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"いいか椿、男女が二人仲良く追いかっけこをしていたらたらその二人はきっとカップルに違いないだろう。それを見つけたらそっとしておけよ。二人の世界に邪魔しちゃいけないからな。いくら痛い奴らとか思っても全身全霊をかけてそっとしておけ。いいな?"
あぁ、そういえば父上がそんなこといってたっけか。
「待てや!クソガキィィィィィィィィィ!!!!!!!」
あれって自分がやったらどうなるんだろうか。楽しいのかなぁ…。あれ?父上が言ってたやつって息切れするもんだっけか?汗だくになるんだっけ?こんなに必死こいて逃げるもんだっけか??
『んな訳ねぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!!攘夷浪士とあはは、うふふなんてやってられるかコノヤロー!!!!!』
追いかけっこみたいに可愛いもんじゃねぇんだよ!!!!
椿の頭の中はプチパニック状態だった。
何故かって?そりゃあ鬼の形相でこっちに向かってくる男どもがいたら、いくら頭の上に鳥のフンが落ちてきても全く動じない私でも命の危険くらいは感じる。
『やっぱりキツかった!!一人じゃキツかったんだチクショー!!』
椿は今出せる力で全速力で走る走る…。その姿はまさに美しく走るイノシシのよ…。
『イノシシなんかと一緒にすんじゃねえっっ!!!って俺は誰に突っ込んでいるんだぁぁぁぁぁぁああああ!!』
叫びながら走る椿は近所迷惑もいいところだ。しかしそんなこともかまっていられないほど危機的状況だ。
『いつの間にか浪士増えるしっっ!これじゃ3話でこの話が終わっちまうっっ!!!』
くそっ!ひとまず人通りが多い道に出ないとな…。じゃないとこの人数を巻くにはキツイし、追いつかれて人生を終わりになんてさせてたまるか。
そう思い椿はなんとかところどころにある怪しいお店のネオンの光を頼りに裏路地から出ようと道を曲がったり塀を飛び越えたりしていた。(怪しいお店って?…そりゃあ聞かない方がいい。てか聞くな。)
「くそっ!猿のようなガキめっっ!!!」
浪士が悪態をついたのが聞こえたが逃げることに専念しよう。あいつ乙女になんてことを…!!!あいつは…あれだ今度草履の中に針入れられて、痛さで泣けばいいんだ
しばらく走り続け、だいぶ浪士たちから離れた時だった。
ドンっ!!
『いって!!??』
「うおっ!?」
不意に人とぶつかってしまった。ぶつかった衝撃で椿はバランスを崩し受け身もとれぬままきれいな尻もちをつく。
―――っう…。こんなときにいきなり出てくんなよ!!お前のせいで攘夷浪士に捕まるじゃねぇか!!!
という思いは口から出かかったがとりあえず出さずに飲み込んでおいた
『ぶつかってスインマセン。悪いんですが今かなり急いでいるのでっっ!!!』
ここで止まっている訳にはいかないんじゃぁぁああ!!!椿はさっさと身を起こし、早口にまくしたて言った。
おぉ我ながら噛まずに言えたな。
そう思って走り出そうとしたが腕をぶつかった人にすごい力でつかまれた。
「待てよガキ。おめぇ、手に持っているのは何だ?」
椿の手には戦いの最中、攘夷浪士さんから勝手に奪った刀があった。
椿は何だと言わんばかりの勢いで男の顔を睨みつける。腕痛いんですけど。
第一印象、真っ黒い男。
ざんばらの黒い髪の毛に黒い制服らしきものを身にまとった人。腰にも黒い鞘に収まっている刀を持っていた…刀!?
『ま、まさかアンタもあいつらの仲間かなんかかよ!』
予想外の敵の出現に絶望感を感じた。とたんに椿は顔は蒼白になり、最悪な方向へと思考回路が回っていく。
『嫌だっ!今日田舎から出てきて即効死ぬのはっっ!!』
掴まれた腕をなんとか振りほどこうとしたが尋常じゃない力で掴まれてねじっても思いっきり振っても全く動かない。
「はぁ?何だいきなり。俺が聞いてんのはそんなことじゃねぇんだよ。」
追いついてきた攘夷浪士たちの喧騒がどんどんと近づいてきているのがわかった。
『うるせぇ!!早く離せ!!』
「あっ!てめぇ!!」
相手が浪士たちの喧騒に気を取られてるうち、少しゆるんだすきを狙って手を引っぺがすように離した。
「見つけたぞ!このクソガキ!!」
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