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………



「…ぱい…………」


誰かの声がする。

「…巫先輩!!」

僕はその声に導かれるように
目をゆっくりと開けた。

「…美谷?」

僕を呼んでいたのは
演劇部、後輩の美谷 暁【みたに あかつき】
とても、ほっとしている様子だった。

「巫先輩、良かった…
委員会議室に用事があって来たら
巫先輩が倒れていたから…
私、死んじゃったかと…」

死んじゃったって…
勝手に殺すなよ

目に涙を溜めて何度も「良かった」を繰り返す美谷に
何故か笑みが零れた。

「あ、先輩酷いですよ!
私、本当に心配したのに!
ねぇ、先輩どうして倒れていたんですか?」

美谷にそう聞かれた僕は
バレそうなしょうもない嘘をついた。

「あ、えっと
昨日徹夜しててさ、昼休みに委員会議室でやる事があって
椅子から立った瞬間立ち眩みと眠気で…そのまま…えっと…」

僕、必死すぎ(笑)

だけど美谷は天然だから、僕の嘘を見破る事なんて出来ない。

「そうだったんですか…
でも、気を付けて下さいよ…
倒れている事には変わりはないんです
打ち所が悪かったら…」

僕は、本当に美谷の事を心配させてしまったみたいだな…

「ごめんね、美谷
有り難う、起こしてくれて
今、何時?」

「今は、丁度五時間目の休み時間です」

「有り難う」

美谷の頭をポンッと軽く叩いて
僕は立ち上がった

委員会議室から出ようとした時
美谷に呼び止められた

「先輩、このケータイ
巫先輩のですよね?」

両手のひらで可愛らしく「はい」と美谷は渡してきた。

美谷の手からケータイを取ると
一つお礼をして廊下に出た

僕はケータイを開き、気を失う前に
来ていたメールを確認する


―――――――――――――
■高梨 知聡
■ごめん
―――――――――――――

メールの返信遅れてごめん
今日、学校行けない理由があ
ってさ…

清水…いる?

居たら、至急俺に連絡よこす
ように言って!

返信待ってる!!




―――――――――――――



学校に行けない理由を教えろよ
でも、何で清水なんだ…

二人して学校が休み
しかも、知聡はとても焦ってる感じのメールだし

僕は胸の中に靄がかかった気分だった
メールを打つのが億劫になり
知聡に電話をした

足は教室には向かわず
何故か正門昇降口へ向かっている
高校生活初の“サボり”をしようとしている

「なんだか、犯罪を犯している気分だな…」

それほどまで僕にとってサボりはいけない事なのだ
碧空委員長がサボるなんて言語道断。だからな…

知聡は電話になかなか出ない…
何度目かのコールの後知聡は出た

『はい…どうした、輝翔?』

電話口から聞こえてくる
すっとんきょうな声

「どうしたじゃないよ!
知聡は今何やってんの?お前も休み清水も休みいったいどうなってんの?」

電話口の向こうで、知聡が固まるのがわかった

「知聡…お前ひょっとして、清水の居場所知ってんじゃないのか?」

厳かに知聡は口を開いた

『………知らねぇから探してんだろ』

知聡の言葉に驚いた僕は、歩みを止めて知聡に聞き返していた

「…探してる?一体誰を…?」

答えは解っているのに聞き返してしまう
僕は、馬鹿なのだろうか?
そして、知聡はもう一度溜息混じりに言った

『清水だよ…』

「清水に何があった?」

『お前には関係無いから授業に戻れ』

もうサボってますよ…

それは告げなかったが
知聡の言葉にはムカついた

「関係無い?何言ってんの、お前」

関係無い訳がない
清水は仲間だ、知聡は親友だ
双方に何かがあったら僕は…。

『碧空委員長に迷惑かけられないだろ?』

そう、知聡は優しい声で言った。

「そっ…そんな理由でお前!!」



ブッ…ツーツーツー



知聡は勝手に僕との電話を切った

「あのやろ…!」

僕が「碧空委員長」だから迷惑をかけられない?
意味がわからない
僕は「碧空委員長」だから頼られるんじゃないのか?




僕は、初めて知聡と僕の間に“壁”と言うものがある気がした




正門の前でどうしたら良いかと考えていると
桜の花弁が僕の横で舞った

それだけで僕はなんの根拠も無いのに
“舞桜が来た”と思った

「舞桜…」

やっぱり、舞桜は姿を現した

「輝翔!」

どうしてだか、舞桜に会った途端に力が抜け
地面にへたりこんでしまった

「輝翔…どうしたんですか?」

「いや、舞桜の姿見たら力が抜けちゃって…あはは」

舞桜は心配そうに黄色の瞳で僕を見るけどそんなに見られると…
照れる……

でも、照れてもいられない

舞桜はスッとしゃがんでいる僕に向かって手を差し出す
僕はその手を掴み立ち上がり
舞桜に言った

「舞桜に手伝ってもらいたい事があるんだ」

僕は、知聡を清水を探さなきゃ

舞桜は何も聞かずに
頷いてくれた

















「と、言うことは何処に居るか分からないんですよねお二人共」

「そうなんだ…でも多分知聡は大丈夫
清水のが心配で…」

僕は今までの経緯を簡単に舞桜に喋った
そして舞桜には清水と知聡の写真を見せて上から探してもらう事にした

舞桜には驚かされる事ばかりだ
今回は、空を飛んでる
でも何故か舞桜が飛ぶ姿は
とても美しかった。

「舞桜!二人を見付けたらどうにか僕を呼んでね!」

「わかりました」

ふわふわっと軽やかに飛んで行く。

僕は、知聡の行きそうな
清水の行きそうなそんな場所を次々にあたる事にした

勿論、走って。













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