俺の部屋に『暇です。』と言って浅川が押し入ったのが30分前。


人間2人が居るにも関わらず、部屋には筆で書類を書く音だけしか聞こえてこない。


『土方さん、今日が何の日か知ってますか?』


唐突に浅川は俺に話しかける。知るかんなもん。


「…さぁな」


ただでさえ早く仕事を終わらせなきゃいけないってのに、勝手に部屋に乗り込んでぐだぐだしている女の相手なんぞしていられるか。


つか、コイツは何しにここにきた。


そして、再び部屋には筆が滑る音が響くだけとなった。



『今日はですねぇ〜消費者というなの多くの一般市民、特に学生や若い方を中心とした人達がとあるお菓子会社の策略によって、何かの決まり事のようにお金を払ってしまう恐ろしい日なんです。』


「はぁ?」


暫くして浅川話し始めたがいきなり過ぎてついて行けない。


『そして私も引っかかっちゃたんです。その策略に…。』


突然の浅川の話に、俺は一旦書類を書く手を止め、後ろにゴロゴロとしている女に身体を向けた。流石に信憑性が皆無すぎる話だ。


「さっさと部屋に戻って溜まってる始末書何とかしてこい。俺ぁ忙しいから冗談は後にしろ。」


ホント冗談じゃな…。



『…ごめんなさいっ!!!冗談じゃないんです!!!私騙されてるって知らなくて!!!』


すると浅川はガバッと起きて俺の肩に手を置きながら、俯いてしくしくと泣き出した。


「…おい」


…マジかよ。


ただでさえ総悟が無闇にバズーカ撃ちまくって非難されてるってのに、ここにきて浅川までもが問題を起こしたとなったらたまったもんじゃない。


マスコミのいいネタにされるだけじゃねぇか。




『ひっく…ひっ……ぶっ!あはははは!』


いきなり泣き出したかと思えば今度は笑い出した。何なんだコイツは。というか、今の会話の中で笑い出す要素は何処にある。


「…おい、何なんだよ。」


『あはは、いやぁ〜あまりにも会話がなかったんでちょっとドッキリでもっと思って!』


俺の顔にビシッと青筋が綺麗に浮かんだ。目の前の女は何が楽しいんだか、腹の立つ笑顔で自分を見ている。


『信じちゃいましたか?私の演技力すげぇな!…あぁ、でもしっかり策略には引っかかってます。ほら、ポッキーです。』


そう言って目の前に見慣れた赤いの箱を浅川はしゃかしゃかと振っている。しかもコイツあろう事か食い始めやがった。


『うまっ!やっぱり複雑な菓子より単純な奴が一番旨いですね!あ、土方さんも食べます?』

ポッキーをくわえながら喋るコイツが無性に腹立たしいことこの上ない。


「…あぁ…貰う。」


だから魔が差しただと思う。


『ん?…んぐぅっ!!!』


俺は浅川の後頭部と腰あたりに腕を廻して、身体を逃げれないようにがっちり固定してやる。まさにキスする時みたいに。


「…んだよ、くれんだろポッキー」


耳元で優しく囁いてやると顔中を真っ赤にして浅川は硬直した。意外と初な反応してくれやがる。だからコッチつられて恋人でもなったかのように笑ってしまう。


そのままの態勢でコイツがくわえているポッキーをゆっくりと焦らせながら食べていく。いわゆるポッキーゲームみたいな。


自分で言うのも何だが伊達に女が喜ぶような顔をしている訳じゃない。


流し目でチラリと浅川を見ると顔は真っ赤に大混乱しているようで、抵抗するのも忘れているみたいだ。


唇と唇の間隔が1p程になったとき、パキッとポッキーを折って浅川への拘束も全部離してやった。


「御馳走様でした。」


嫌みたっぷりに言ってやる。


仕事の邪魔した罰だと言えば浅川は真っ赤の顔のまま俺の部屋から出て行った。


そして土方は何事も無かったかのように仕事を再会したのであった。









『あ、あれは無しだろ…。』


その後自室に逃げ込んだ椿は1時間ほど口元を押さえたまま自分の部屋から動けなかったらしい。




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