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『はい、器物破損により逮捕ー』
「こんなので器物破損かよっ!!!」
目の前には壊れたごみ箱が一つ。そして隣にはスゴく不満顔のヤンキーなお兄さん
『当り前でしょうがー。このごみ箱はね職人さんが丹精込めて三日三晩寝ずに作ったごみ箱…かもしれないだろうが!!!』
「はぁ!!かもしれないって何だ!!!どう見ても前から壊れてる部分とかあっただろうが!!!」
『いやいやないよそんなのだってこの間、私が蹴る前には壊れてなかった!まぁ蹴った後は何か穴開いていたような気がしないでもないけど。』
「んじゃこれ壊したのオメェじゃねぇか!!!バカじゃねぇの!!!」
『あーハイ、また器物破損ー。お巡りさんのガラスのハートを傷つけたー』
冷える寒空の下でしかも夜中に浅川椿は市中周りをしていた。
「ったく、普通だったら非番だっのによぉ。こんな夜中に何が悲しくて仕事しなきゃならねぇんでさぁ…」
と、いつの間にか隣に沖田隊長がいた。
『隊長、それはあなたがいつもサボりすぎなのがいけないんですよ。それと残念ながらもう次の日なんで非番は終わちゃいましたよ』
椿は携帯の画面で時間をぼんやりと確認した。あーあ1日って過ぎるの早いなー…。
「あーもう帰りましょうぜぇい毎日毎日こんな陰気臭いことなんてやってられねぇ…」
『ダメですって隊長、ちゃんと仕事してるか見張れって副長に言われてるんですから。』
とか真面目なことを言っていますが、ぶっちゃけ自分も早く帰りたいけどな。
「…右よし左よし前後よし!ってことで帰りまさぁ」
『えぇ!?いいんですかそんな適当で!!!』
「いいんでさぁ、堅いこといってると真選組ではやってけないで〜い」
そう言って沖田隊長はさっさとパトカーに乗り込んで、早く運転しろと言わんばかりの目線で社内から自分を見ている。
クソ…この甘栗野郎が…
そうは思っても口に出したら殺されるのは間違いないのでしぶしぶ車に乗り込んで屯所に戻った。
『あー疲れた…』
とそのまま朝から引きっぱなしの布団へダイブした。誰だ今汚いなぁって思った奴。
残りの体力を振り絞って、携帯の時計を見ると時間はとうに2時を越えている。
『風呂入っちゃうか…。』
椿は一応女子な訳で風呂に入れる時間も限られてくれてくる。今の時間だったら入る人はそういない。
重たい身体をずるずると引きずるようにして椿は自分の部屋を後にした。
『あ。』
「あ。」
風呂からの帰り道、縁側で庭をぼんやりと眺めていると、偶然にも土方さんに出くわした。
『お疲れ様です。まだ寝てなかったんですか?』
「まぁな、どっかの誰かさんの始末書の整理してたらこんな時間だよ。」
『あはは。そりゃドンマイですね…。』
ストンと隣に土方さんが座った。2人の間に緩やかな涼しい風が吹く。
土方さんを横目で盗み見ると、切れ長の目は真っ直ぐに前を見据えて、月に照らされた横顔は何とも言えないほど綺麗だった。
「で、お前は髪もちゃんと拭かずになにしてんだ。」
突然に話し掛けられてピクリとしてしまう。少し見とれていた自分に悔しさが沸き起こった。
『いや…別に。ただちょっと父上のこと考えてただけですよ。』
真選組に入ってからそれなりに日はたつが、やはり父上の情報は全くと言っていいほど入ってはこなかった。
「…そうか。」
『まぁ、前にも言いましたけど、父上はふらっと消えるときもあったんであんまり深くは考えていなですけど。』
"つきり"と心が痛くなる。
本当は日を増す毎に心配は増えるばかりだ。里に残した自分の家だって今は村の人に任せきりだし、真選組の仕事が忙しくてまともに父上の調査も出来てない。流石にサボリと称して父上探しをするにも限度はある。
しかも男ばかりのこの仕事場では女の自分はやはり下にみられる。少しでも回りに合わせるため、毎日背伸びして頑張るのも疲れる。
『大丈夫ですよ!まだまだ始まったばかりですから。これからですよ!これから!』
あぁ、まただ。今の自分は何をやっても空回りしているような気がしてならない。
『うわっ!』
突然目の前に今まで肩にかけていたタオルが目の前を覆う。そしてわしゃわしゃと頭をかき回される。
『え!?ちょ、土方さん!?』
「うるせーよ。」
頭を拭かれていて土方さんの顔はよく見えないが、声音からして少し不機嫌そうだった。
そのまま土方さんは黙ったままで、わしゃわしゃと髪を拭かれる音だけが回りに響く。
「…お前が回りに負けねぇように努力してるのは知ってる。」
唐突に土方さんは喋り出した。
「サボる振りして地味に自分の父親探してるのも知ってる。」
…まぁホントにサボってる時もあるみたいだけどな。って小声で言われたのは聴かなかった振りをしよう。
「無理して笑ってんなよ。辛いときは俺達を頼れ。」
その一言で今まで抑えていたものが出てくる。
『な…んで…いっつも…』
後の言葉は嗚咽となって消えてしまった。頭を拭いてくれる手が父上に撫でられた時の手みたいに、とても暖かかった。
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