87 ブン太と愉快な仲間お悩み相談室

「そういえば、勉強は捗っているのか?」



朝、部活まで行く道。弦一郎に、ふと思い出したかのようにそう聞かれた。

そうそう、最近幸せなことばかりで忘れがちになるけど、あたしは受験生。第三ぐらいまで志望校は決めてあって、他に併願で私立も受験する予定。

でもなぁ。最近ちょっと、ふわふわ舞い上がってるというか。なんだか勉強に身が入らないというか。塾はまぁ行ってるけど、予習復習も手を抜くことを覚えちゃって。
そんなこと正直にこの弦一郎に言ったらたるんどるって、言われそう。



「…まさか浮かれて勉強が手につかんのではあるまいな。」

「ギクリ。」



あーさすがパパ。あたしの性格はお見通しってわけね。

最近存在感なかったけど、ていうかはっきり言って登場してなかったけど。当然、弦一郎もあたしと仁王のことは知ってる。

…知ってる、というか。あたしから報告した。
やっぱあたしのパパだし。仁王が好きってのも言ってたし。夏祭り後に泣いちゃったあたしを慰めてくれたのもこいつだし。

たるんどる!…って、叱られちゃうかなぁなんて思ってたけど。



『そうか。それはめでたいな。』



こっぱずかしいし怒られるかもって思ってただけに、あたしは最初目も合わせられなかったけど。予想外にも祝福の声が上がった。



『え?もう一度言って?』

『?…そうか、それはめでたいな。』

『は?』

『耳が遠くなったのか?』

『違うわ、弦一郎じゃあるまいし。』

『な、なんだと!』



意外や意外。やっぱりパパは娘の幸せを願ってくれてるのね、なんてほんのり感激したけど。

…したけど、今のパパ。弦一郎さん、すっごく厳めしい顔してる。久々に怖い。



「蓮二が言っていたのだが、近頃お前の勉強時間が減っているようだと。」

「ギクリ。」

「今からが追い込みの時期だぞ。浮かれるのは無事受かってからにしろ!」

「い、一応、先々週ぐらいから土曜も塾の講義受けてるよ。」

「受けるだけでは駄目だ。しっかり自習もしなければ身につかんぞ!」



はいはいわかりましたよ、って憎たらしく言うと、ため息をつかれた。

あたしの勉強時間も調査してるなんて、ほんといつか柳をシメてやる。

余談だけど、あたしは相変わらず朝は弦一郎と一緒が多い。仁王と付き合ってからも。
まぁ朝は今まで通りでいいんじゃないかってなってね。仁王んちとはけっこう離れてるし、二人して朝弱いし。
今はうちのお母さんもいるから、とりあえず朝あたしが起きれたときは、一緒に部活に行ってるって感じ。

仁王や丸井はもちろんだけど。この弦一郎とも、来年度からはそうそう会えなくなる。ずっとお隣さんだったし、3年になってからはより一緒のことが多くなって。寂しくないと言えば嘘になるかもしれないというか別に寂しくないかもしれない。



…嘘。すーっごく、寂しい。ただの幼なじみは、家が離れたらもう、会う理由はなくなる。わざわざ弦一郎とどっか遊びにっていうのも、ピンとこない。



「弦一郎、」

「なんだ?」

「そのー…、弦一郎は?」



もうちょっとで学校に着くけど。

ふと気になって。聞いてみたいことがあって。来年度からもう違う学校だから。きっともう奥深い話なんてしなくなると思うから。



「弦一郎は、別にモテるわけじゃないけど、ほんのちょっっっと、好意を持ってる女子がいる可能性はあるよね、テニス部だし。」

「…何が言いたい。」

「いやだから、あたしは理解出来ないけど、弦一郎をいいなぁと思う女子も、これから…ってか、今いるかもしれないじゃん?」

「だから、どういう意味だ。」

「…こんな弦一郎でも、そのうち彼女ができるのかなーって。」



言ってて、なんだか寂しくなった。弦一郎に彼女ができることが寂しいわけではけしてない。そうじゃなくて。

幼なじみのこいつが。中学生には欠片も見えないこいつが。恋愛なんて無意味だたるんどる!なこいつが。

あたしの恋愛もほんとに影過ぎながら見守ってくれたこいつが。これから先どーなるんだろうって。あたしはそれを見れないし、きっと話も聞けなくなる。
そう考えたらなんか、寂しくなったんだ。

あたしが娘じゃなくて、あたしが弦一郎の親みたいな、そんな感覚。恋愛に関してはたぶん、あたしのほうが大人だからね。

あーでも、弦一郎はこんな話、たるんどるで一蹴するかなー…、



「…俺は、」



さっきはあんなこと言ったけど、弦一郎に実際、好意を寄せてる女子は複数いるだろう。鈴はもちろんそうだし。でも鈴は最近、頑張ってないみたいだからわかんないけど。



「俺には、まだ早い。」

「へ?」

「人の機微などなかなか掴めぬ物があるのだ………なんだその顔は。」

「え、え?」

「自分で質問しておいてろくに話も聞かんとは。」



はぁーって、さっき以上に深いため息をつかれた。
いやだって、そんな真面目に返してくれるとは思わなかったから。また、たるんどるって言われると思ったから。だいたい、キビってなに?団子のこと?



そうこうしてるうちに、うちらは学校に着いた。これから朝練。あたしも朝練行く予定だったけど…今日は図書室で勉強したほうがいいかなぁ。

そう思いながら、さっきの弦一郎の言葉に、妙な違和感を覚えた。
あたしが仁王や部長となんやかんやあった間に、
もしかして弦一郎も、何か変わるような変わりたいようなことがあったのかもしれない。

なんだろう。考えても全然わからなくて、より一層、寂しくなった。





「あ、先輩たち!」

「ん?…おー、赤也!」



昼休み。鈴と丸井と3人で食堂にいたら、赤也と会った。丸井には及ばないけど、この赤也もかなりの大食い。お弁当食べたあとにつまむつもりなのか、パンを持ってうちらのいる席にやってきた。



「先輩たちも昼飯っスか?」

「おう、俺は完食後のデザートタイムだけど。」

「へへっ、俺もっス!……あ、先行っててくれ!」



一緒に来たんだろう友達に、赤也は声をかけて、うちらと同じテーブルの席に座った。

そして着席早々、あたしをニヤニヤ?ジロジロ?見た。…なんだよワカメ。



「あれれ、茜先輩の彼氏サンは?」

「………屋上でご就寝。」



へ〜一緒に食べてないんスか〜って、ニヤニヤ憎たらしい顔しちゃって。
丸井も鈴ももちろん、便乗いやらし顔。

まぁ別に、嫌な感じではないけど。恥ずかしいけどやっぱり、あたし自身がニヤけちゃうっていうか。照れるけどやっぱり、惚気とか聞いてほしいっていうか。

仁王は、丸井や赤也にはあまりうちらのことを話さない。柳生にはベラベラらしいけど。
仁王いわく、あいつらは口が軽い上にアホで変な解釈もするから適当にあしらうのが一番、だって。

だからか、丸井&赤也のアホコンビはあたしに聞いてくる。丸井いわく、それは義務なんだと。オーエンしてやってたんだからってさ。…それはそうだけども。いや、赤也は度々邪魔臭かったよ。自覚ないだろうけど。



「ところで、茜先輩?」



またニヤニヤした顔して。今度は何聞いてくるんだか………、



「仁王先輩ともうやったんスか?」



ぶーっ!…と、あたしは飲みかけだったフルーツ牛乳を吹いた。真っ正面の丸井めがけて。



「うわ!お前きったねぇ!」

「…ご、ごめん!」

「あたしティッシュあるよ、ほら!」

「あ、ありがとう!」



鈴からもらったティッシュで、机やあたしの口周りをゴシゴシ拭いた。拭きながら、どうこの場を切り抜けようか頭は必死だった。

だってその間、他3人は無言だったから。顔は見てないけど、3人揃ってニヤニヤしてるのがわかる、空気で!



「…さて、机もきれいになったし、あたしはそろそろ……、」

「ちょい待ち。」



俯いたまま席を立とうと思ったら、真っ正面からは丸井に腕を捕まれ、真横からは鈴に肩を抑えられ、



「茜先輩と仁王先輩の進行具合、是非聞きたいっス!」



斜めからは赤也の無邪気な笑顔が飛んできた。

ああ逃げられない、そう覚悟した。



「へぇ、まだキス2回なんスか。らしくないっスね、あの仁王先輩が。」

「お前余計なこと言うな。…いやーしかし、あの仁王とこの茜がかよ。うわー想像したくねぇ!」

「でもさぁ、やっっっと両想いでさ、なんかグダグダモタモタしててうちらはイライラしてたのに…って思うと、感慨深いよねぇ?」

「「確かにー。」」



一応ね、こいつらはあたしの応援をしてくれてて。付き合うことになったらそりゃ相当に喜んでくれたわけよ。だからあたしもちゃんと報告したわけ。仁王とはあの日、キスをして、それからもあたしが塾のない日は一緒に帰ったり、休みの日にご飯行ったり。まぁあたしが勉強大変だろうと、気を使ってもらうこともしばしば。って、そういう近況をね。

そしたらこれですよ。ずいぶん言いたい放題の外野どもめ。3人揃って彼氏彼女いない歴年齢のくせに。



「でもいずれはやりますよね?」

「まぁな、仁王なら近いうち手出すだろぃ。今までの傾向からすると。」

「丸井も余計なこと言わないの。…あー茜も大人の仲間入りかぁ。感慨深いなぁ。」

「「確かにー。」」



なんて下世話な会話…!

やるってそんな…。あたしと仁王が?いや、確かに付き合ってたらそれはいずれはそうなるかもしれないけど。あたしらまだ中学生だよ?

…でも仁王はもう経験済みだよね、きっと。あたしだけ初めてなわけで。こないだのキスも手慣れてたし。仁王は他の人とそれ以上のいろいろ、…つまりはセのつく行為をしてて。

あたしが悶々と考えを巡らせていると、丸井が怪訝な顔して聞いてきた。



「なに、お前拒否するつもり?」

「拒否って、なに…、」

「だから、仁王が手出してきたらだよ。」



拒否。そうしたいわけじゃないけど、でも。
今のあたしにそんな覚悟があるのかどうか。
もしなければ、ないと仁王に言えば、それは拒否と同じ意味合いになるんだろう。



「傷つくぜー男は。それはそれは深く傷つく。」

「そうっスよ。つーか好き同士ならいいじゃないっスか。嫌なんスか?仁王先輩とすんの。」

「…い、嫌なわけじゃない、けど…」

「「けど?」」

「…えーっと、」

「あ!!」


アホコンビの詰問にあたしが答えを迷っていると、鈴がめちゃくちゃデカい声で叫んだ。何か思い出したのか、机もバンッと、叩いて。



「どーしたんだよ、葛西。」

「そういえば来週じゃない?誕生日!」

「「「誕生日?」」」

「仁王君の誕生日!何か起こりそうな予感!」



最近浮かれてて、勉強に身が入らなかったばかりではなく。

あたしはどうやら最大級に抜けてた。
来週は、仁王の15歳の誕生日だった…!

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