―――あの桜の―――



今は、夕方の六時半。

思ったよりも、日直の仕事が長引いてしまった

家に着くまでには
空はきっと、真っ暗だろう
と言うよりも、もう薄暗い!

僕は、空が真っ暗になる前に
どうしても確認したい事があった
一日中気になっていた
あの、桜の木だ。
今日は 暇があればあの桜の木の事を考えていた
女の子の事も気にかかるが
桜の寂しそうな様子が
頭から離れなかったんだ。

でも 僕は、木を見たり触ったりしたところで
「その木が弱ってる」「この木は悲しんでる」なんてわかるような能力の持ち主じゃないけど…
至って普通な男子高校生な訳で…

…って

「こんな事考えてる暇があるなら…」

ふぅと溜息を吐いて
僕は走り出した
まだ空はほの暗い

少し走って僕は気付いた




おかしい?




僕は走るのを止め
周りをぐるりと見渡した

何時もの帰り道を走っていた筈なのに
知らない道に潜り込んでる

「は…れ?
ここ…何処?」

全く知らない場所
どんどん暗くなる空
この感じ…





今日見た夢にそっくり…





頬にヒヤリとした風が当たり
何も考えられなくなる

此所は何処?
僕はどうして此所にいるの?

っ!!!

「逃げなきゃ…」

何から逃げれば良いのかわからなかったが
来た道を僕は逆送し始めた

10分程走ってまた気付いた
当たり一面が真っ暗だ
夜だからと言って
こんなに暗くなる事はあり得ないはず
街灯の光や、月の光。人々が生活するために必要な光が無い。

僕は、空を見上げた。

「…え?」

空がおかしい
雲で月が隠れてるとか
そう言うレベルじゃない
黒いだけ
一面の“黒”
ムラが無いんだ…



怖い―――



いくら走っても
走っても、走っても、
出られない闇の中を僕はただひたすら走っているだけ

恐怖に胸がいっぱいだ!

ずっとずっと
本気で走っていたからか、足が痛い
心臓は五月蝿い
走るのが好きだって言ったって
10分間全力疾走は結構キツイ…

汗がつーっと
頬を伝って落ちていく

闇に飲み込まれてしまう

止まれば終わりだ…と
僕はその恐怖だけで
僕の足は動き続けていた。

プルルル…

びくっとしたが
ケータイが鳴っているだけだ
ケータイの存在を今思い出した

誰でもいいから
助けて欲しい
そろそろ…限界…

知らない電話番号
しかも朝掛かってきたやつ
其処でもまた不思議な恐怖を覚えた

出たらまずい…

それでも限界が近い僕は
ケータイの出るボタンを押そうとした其の時だった

凛とした
綺麗な声と、桜の花弁が僕に届いた

「その人は関係無いと…
何故わからないの?
其処まで堕ちてしまったの?」

そして今一度
強い風が吹いた
僕は、絶えられずに
風の吹く方に倒れそうになった
でも、倒れなかった
何かはわからなかったが安心した
何かに僕は抱き締められている
また、あの声がする。

「ごめんなさい…」

其処で僕は意識を手放した

意識を手放す前に見た
空は、月が爛々と輝いていた。




何故か、涙が出そうだった















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