73 キラキラ

電車をいくつか乗り換えて、やってきました東京。
駅からでも見える派手派手しい…というか、イギリスの王室みたいな素敵建物のそこ、氷帝学園。

さすがお金持ちばかりの学校…!一応私立のうちとも比較にならないわ。

入り口からしてすでに違う。うちはただの鉄製の校門だけど、これはきれいな白い石。バラだかなんだか知らないけど、細かい彫刻がびっしり施してある。



「おーい、茜。何やってんだよ。」



丸井に呼ばれるまで門をペタペタと触っていたあたし。
ていうかこれまさか大理石?雨風にさらされる校門になんてもん使ってんの!

でもよく見るとその門には今日の日付が彫ってあった。
なんだ、文化祭用に用意した門か。

………わざわざ?逆にすごくない?



「早く来いっての!」



痺れを切らした丸井に腕を掴まれズルズル引きずられた。



「な、なんかこの学校すごくない?」

「まぁ氷帝だからな。」

「氷帝だからって…、」

「生徒会長が派手好きなんだ。たかが文化祭に…って言ったら、ゲストとしては失礼かな。」



驚いてるあたしを笑いつつ、少し嫌味っぽく部長は言った。強豪同士、昔から対戦なんかもしてるだろうから、きっとそれなりに知れた仲なんだろう。



ちなみに一緒に来たのは丸井、ジャッカル、赤也に部長。
本人も言ってた通り、仁王は“行けたら行く”らしい。
こういう返事はだいたい来ない人のが多い。知ってんだからね。



「どんだけ金持ち……ってうわっ。」



入り口からしばらく行くと、ディズニーランドかってぐらいの人だかり。主に女子。

まぁ文化祭なんだし人が多いのはいいことだけど。にしても女子多すぎ。



「えーっと、そろそろアイツが……、」



立派な噴水(これもなんか立派な石像付き)の近くに来ると、丸井は立ち止まって辺りを見渡した。どうやら待ち合わせをしているらしい。

丸井はもちろん部長も、ジャッカルも赤也もこの、人の多さに全然動じてない。いつものことなのかな。



「へへっ、茜先輩、びっくりしてるっしょ?」



そんなあたしを見抜いてか、赤也はイタズラっぽく笑った。



「そりゃびっくりだよ!想像以じょ……、」

「丸井くーん!」



騒がしい辺りをぶっちぎって響く声に、みんな一斉に目を向けた。

はるか向こうから人を掻き分けて走ってくる。金髪の人。



「おう、芥川。来てやったぜ。」



芥川…。
ああ、この人が丸井を招待してくれた人か。確か丸井のファンなんだっけ?

ていうか氷帝って私立なのに校則自由なのかな。金髪だよこの人。輝いてるよ。
って、赤髪に銀髪(今日はいないけど)揃ってるうちには言われたくないか。



「ありがと〜!…あ、これフリーパス!」



よっっっぽど丸井が好きなんだろう、近くにいるうちらには一瞥もせず、髪色のせいかキラキラした笑顔で、その芥川くんはポケットから何やらカードを出した。

そのカードも金。
まさか本物じゃないよね。まさかね。



「おぉ!サンキュー!!」

「これあれば全部の店、タダで入れるよ〜!」

「ステーキの店は!?」

「もちろん!ケーキバイキングだってあるよ〜!本場のパテシ…なんとかって人、跡部が呼んでるから!」

「マジか!サンキューな!芥川君!」

「やだな、ジローでいいのに〜!」

「サンキュー、ジロ君!」



見た目のキラキラさに引けをとらないハイテンションな芥川くんに、
負けず劣らずテンションの高い丸井。

あ、なんかこの二人と一緒にいると大変そうだな。
そう悟ったあたしの気持ちと同じだったのか、ちらりとみんなを見ると、赤也は面倒臭そうな顔、ジャッカルは早くも疲れた顔してる。
部長はさすが、相変わらず騒がしいね君たちって余裕の微笑み。



「もー、いいっスから早く店回りましょうよ!俺腹減ったっス!」

「あ、キミも来たの!」

「さっきからいたじゃないっスか!ったく、ほんと丸井先輩しか見えてねーなぁ。」

「まぁまぁ。んじゃさっそく行こうぜ!」



そのまま芥川くんも一緒に行動するらしい。
あたしははじめましてだから、なんか自己紹介したほうがいいかなって思ったけど。彼には丸井しか見えてないらしいし、まぁいっか。





「ここ!俺のオススメだよ〜。」



広い敷地をしばらく歩いてたどり着いたのは、これまた立派な、宮殿みたいな建物。さすがにこれは校舎じゃないだろうし、わざわざ建てたのかな。

圧倒されつつ中に入ると、“VIP専用”という札が置いてあるテーブルへ案内された。
なに、うちらVIPなの?



「うわー、なんかメニューもすっげーな!全然読めねー。」



丸井は、開いたメニューらしきものをテーブルの上に乗せた。
いつもの見慣れた日本語たちではなく、アルファベットみたいなのがずらずら並んでた。



「カーテ?…ってなんスか?英語?」

「英語じゃねぇな。ポルトガル語でもねぇし。」

「字的にフランス語…じゃないかな。この一番上は、メニュー?」

「さすが幸村〜!でも俺もよくわかんないから、適当に肉中心で持ってきてもらうよ〜。」

「シクヨロ!」



一瞬、この無邪気な芥川くんも、フランス語ペラペラなのかと思ったけど、そうでもないのね。派手好き生徒会長の趣味?

しばらくして運ばれてきた料理の数々。見るからに胸焼けしそうな肉・肉・肉たち。

食いまくる宣言してた丸井は当然、赤也もジャッカルも、ムシャムシャよく食べること食べること。



「ちょっとトイレ。」



3分の1食べたか食べてないかで、あたしはトイレに行くことにした。
ちょっと休憩。いくらタダだからって、あんなに食べれないよ。

入り口にいたウェイターさんに聞くと、トイレは外らしかった。
まぁさすがにこの建物は目立つし、帰ってこれるよね。

そう思いながら店を出たところ。



「おーい、キミ〜。」



呼び止められた気がして振り向くと、キラキラ芥川くんがいた。
太陽が反射して、ちょっとまぶしい。



「うちの学校広いからね〜迷っちゃうといけないから、」



はい、地図。と、プログラムのような紙を渡された。

開くと、1ページ目に学長による文化祭の紹介…、
ではなく、生徒会長の自己紹介が載ってた。学長より先、しかも自己紹介とは。



「あんま食べてなかったね〜。口に合わなかったかな。」



さっきのキラキラハイテンションとは違って落ち着いてる、

いや、こっちが落ち着くような、そんな話し方。



「いや!そーゆうわけじゃ…、」

「ちょっと女の子にはボリュームありすぎた?」

「ま、まぁ。でもおいしかった。」

「そーお?…あ、これあげるよ。」



そう言って、ポケットから紙切れを出した。

見ると、“たこ焼き1パックタダ券”と手書きで書いてあった。
右下に小さく、“Byジロー”。



「ゴージャスな店だけじゃなくて、たこ焼きとかもあるからさ、まだ食べれるなら行ってみなよ〜。」



さっき丸井はこの人のこと、ジローくんとかって呼んでたし、きっとこの芥川くんが作ってくれたんだ。



「あ、ありがとう。」

「いえいえ。そんじゃね〜!」



芥川くんは、やっぱりキラキラした笑顔を見せながら、手を振り店の中に戻っていった。
キラキラしてるのは髪色だけじゃない。優しい人なんだな。

たこ焼きか…、食べたいかも。
お腹が空いてるわけじゃないけど、せっかく芥川くんがくれたんだし、頂こう。



地図の通りにトイレへ行き、いざたこ焼き屋へ向かう。
そういえば丸井たちに連絡は…、しなくていいよね。遅かったらきっと、芥川くんがさっきのやりとりを話してくれるだろうし。

たこ焼き屋の位置を確認しようと地図を広げた。
まさにディズニーランド風地図。エリア分けされてて、さっきいた店はファンタジーエリアだと判明した。たこ焼き屋はウェスタンエリアか。
どう見てもたこ焼きはウェスタン料理ではないけど、まぁある意味ウェスタンか。



「えーっと、…けっこう遠いな。さっきの噴水まで戻らなきゃ。」



ピークの時間帯は過ぎたのか、さっきよりも少しは人も減ってきた気がする。少しは。

この時間でも仁王から連絡はない。まぁあたしに来るかはわかんないけど。やっぱり来ないのかなぁ。
仁王は今、何してるんだろう。

卒業まであと5ヶ月。同じクラスだけど少しでも多く会いたいし。
思い出作りたい。
こないだからそんな気持ちばかりだ。

にしても派手な子多いなぁ。さっきの芥川くんも目立たないぐらい。
丸井の赤や、仁王の銀もここにいたら目立たないだろうな………、



「…え、」



仁王に会いたすぎて、ついに幻覚を見るようになったのかと思った。

目立たないだろう、なんて思ったあたしは、自分をみくびってた。派手な人が行き交う人混みでも、あの髪を、あの姿を見つけられるんだ。



「仁王くんっ!」



いつの間に来てたんだろう、そう考えながら駆け寄り、
勢いのあまり衝突しそうになった。
いや、衝突した。



「…っと、……びっくりした。」



突進を受け止めてくれた仁王は、いきなりあたしが現れたことに驚いた顔だった。めったに見れない、貴重だ。

あたしがごめんと笑うと、仁王も軽く笑った。



「なんじゃ、お前一人か?」

「ううん、トイレ行ってて、今たこ焼き屋に行くところ。」

「あー、たこ焼きか。ちょっと遠いのう。」

「場所わかるの?」

「ああ。さっき行った。」



そう言うと仁王は、あっ、という顔をした。

さっき行ったって、さっきからここに来てたってこと?
そういえば今仁王がいるのは、出店の前。並んでたってこと?



「買ってきたよー!焼きそば!」



後ろから女の子の声がした。
あたしに向かっていた仁王の視線はあたしを通り越し、後ろの、たぶんあの声の女の子へと変わっていた。



「おう、サンキュ。」

「あれ、雅まだ買ってない?…って、あれ?」



ドキドキ、というよりはズキズキ。
緊張というよりは恐る恐る後ろを振り返った。

焼きそば2つを手に持った、女の子。いや、女の人。
知ってる。



「なんかどっかで……、」

「え、えっと…、」

「…あ!テニス部のマネージャー?」



あたしこそ見たことある。
全国大会で、会った。

逃げたからほんの少しだけだったけど。
忘れられなかった。



「そっかー、立海のテニス部たちもいるんだっけ。」

「ああ。あとで合流する。」

「そっかそっかー。…あ、焼きそば3つにすればよかったー。」

「俺いらんよ。こいつにやって。」



そう言って仁王は一度焼きそばを受け取ると、あたしに差し出した。

お腹がいっぱいだとか、これからたこ焼き食べるからとか、断る理由はあるけど。
そんなんじゃなくて、何も言葉を出せず、かといって受け取れない。

仁王にも、目の前の女の人にも、
どちらにも顔を向けられなくて。

不自然に焼きそばと、その下の地面に目を落としたままだった。



「…じゃああたしは行こっかなー。」



あたしの雰囲気を察してか、気まずい空気を読んでか、その人は言い出した。



「いいんか?綿あめ。」

「いーよ!焼きそばとじゃ組み合わせ悪いし!」

「それ食いたい言うたんは誰じゃ。」

「まぁまぁ!じゃあねー!」



手を振って、さっきの芥川くんのようにキラキラした笑顔で去っていった。

金髪でもないあの人がキラキラして見える。
あたしの今の、沈んだ心と顔と、対比してる。



「さーて、たこ焼き行くか?」



うんともいいやとも言えず、ゆっくり歩き出した仁王に黙って続いた。
逃げ出すことはしなかった。夏祭りや全国大会のときと比べて、少しはあたしも成長したのかもしれない。

少しでも会いたい。仁王と一緒にいること、あたしにはそれが一番うれしいことなんだ。
会っても一緒にいても、こんな気持ちになるなんて。思ってもみなかった。

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