―――桜の木よ―――


走って行った桜の木の下には
舞桜がちゃんといた

舞桜が僕の姿を確認すると
とととっと軽い足取りで僕の方に走って来る

「夜になってしまう前に会えてよかったです…
輝翔…闇は怖いでしょう?
私、心配していたんですよ…」

舞桜は優しい
舞桜の言葉に頷く。
それから舞桜は、「今日は八尋がごめんなさい」と僕に小さく謝った。

「舞桜は悪くない
あれは、舞桜のせいじゃないから」

舞桜は静かに頷いた。
僕は冷えかけている外の空気に
肩を震わせる。

「舞桜、心配してくれてありがとう
家の中に入ろう舞桜も僕も冷えちゃうから」

家に入ろうと僕は舞桜に促したが
舞桜が何故か動いてくれない
舞桜は桜の木を眺めていた。

「舞桜?」

舞桜の名前を呼んだ時強い風が吹いた
桜の木が揺れて
花弁と花弁が当たりあい
不思議な音が鳴り出す。

「桜が鳴いてる…」

僕は何を言うんだろ…
そう、でも確かに鳴いている

ざわざわとした音じゃなかった



そう……これは恐怖だ…。



僕は、桜の木をひたすら見つめていた

「恐怖………」

僕が呟くと
舞桜は手を握った

「うん。もう大丈夫です行きましょう輝翔」

舞桜はそう言うと歩き始める。

「え、え?何が大丈夫?
ちょ、待って舞桜!!」

舞桜は気付いてるのかな?
僕と繋いでいる手のひらに
桜の花弁か挟まっている事。

「……」

多分わかってないだろうな…

舞桜ってわからないや…
















「ただいまぁ」

僕が言う
母さんはキッチンから

「お帰り〜」

と、軽く返してきた
舞桜は僕の手を離さないまま
僕の手を引っ張る。

「早く、輝翔の部屋へ行きましょう」

何時になく焦っている舞桜に
僕は?マークを浮かべながら
舞桜の言葉に頷いた。

その時
手のひらの間にある桜の花弁が動いた気がして
舞桜の手を強く握り返した。






「舞桜どうしたの?」

「今日はわかりませんでしたか?
今日の桜の木の気持ち…」

舞桜はまだ手を離さない

「うん、聞こえたよ
あの桜の木は「恐怖」を訴え鳴いていた」
「そう…」

そんな事を考えていると
舞桜が僕の手をやっと離した
ひらりと間にあった花弁が落ちて行く
その様子に僕は何か寂しさを感じた。

「今日の桜の木は強い「闇」恐怖を感じていたから
あまり桜の木の「恐怖」にあたれば
貴方にも恐怖が移ってしまうから…
だから急いで帰ったんです」

なんだ、だから焦っていたのか
僕が納得した後

舞桜は喋り出した

「あの、桜の木は助けを求め始めています…多分、深淵の仕業でしょうが
桜の木は闇の力を吸ってしまっています…」

僕は昨日気になっていた事を
舞桜に聞いた。

「昨日、僕を堕とそうとこの桜に細工をしたって言ってたじゃん
その細工を直せば桜の木は元に戻るの?」

舞桜は少しだけ考えた後首を横に振った

「元に戻れる事は無いです
けど、その後の輝翔の感じる悲しみや苦しみを
桜の木が吸わなくて良くなるわ」

元に戻る事は無い
思った以上に僕の胸に残る言葉だった

「でも僕を堕とす為に桜の木に細工をしたなら間違いじゃないか?
だって、僕の感じた苦しみや悲しみを桜の木が吸ってくれている
僕には「闇」は残らない」

「そうじゃない」と舞桜は首を横に振る

「そうじゃないわ
あの桜の木はもう限界なんです
あの桜の木が枯れてしまったら…
今まで貯めていた悲しみや苦しみは
すべて輝翔に返ってきてしまう
その時輝翔はそ「闇」に耐えられない」

僕は少しだけぞくりとしたそれが舞桜にバレたのか
「落ち着いて」と柔らかく声を掛けられた

「じ…じゃあ、桜の木の闇を解いた時
今まで感じてきた桜の苦しみを緩和してあげる事は出来ないの?」

舞桜と気付けは話し合いになっていた
此処まであの桜の木を気にするのは何故だろう

「まだ解らないんです、まず
桜の木の闇を解かない事には」

僕が少し項垂れていると
舞桜は小さな声で呟いた



「まだあの桜の木は枯れるわけにはいかないんです」





その言葉は僕の耳には届かなかった。





舞桜は一呼吸おいて
僕を見つめた。

「桜の木を助けて」

真剣な眼差しで舞桜は言う
その眼差しを受けた僕は静かに頷く。

「うん、助けよう
僕が助けないと駄目だよ」

そう、僕の苦しみ悲しみを吸っているなら僕が助けなきゃいけないんだ。

「ありがとうございます、輝翔」

舞桜は僕に可愛く笑いかける
僕も、舞桜に笑い返していた。









prev next

- 22 -






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -