嘘を答えた。

「うん。居なかった
清水だけ、後は学校側に任せよう」

嘘を…。

「でも…」

僕の言葉[うそ]が止まらない。

「きっと、碧空委員長の僕になんか妬みとかある生徒の仕業とか…じゃないかな?」

胸がざわざわと落ち着かない。
何故だろうか、舞桜が居た時には無かったざわざわ。
知聡が桜の闇を纏ってきてしまったんだろうか…。

「そ…か
わかった。輝翔がそう言うなら
信じる。俺の碧空委員長」

「うん…」

どうしてこんなにざわざわ。
……………嘘?
知聡に嘘を付いたから?
嘘が闇を引き寄せているのか…。

知聡はそこでベッドから立ち上がった。

「それが聞きたかったんだ
悪かった疲れてるのに押し掛けて
でも、俺には隠し事無しだからな?
じゃあ、帰るな。また明日…」

知聡には嘘付いてるってバレてるのか………?

「バイバイ…」

玄関の閉まる音が聞こえ僕は
ベッドに突っ伏した。
夜と言う事や嘘を付いてしまった事や
舞桜との話で、悶々としてしまったからなのか
心がざわつく、苦しい、辛い。
僕の少しずつ息が上がってゆく。

「……舞桜」

名前を読んで返事が無い事くらい分かっている筈なのに無性に悲しかった。

「……舞桜」

もう一度。

「…………舞桜」

消え入りそうにもう一度。

誰も居ないし誰も来ない。
僕は静かに瞳を閉じた。
閉じた時に一粒何かが零れた。

この、悲しみも、苦しみも
明日になったら桜に行き、僕の苦しみを桜へ移してしまうなんて…

その時、窓からふわりと柔らかな風が吹いて来た。

「…輝翔?」

凛と透き通る声。
僕は静かに瞳を開けた

「…」

何も言わずに察したように舞桜は顔を強張らせると
ベッドに突っ伏していた僕を抱き締めた。

「辛くて悲しくて…でも、舞桜の光………」

僕を一生懸命包み込む小さな体の大きな暖かさを感じながら
僕も、舞桜に手を回し抱き締め返す。

「…今は、暖かく優しい」

「…輝翔の光も混ざってますから」

再び、僕は瞳を閉じる。

「………そ、か」





そのまま深い眠りに落ちた。
耳元で舞桜の息遣いが聞こえた気がした。










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