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『うっ…』
朝日が障子越に入ってくる。
普段であったら清々しく起きる椿も昨夜の夜勤明けの体にはムチ打たれている感覚だ。
結局、あの後土方さんは泣き止むまで待ってくれて…。改めて冷静にあの場面を振り返ると、かなり恥ずかしかったなと思う。
んー…何ともいえない敗北感が拭えない…。
『……まだ寝むい』
しかし、そう簡単に身体は動いてくれない。朝日から逃げるようにゴロンと向きをかえ、また夢の中に戻ろうと全身の力を抜いた。
「おぉぉぉおおおい!!!浅川!!!」
スパンッと呆気なく開いた障子から憎い朝日が椿を容赦なく照らす。
「おい起きろって浅川!!!一大事何だってば!!!」
布団の中に逃げ込んだ椿を引きずり出すように同じ隊の御子柴が布団を引っ張る。
この御子柴君とは年が近いのもあり、よくしゃべったり一緒に行動することが多かったりする。まぁ大半はコイツがくっついてくる感じだけど…。
そのためか部屋にも容赦なく入ってくる不躾な奴だ。全くもぉ。ってことでおやすみぃ。
「だぁ!!!寝るなよ起きろって!!!」
あれ?頭の中で何か切れた音がしたような。
『……キャンキャンうるせぇんだよピコ柴がぁぁああ!!!』
御子柴が延ばしかけていた手を掴み、そのまま背負い投げをくらわす。我ながら美しい投げだと思う。うん、スッキリした。
「ちょっ!おまっ!!!痛ぇ!背中マジ痛いって。」
悶える御子柴を冷たい目で椿は見た。とりあえず人の睡眠をじゃまする奴は灰になればいいと思う。
『黙れや、私は昨日夜勤で今日は午後からの出勤なんです…。寝れるんですよ…』
椿はズカズカと御子柴が倒れている所に行き、制服の襟を掴んで顔の手前で掲げた。
『でぇ?私の睡眠時間をだいぶ減らした挙句、こんなに早く起こしに来たんですから何か重大な問題が発生したんですよねぇ?』
びくびくしている御子柴は柴犬みたいに目をうるうるさせている。流石にピコ柴なだけはあるな!
「あ…は、はい…その…………………緊急集会ダソウデス」
太陽が憎くて堪らない。
「ひでぇ顔して何してんでさぁ」
『何も触れないでください。』
今の自分の顔など知ったことか…。
緊急だって聞いて嫌々ながらも出た朝会では、宇宙海賊”春雨”の船が沈没したとかしないとか。その事件にこの前見た桂小太郎がかかわっているとか。そのせいでどっかのお偉いさんの警護だとか…。
正直知るかって話です。
私浅川椿はもう睡眠時間が無くて無くて死にそうなんですよ…。
「…まぁ、無理は禁物でさぁ。お前が倒れちまったら誰が俺の背中を守ってくれるんでさぁ。」
『沖田隊長…お言葉はとてもありがたいんだすけど、アイマスクかけて言われてもなんの感情も生まれません。』
そう、私の寝不足の原因は今自分の目にアイマスクを掛け、おサボり満喫中である。
この人がサボった分のしわ寄せは全部こっちに回ってくるっていうのに…。
ホント自由気まま過ぎて女の子が喜びそうなこの顔を殴り倒したくなるほどだ。
『はぁ…ちゃんと仕事してくださいね。』
沖田隊長から離れた自分は何をするわけでもなくブラブラと歩き回った。
「あ!椿ちゃん!」
『?…あれ、ザキさんじゃないですか。』
呼ばれて後ろを振り返ったらザキさんのご登場。右手に持っているバドのラケットは突っ込むべきなのかな…。
「何してるの?椿ちゃん持ち場こっちじゃないよね?」
『そういうザキさんこそ何1人でこそこそやってるんですか?土方さんに言いつけますよ。』
「やめてっ!!!何でいっつも俺に対して当たりキツいのさ!!!」
そりゃイジりやすいからに決まってるじゃないか。ってのは本人に言うと流石に悪いから言わないでおこう。
「お、俺だってちゃんと調べ物とかしてるから!!!」
『へぇ〜。じゃあ何をどういう風に調べたんですか?ラケットで自分の調子を調べましたって言ったら殺す。』
その一言にまたザキさんの顔に焦りの色が見える。おい、真選組の奴はマトモに仕事する人はいないのかコノヤロー。
呆れた椿は近くにあった倉庫らしき物の扉をガタガタと開け始めた。
「え!?ま、まぁ…ちょっ!?なにしてんの!!!」
そして椿は倉庫の扉を蹴り飛ばして無理やり開けた。
『どーせ何もしないで今まで素振りしてたんだろうが。ほら仕事するよー』
「だからって扉蹴破ることないじゃんか!!!」
『いいんですよどうせ怒られるのはザキさんなんで☆』
「おぃぃぃぃいい!!!結局俺かよぉぉおお!!!」
そんなやり取りをしながら椿近場にある箱をバシバシ叩いた。
『いやぁだってさ私って連載始まってから結構日にちたつけどキャラ定まってないじゃん。一応男前みたいな設定あるけど所詮それだけっていうか、実際男前ってよくわかんないから扉蹴破るとか暴れちゃえばなんとなく良いかなって思うんだよ。解るかいザッキー?この主人公ゆえの悩み!"主人公"ゆえの!!!』
キラッと決め顔で山崎を見る椿は何とも憎たらしく清々しかった。
「いきなり何!?知らねーよ!!!それただの作者の愚痴じゃねぇかよ!!!しかも"主人公"の所が強調されてるのがムカつく!!!」
『じゃあ例えばだ。この何の変哲もないこの箱!!!パカッて開けて何か入ってたらどうなる?』
山崎は考えたが分からなかった。というより話の趣旨がわからない顔をしている。
『中に武器とか死体とか薬が入ってたら重要な鍵みたいになるでしょう?そんな感じになればこの何でもない箱が話の中でも中心的なポジションになる!!!』
「…つまりは何か特徴があれば主人公として目立つ存在になれるってこと?」
『そんなとこです。だからザキさんみたいに特徴が無いことって悲しいねって話』
「…お前になにがわかるぅぅぅうううう!!!結局言いたいことわかんねぇよ!!!」
『私も途中からわからなくなっちゃったテヘペロ!』
まぁすぐに取っ組み合いになるわけで。ぎゃーぎゃー狭い倉庫で騒いでいたらから近くにあるさっきまで椿が叩いていた箱にガゴンッとぶつかった。
「『あ』」
ぶつかった拍子に中のものが出てきてしまった。そして2人同時に出てきた"もの"を見て固まってしまった。
『ザキさん…これって…』
「…中心的なポジションになっちゃうのこの箱」
中から出てきたのは"白い粉"で明らかに小麦粉とかそんな生ぬるいものでは無く、麻薬であることは間違いなかった。
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