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追いつかれました。一瞬にして厳つい顔した男の人たちに囲まれました。
…………。
どうしてこうも事がうまく進まないのか。あと少しで表通りに出てこいつらをまけたはずだった。
あぁ…コイツにぶつからなければ。
『アンタのせいで追いつかれたじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁぁああああああっっ!!!』
「知らねーよんなこたぁ、つか俺の質問に答えろよ職務質問だ」
『職質なんか知るかっっ!!!職に就く前に全部パァだパァっっ!それもアンタのせいでっっ…!!!せっかく江戸に来てこれからがスタートだってのにぃ…』
椿は黒い男の胸座をつかんで相手を睨みつけた。相変わらずおしとやかな女性とはかなりかけ離れているなぁと思う行為だ。
「離せよクソガキ。」
睨んだが睨み返された。瞳孔全開で。
やべぇお家に帰りたい。
「刀持ってるから止めたが、てめぇよく見たら未成年じゃねぇか、こんな時間にこんな街ふらつきやがって…何があったか知らねぇがとりあえず補導だ、ちょっと署まで来いや。」
『とりあえずって何っっ!!!』
椿と黒い男はしばらくの間口論をしていた、というかお互いがお互いの胸座を掴んで殴り合い寸前だ。
すると今まで忘れ去らていた浪士たちが少しざわめきだした。
「お、おい貴様らぁっっ!我々を無視して事を進めるな!…ん?」
「あれはもしや…」
「間違いない…」
浪士たちは何か気付いたようで、お互いの目を見合わせた。そして一人のリーダーらしき浪士が一歩前に出る。
「真選組の土方十四郎と見受けする!」
「その命ちょうだ―――!」
『「うるせぇっっ!!!」』
2人の息が合った初めての瞬間です。
そして一番近くにいた浪士がポーンときれいに弧を描くように飛んだ。
「脇でごちゃごちゃうるせぇんだよ!全員しょっ引くぞコラァ!!お前が一番でな。」
途中まで浪士に向いていた目線が、最後の一言のときには椿に向いていた。
ほぉ…。そういうこと…。
『へぇー、あんたが…あのチンピラ警察の鬼の副長さんっすかぁ〜。へぇー瞳孔全開ですねぇこんなんでもお偉いさんとかになれるんっすねぇー』
椿も負けじと嫌味ったらしに言ってみた。ここで引いたら自分のプライドが許さない!
「テメェ…上等だコラ。一本殺りあうかクソガキっっ!!!」
『はっ!!鬼の副長殿がこんなところでガキに負けたら恥じゃないですかねぇ?』
「テメェ生きて帰れるとおめってんのか。」
バチバチと音が鳴るくらい二人は睨みあった。まさにチンピラ…いや、ヤクザ同士の喧嘩よりも凄味がある。
そして、二人の手が刀の柄にかかるが
「えぇい!!お前ら全員かかれ!!!」
しびれを切らした浪士たちが二人をめがけて襲いかかってきたが、いまだにお互い睨みあったままだ。
そして浪士が二人に刀を振り落とした時だった。いつの間にか抜かれていた刀と鞘に収められたままの刀で浪士たちはやられた。
最初の方に襲いかかってきた浪士は二人に触れることなく宙を舞い後方にいる浪士の上に落ちて行った。
「ちっ、面倒くせぇなぁ…一本交える前にこいつらかたをつけるしかねぇのかよ。」
『そんなの言わなくても分かります。』
「ふん、上等だ。」
お互いが不適な笑みを浮かべ、一度目を合わせそれきり二人は敵陣に突っ込んでいった。
「ひ、ひるむなぁぁぁぁぁあああああ!!!」
浪士の叫びもむなしく、次々と二人になぎ倒されていった。
「くっ…これ以上はもたぬ…!えぇい!!!皆引けぇい!!!!」
その一言で、浪士たちは蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったのだった。倒れている自分たちの仲間は置き去りにしてだ。
『おぉ、逃げるの早いなコノヤロー…。』
あー…やっと終わったよ。
椿は疲れたーと言いながらその場でドカリと座った。鬼の副長さんは携帯片手にどこかへ行ってしまわれた。
『よし、もう一仕事だ。』
少し休み椿は膝をポンと叩いて立ちあがった。
そして、気絶している浪士のところに行ってしゃがみ、合掌する。
『いただきます。とぉ…』
椿は鼻歌を歌いながら浪士様の懐をあさりだした。
『とりあえず、かわいそうな一般市民の懐をあったかくして下せぇよ浪士様。』
容赦なく浪士の持っているお金や金目のものを容赦なく取る…いや、だってこんな所で寝ているのが悪いんだよ。
「お前!人が少しいない間に何してくれちゃってんのぉぉぉおお!?」
しばらくして鬼の副長さんが帰ってきて怒られた。
あ、名前なんだっけ?
いや別に特にはと言ったらゴンッと後頭部に痛みが走った。痛さハンパないんですけど!!!割れるかもしれない!!!
『痛って!何するんすか。警察が一般市民殴っていいんっすか?』
「何が一般市民だこの泥棒が!!!現行犯逮捕だ。」
『は?いやいやいやいやワタシナニモシテナイヨ!タダ倒レテイル人介抱シタダケデスヨ』
ガチャリと手錠をはめられる音が。
「読みにくいんだよ。言い訳無用。話は屯所で聞いてやる。」
『え・・・えぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!!!!!!』
間もなくして、浪士とともに鬼の副長さんが呼んだと思われるパトカーに連れられ、空がだんだんと明るくなっている中、屯所に連れて行かれたのは言うまでもない。
浅川椿人生初の留置所生活であった。
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