―――4―――




委員会議が無事に終わり
僕と、知聡が委員会議室で書類整理をしている時だった。

委員会議室の扉が勢いよく開いて
演劇部顧問がやって来た。

「高梨君ちょっと良いかしら?」

高梨は知聡の名字だ
昔、『美味しそうな名前だろ』と知聡は言っていた。

「どうしたんすか?先生?」

京子先生、演劇部通称「鬼」
演劇の事に関すると
めちゃっくちゃ厳しい。

そのぶん、部活が終わると喉を傷めないようにと
必ず、のど飴をくれる優しい一面もあったりする。


「俺、何かしましたか?」

知聡は恐る恐る聞いてみた
そう、何故か先生は
演劇をしている時の鬼の顔なのだ

いや、ちょっと先生
その顔は怖いよ(汗)

そして京子先生の表情が
ころっと変わったかと思えば…

「ごめんなさい!
二人に頼みたい事があって」

「いや、先生、それだけでそんな怖い顔しなくたって!」

ほっとした知聡は
手を横にブンブン振る。

あ―、知聡
僕、先生が怒ってる理由気付いちゃったよ…

きっと先生が怒ってたのって…

窓の方に僕は近付き、「空気の入れ換え」の為に開いていた窓を静かに閉めた。
何時の日か先生『4月の朝の風邪はまだ冷えるのよ』『花粉に気を付けなさい!』と言っていた。
そして、先生の方へ向き変える。

「“朝は、冷気が喉に悪いから窓は開けるな”でしたよね?」

以前京子先生が言っていたのだ京子先生は頷ずき、にっこり笑うと
僕等二人の頭を撫でた。

「よくわかったね!流石、碧空委員長!」

あ やっぱり
演劇の事以外で怒る理由が見付からなかっただけなんだけど…

そんな事を思いながら
僕は口を開いた

「先生?僕等に頼みたい事って?」

「あぁ、そうね…」

京子先生は綺麗に着こなした
スーツの胸ポケットから
小さな紙を取り出して
読み上げた。

「ぇーと…
『演劇部様。
今日体育館は屋根を新しくする工事をしております
うるさいですが、宜しいでしょうか?』
…なのよ!」

いや、なのよ!って言われたところで
わかる筈が…

解らない…
と顔に出ていたらしく僕等は
二人して首を傾げた。

そして、京子先生は溜息を吐くと
答えを言った。

「上が五月蝿いんだから
声を出してねって事
貴方達が一番良い声を出すんだから」

「え、いや…」

いくら声が大きいからって
工事の度合いによるんじゃないか?
それを伝えた京子先生は
軽快なステップで委員会議室を出ていった。

「いや、京子先生?
工事するなら他の場所が良いんじゃ…」

僕の声を聴こえないふりで
廊下を渡っていく

僕等の意見も聞かないで…
先生は勝手に決めるんだから

知聡は先生が居なくなっても
騒いでいた。

「えぇ!五月蝿い体育館はだめっしょ?
だって今日、台本の立ち稽古でしょ?そうでしょ?
せんせぇ〜〜い!」

無駄だよ、知聡…

僕はそう思いながら
机の書類を纏める
知聡はまだ抗議してるらしいが
誰にだよ

もう廊下には誰も居ない
笑いが込み上げてきた。

「あ、何で笑うんだよ?
輝翔、お前もそう思うだろ?」

「うん、思う。思う」

次は
僕が軽くあしらった事に対して次は抗議を始めた
よくもまぁ、そんなにごちゃごちゃと

粘り強いのも知聡の特徴だな。

「あーもー
わかった、わかった(笑)
ほら、書類纏まったから職員室に持ってくぞ
半分持てって!」

「輝翔は何時もそうだよな…」

知聡よ…
まだ続けるか(笑)

書類が纏まった僕等は
お互いに同じ量の書類の束を
持って階段をかけ降りた
もう授業のチャイムが鳴りそうだからだ

「次の授業、何だっけ?」

やっと、文句の収まった
知聡が聞いてきた

「数学U」

「えー最悪!やりたくね〜!」

知聡はとにかく数学が嫌いなんだ
何をやっても、良い点数が取れるのに
数学だけは点で駄目なんだ。

僕達は何とか職員室により
また、ダッシュで教室へと向かった。

知聡と勢いよく、教室の扉を開けた時にチャイムが鳴った。

周りからは

「本当にお前らって仲がいいよな―」

と、いろんなクラスメートから言われた。
僕は、苦笑いで答えたけれど
知聡は肩で息をするだけだった
僕達は席についてから
少し喋った。

「知聡、よく俺の足についてきたね」

「…っ…凄いよね―俺
誉めてよ、輝翔」

「今、誉めた」





「―――」



知聡の呟きは僕の耳までは届かず
空気に溶けた

「すまん、すまん
職員会議が長引いてな!」

あ、数学の先生がやって来た

さぁ
今日も1日が始まる。








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