56 3年B組席替え戦争〜Jの悲劇〜

全国大会も終わり始まった二学期。清々しく晴れた今日。引退は寂しいがこれからもどうせ部活は出るだろう。朝練もみんな出てたしな。



「おはよう、ジャッカルくん。」

「おう。」

「全国大会お疲れ!」



クラスへ入るといろんなやつからお疲れの言葉をもらった。決勝は残念だったけどすごかったねとか、これからも頑張れよとか。ああ、うちのクラスはなんていいやつらの集まりなんだ。疲れた心が洗われるようだぜ。



「ジャッカルくん、宿題終わった?」

「まだなら俺らの写せよ!忙しくてできなかっただろ?」



もう一度言おう。なんていいやつらなんだ。輝いて見える。夏休み中まったく会ってなかったせいか余計優しさに目が染みるぜ。ここであいつらなら─…、

少年A『ジャッカル先輩、この宿題やっといて下さいっス!明日までに。』
とか、

少年B『俺の分写しといてくれ、わりぃな。シクヨロ。』
とか、

少年N『お、ジャッカルのポスターいい感じじゃな。もらうぜよ。』
ってなるんだよな。どういうわけか今年はこねーが、まぁあいつらも成長したってことか?



「ジャッカルくん?」

「ああ、悪い。でも心配いらねーぜ。ちゃんと全部やってきたし…、」



あいつらのわずかな成長を密かに喜びつつ、俺は鞄から宿題たちを出そうと思った。

が、鞄を漁ってみるも宿題はない。いくら探せどない。全部出すものの一学期の授業内容が書き込まれたルーズリーフとペンケースしかない。おかしい。夕べちゃんと鞄に入れたはず。ポスターはしわくちゃにならないよう丸めて手で持ってきたが…、

一瞬、本当に一瞬だ。あいつらの顔が頭を過って、俺はポスターを開いた。



「こ、これは…!」



俺のポスターじゃない!なんだこの幼稚園児が描いたような絵は。俺はひまわり畑に佇む女性の絵を描いたはずだ。なのにこのヨットだかボートだかに乗った棒人間は──…、



「あ、ジャッカルくん!?」



何があったかわかんねーといった顔のクラスのやつらが止めるのも構わず、俺は教室を飛び出す。

入れたはずなのにない宿題。すり替えられたポスター。犯人はわかっている!



「ブン太!仁王!」



俺は廊下や階段を走りぬけ1つ上の階、3年B組に飛び込んだ。
学年の違う赤也じゃないだろう。なら犯人はB組のどっちかだ!

確信を胸に勢いよく入るも、すぐに教室内の異様な空気を感じた。みんなして教卓の周りに集まって、みんなして小さな紙を持っている。そして大多数の女子は、祈るようなポーズや持っている紙に拝むような姿勢だ。



「よう、ジャッカル。今ちょっと取り込み中なんでまた後でな。」



比較的後ろにいたブン太が険しい表情で答えた。なんだ?B組に何があった?



「じゃあいくぞ。…せーの!」



ブン太がそう言うと、B組のみんなは一斉に持っていた紙を開いた。
その瞬間、悲鳴やよっしゃあ!という声が教室内に響く。

ブン太はというと、青ざめた顔。



「おい、ブン…、」

「ジャッカルのバカヤロー!」



肩を掴んだ俺の手を払いのけ紙を床に投げつけたブン太は、ダッシュで教室を去っていった。
落ちた紙を拾い中を見てみると、ただ青い字で“1”とだけ書いてあった。



「おう、ジャッカル。それ何番って書いちょる?」



ブン太と違ってずいぶん機嫌のよさそうな仁王がいた。なんなんだいったい。
ふと、黒板を見てみると数字が書き込まれた表。



「…ああ!席替えか!」

「そーゆうことじゃ。」



ニヤニヤしながら仁王は俺から紙を取り上げると、さっきよりももっとうれしそうに笑った。



「ははっ、ブンちゃんは一番前か。かーわいそうに。」



その仁王はというと、どうやらブン太と同じ列の一番後ろを引いたようだった。さすがラッキー“7”とうれしそうに語る。

なんでも、本当は明日席替えの予定って話だが(そういやうちのクラスも明日だ)、明日じゃ待てない、先生がくる前に白黒つけようぜってことになったらしい。

確かに二学期の席替えは重要。一学期は出席番号順だし、三学期は短い。二学期は長い上にもう仲良くできるやつできないやつが決まってる頃だ。確かに重要なのはわかるが。

…にしてもこの仁王の喜びようは半端じゃねぇ。自分が一番後ろを確保できたからか?それともブン太が一番前だからか?後者だとしたら恐ろしい。



「仁王君!」

「仁王君は何番だった!?」



呆気にとられる俺を押し退け、女子の群れがすごい剣幕で仁王に詰め寄る。当の仁王は、さぁて何番じゃろなと濁すばかり。

…なんつーか、俺、B組じゃなくてよかったぜ。平和なI組でよかった。

そう思ったら急に自分のクラスが恋しくなってきた。ああ、またあのクラスのやつらに癒されよう。
そう、その場を去ろうとしたが。



「ジャッカルぅー!」



後ろから誰かに飛び付かれた勢いで、俺は前のめりになりイスで脛を強打。痛さで涙目になりながら振り向くと、さらに涙目のやつがいた。



「あたし一番前なんだけど!どーしよう!」

「お、おま…、おち……、」

「なんで!?夏休みすっごいいい子に過ごしたのに!ねぇなんで!?」



俺の足の痛さも知らず、胸ぐらを掴んで激しく揺さ振る上野。お前、落ち着け!の言葉も出せねぇほど揺さ振られて頭がフラフラしてきた。



「人生終わりだ!」



それは大袈裟じゃねぇのか?
言う前に突き飛ばされ、今度は尻を机に強打。なんだ、なんで俺がこんな仕打ちを受けるんだ!



「おーい、お前ら席につけ!もうチャイム鳴ってるぞ!」



いつの間にチャイムが鳴ってたのか。B組の担任が現れ、騒ついていたみんなを一喝した。おとなしく席につくやつ、まだ仁王に詰め寄る女子、うなだれる上野、いろいろいた。



「ま、まぁ元気出せよ。」

「うぅ…っ。」

「黒板も見やすいしいーじゃねぇか。」



よくない!と上野には怒られたが、俺は別に席云々より周りのやつらのが重要だ。ま、うちのクラスはいいやつばっかだからいいけどな。ブン太や仁王みたいなやつと隣になったら授業どころじゃないぜ。



「そーいやお前、何番なんだ?」

「1番…。廊下寄り…。」

「もしかしてブン太と隣じゃねーか?」



黒板に書かれた表を見ると、右上、つまり廊下側の列に書かれた青の1と赤の1は隣同士。

俺のその言葉を聞くと、上野は一瞬やった!と喜んだが、すぐにいや待てよ、と考えこんだ。



「なんか丸井の隣って大変そうな気がする。」



こいつもブン太の性格を嫌というほど知ってるからな。ブン太の隣になった以上、まず昼飯は奪われる。隣だから日直も一緒だろうがおそらく日直の仕事もしねぇ。

…なんだか俺より不憫に思えてきたぜ。



「んな落ち込むなって。」



あやすように上野を慰めると、少しだがこいつも元気になってきたな。災難っちゃ災難だが、周りが微妙なやつばっかよりいいだろ。

上野も立ち直ったところで俺の仕事も一段落。あとは現実逃避したブン太を探しにいかねーと……、



「ねぇ、そういえばジャッカル、戻んないの?」

「……ん?」

「自分のクラス。」



4つの肺を持つ男、ジャッカル桑原。
その名にかけて、入学史上最高速でマイクラスへの遠き道のりを駆け抜けた。

そして待っていたのは温かいマイクラス……ではなく、
新学期早々、遅刻の烙印だった。おまけに宿題も提出できず。

俺の苦難はいつ終わるんだ…?
肩を落とし呟いた俺を、同情するよりも笑ったI組は、やっぱりいいクラスだと思った。



放課後、名探偵・柳の力も借り、宿題は無事奪還。どうやらブン太と仁王とさらに上野が共犯だったらしい。人の宿題を盗むたぁなんて非道なやつらだ!

おまけに盗みを働いた3人プラス宿題をやらなかった赤也と、遅刻した俺は真田に説教をくらった。

俺の苦難はまだまだ続く。

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