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「悪いなぁ、いつもこんな感じなんだ」



ゴリさん(もう名前忘れた)は落ち着きながら言ったが落ち着いちゃいけない気がするのは気のせいだと思いたい。となるとやっぱり日常茶飯事なことなのだろうかとも思う。

そして二人はいつの間にかこの部屋から出たらしく今は部屋にいない。



ありゃぁ長くなりそうだな…とゴリさんが窓から庭先を覗き込んだ。



「とりあえずこっちは勝手に事情聴取しとくか。さて、お前さんどうして上京したんだ?」


事の展開の速さに付いていけず半分空気になりかけていた椿はいきなりの質問に少し驚いた。しかしまぁ隠すこともないので素直に話すことにした。


『…私人を探して江戸まで来たんです。そしたら道に迷って攘夷浪士と遭遇して…。』


「ほぉ、そういやぁトシと一緒に攘夷浪士をコテンパにしたんだってな!女子なのにたいした腕っ節だな!しかし…刀で戦ったのはいかんな。」


『いや、あれは浪士からパクッ…いえ、拝借したものでして、消して自分のものじゃ…。』




椿はダメ押しで言ってみた。まぁ言った本人は気づいていないが殆どボロが出まくっているのは言うまでもない。


「ん〜…廃刀令が出る前だったらなぁ…まぁ!そこら辺はトシの判断に任せるさ!大丈夫だ!あいつはあんな顔して情に深い男だぞ!」




いやいやちょっと待てゴリさん!!!アバウトっっ!!!いいのか警察!!!一人の人間の判断を一人に決めさせていいんですかっっ!!!


ってかあんな瞳孔全開の方に決断されるなんて…


あぁ…私の人生終わった。


いきなり項垂れた椿を苦笑いで見つめつつ、ゴリさんははちらりと後ろを向いて二人の喧嘩の具合を見た。


つられて椿も二人を見たら、バズーカと刀で戦っている、何とも奇妙な光景が見えたのは気のせいにしておくことにした。


そして、まだ終わりそうにないと判断しゴリさんは次の質問に移った。



「そういやお前さんは人探してるって言ってたな。ちなみにどんな奴だ??もし名前とか知ってたら協力するぞ!」


その言葉に椿はキョトンとする。この人は今なんて言った?次の言葉を発するまで数秒かかった。


『えっと…何で協力するんですか?』


「ん〜…まぁ簡単に言えばお前さんが俺の目にはどうにもトシが言うほど悪い奴には見えなくてな。攘夷浪士との繋がりなんてなさそうな顔してるしな!わはははは!」


ゴリさんは大声で笑った。その姿に椿は愕然とした。甘い。苺パフェ並みに甘い。


でも、椿はこの江戸に来てから散々なことしかあってないため、この優しさは涙が出るほどだった。まぁ実際は泣いてないけどね。椿はゴリさんの言葉に甘えることにした。


『実は私、数年前に父親が失踪してしまったんです…

父は剣術の道場をやっていたんですけど、このご時世ですから門下生なんて殆どいないに等しいくらいで、経営もキツキツだったんです…なのに酒ばっかり飲んでる奴でして。

最初はまたどこかの居酒屋さんで潰れて道端に捨てられてたりどこかにふらふら言ってるんじゃないかって思ったんです…まぁ前にも何回か似たようなことがあったんで(笑)』


笑顔だ。とてつもなく満面の笑みだが目が全くもって笑っていない。


ゴリさんのゴクリと生唾を飲む音が聞こえた。そしていつの間にか副長さんとさっきの少年が部屋に戻ってきている。


副長さんが自分の話を聴いていたようで「え?何回もかよ」と言ったのはあえてスルーだ。


『でも今回は流石に長いなぁと感じたんです。まさかとは思ってたんですけど…。

そしたらふと父が何度【俺に何かあったら江戸に居る"近藤勲"という奴を頼れ】と言ったのを思い出したりして。失踪する前はまた何か変なドラマの見過ぎとか思ったんですけど…何だか私が成長するにつれ毎日のように言うようになって…

まさかホントに失踪するとか思わなくて……

お願いしますっっ!!!本当に探すのを手伝ってくれるって言うならまず"近藤勲"さんを一緒に探してくださいっっ!!!』


椿は勢い良く座っていた椅子から立ち上がって頭を下げる。その拍子に倒れた椅子の音が部屋に妙に響いた。


「…えっと椿ちゃん。もしかして父上殿の名前は浅川正一郎って言う人?」


『…!?そ、そうです!!!まさかなんか犯罪まがいなこと…あのハゲッッ!!!!!だからあれほど道端に落ちてる財布をくすねるなって言ってんのに!!!いや…酔った勢いで何かやらかしたとか!!!ホントにスイマセンもう無期懲役でいいんでもううちには帰らないように言っといてください!!!!』


「ちょっ…椿ちゃん一旦落ち着きなさい!俺が近藤勲だ!別に君の父上は捕まってないと思うから安心してっっ!!!だからその椅子下ろして!!!」


半狂乱になっている少女をゴリラみたいな男が必死になだめている図は非常に変な光景だなとその場で傍観している土方と沖田は思った。


『えぇ!?あなたが近藤勲さん!?でも、じゃあ何で父上は警察の人と関係があるんですか!!!』


ジトーという効果音が付きそうな目線で椿は近藤を見る。


「いや…昔浅川殿には道場のことやらでいろいろと世話になってな。しかし、浅川殿の娘さんとなったら手厚く迎えにゃならんな!」


と近藤は言いながらまたがははと豪快に笑う。椿は"近藤勲"が見つかった喜びはこみ上がった。しかし直ぐに父の手掛かりが見つからなかったことに苦しい顔をしてしまった。


『やっぱり父上はどこかに消えてしまったのですね…もしかして父上は私の事が重荷だったんでしょうか…!』


それは、椿が常々思っていたことでもあった。早くに母を亡くし、男手ひとつで自分を育ててくれた父が時々居なくなってしまうのは、こんな厳しい生活から早く逃れたいからなんじゃないかと。



「それは違うだろ。」



下を見ていた椿はふっと顔を上げた先には土方がいた。そして真っ直ぐに自分を見ている。


「自分の子供を重荷だなんて考える親がどこにいるってんだ。少なくとも何かあったら近藤さんを頼れって言ったんだ。お前が重荷だったらそんなこと言わずにさっさと消えちまうだろうよ。」


といってポケットから煙草を取り出し火をつける。


ふっと今まで心配していたことが一気に吹っ飛んだように感じた。ただ一言当り前なようなことを言われただけなのに心が凄く軽くなった。


「俺にはあまり良く分かりやせんがねぇい、親ってもんは何でかんで自分の子供は守りたいもんじゃないんですかぃ?」



『…あり…ありがとう…ござい…ま…す…。』


あぁ…何て優しい人たちなんだろう。とうとう椿は我慢が出来なくなって絶え間なく次々と大粒の涙が頬を濡らしていく。それを三人は黙って見守っていてくれた。


しばらくたって、自分の涙がだいぶ収まってきた時だった近藤は何かを考えているようで決心したとばかりに椿の両肩をがしっと掴んだ。


「椿ちゃん俺は決めたぞ!今日から君は真選組で働きなさい!」




沈黙すること数秒。意外な発言にここにいる近藤を抜いた全員が驚いた。今までのシリアスモードからから一転、今度は混乱モードに突入だ。



近藤以外の皆がポカンとしている中いち早く回復した土方が反対した。



「待てよ近藤さん!いきなり何だよ!!さっきので忘れそうだがこいつは今罪人だぞ!!」


土方はバンっと机を叩きながら片方の手で椿を指差した。自分もだんだんと頭が冴えてきた。うん、冷静に考えて瞳孔全開の人の部下なんかになりたくはない。眼力で殺される。


でもなぁ…こうオブラートに包まずに、"罪人"ってこうざっくりと言われると痛い…。そして人に指を向けるんじゃない。へし折るぞコラ。




「何を言ってるんでさぁ。この場面展開だったらこんな感じのが夢小説の王道じゃないですかぃ土方。」


「やめろっっ!!!テメェは面倒くさいことをいちいち言うなっっ!つうかどさくさに紛れて何呼び捨てしてんだコラ!!!」


「まあ、それは置いといてでさぁ。土方さんが一瞬でも背中預けた相手なんてなかなかいないんでぇい。貴重な人材は近くに置いといたら良いじゃないですかぃ。むしろ攘夷側に行かれても困るじゃないですかぃ。」




「そ、それは…」



沖田は肩をひょいとすくめて小首を傾げる。うまいこと沖田に言いくるめられてしまった土方は苦虫を一気に何匹も噛んだような感じの凄く嫌そうな顔をしている。



「第一、こんな美味そうな鴨なかなかいないんでさぁ…。」


笑みが非常に黒い。この人完全なドSだ!!!いや…サディスティック星からやって来た王子かなんかだろ絶対に!!!待って!ホントに真選組に入りたくない!!!


「ま、まぁ今のは俺が軽はずみな言動だったかもしれん…。」



軽はずみすぎです。心臓に悪いです。見て、さっきとは違う涙が出てきそうです。



「しかしなぁ…トシだって認めてるんだろ椿ちゃんの女の子でここまでの腕前だ!…何より江戸をなにも知らない少女をただこの街に放り出すには心苦しいだろ!頼むこの通りだっっ!!」



近藤は両手を合わせて思いっきり頭を下げた。こうなるとどちらが上の立場なのか忘れてしまいそうだ。



そこで土方がうっと詰まった。さすがに上司にここまで言われると断りづらいようで、そしてしばらくの沈黙の後「わかったよ近藤さん。」


土方が渋々と言った感じで承諾した。




え゛!!!承諾しちゃったのっっ!!!


『いやいや!!!ちょっと待って下さいよ!!!私の意思は!?』


「よかったね!これで晴れて君も真選組の仲間入りだよ(棒読み)」


沖田がロボットのようにカクカクした声で言ってくるのがさらにイライラを募る。


『だから待ってて言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁああああああ!!!何ですかその生温かいゴ、近藤さんの目はっっ!!』



その後はやたらと嬉しそに笑うゴリラ、いかにもにも悪巧みしていそうな黒い笑みを浮かべた少年、不機嫌全開で本日16本目のタバコをに火をつける青年、そして最後には『意味わかんねぇよ!!!』と叫ぶ少女がいたそうな。





これが、浅川椿の波乱の人生の幕開けであった。





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