33 キモチ試し

「……ここか。」



9時。ある部屋の前に佇むあたし。



ーコンコン…



ノックをしても返事はない。困った。



ードンドンドン…!



気配すらない。おかしいな。絶対にいるはずなのに。



ーガチャ…



勇気を出して入ってみよう。ここで勇気を出さなければ後が怖い、てかめんどい。



「……赤也ーい?」



部屋を覗くと、見事に布団から1m以上はみ出てるけれど一応シーツには包まってる赤也を見つけた。上の方からこっそりモジャモジャが出てる。モジャモジャ。

うっかりモジャモジャに触りそうだったけど、触ったら赤也は怒るからやめよう。

てかこの部屋さむっ!さてはクーラーつけっぱなしで寝たな。



「赤也!起きろ!」



ガバッと、シーツをはぎ取ってやった。こうでもしないと赤也は起きないって柳に聞いたから。



「…んー…。」



うっすら、片目をゆっくりと開ける赤也。すぐにあたしが目に入ったみたいだけど、頭が理解するのに時間がかかってるんだろう、ノーリアクション。



「ほら、もう練習始まるよ!」



寝起きだから、と不用意に近づいたのが間違いでした。



「……せーんぱいっ。」

「ぎゃっ!」



またもやガバッと抱きついてきた。この子は絶対、抱きつき癖がある。



「ちょっと!赤也!」

「先輩聞いてくださいよ〜!俺雪山で遭難する夢見ちゃったんス!マジ寒かった!」



そりゃこんだけクーラーきかしたとこで寝てりゃそんな夢も見るよ!てか、寝坊するくせに寝起きはいいのね。

あたしは力一杯、赤也を押し返すけどビクともしない。



「先輩あったけ〜…、」

「ちょっと!」

「……んがー…、」

「…って、立ったまま寝るな!」

「いってぇ!」



かわいそうだとは思ったけど。

その後、赤也はあたしに食らわされた赤い左の頬っぺたをさすりながら食堂へやってきた。



「あー痛かった。」

「自業自得!さっさとご飯食え!練習始まってんだから!」

「…なーんか真田副部長に似てきたな。」

「ぶつぶつ言わないで食べなさい。」

「へーい。」



練習直前になってもなかなか起きてこない赤也を、あたしは起こしにいったわけだ。弦一郎の命により。とっととご飯を食べさせて、練習に連れていったら任務完了。

それにしてもまったく、こいつは凶暴なだけじゃなくて普通に危険だわ…!後輩だと思って油断してた。
もしこれが仁王だったら……、

…って、あたしは変態か。

でもやっぱり仁王だったらドキドキしちゃってやばいだろうな。赤也は全然そんな気持ち起きないけど。



「ねぇねぇ、先輩。」

「ん?」

「先輩ってさ、仁王先輩が好きなんスか?」



…は?



「最初は真田副部長かなーなんて思ってたんスけど、それは葛西先輩だって聞いたんで。」

「そ、そそそれでなんで、に、仁王くんが、出てくるのよ!」



大丈夫。今の回答だと動揺はばれてない…!

赤也は意地悪そうに笑ってるけど。



「いやー丸井先輩が言ってたんスよ!」

「丸井が!?」

「どーも、アイツはいつも仁王を見てるっぽいんだよな〜って。あれは怪しいぜって。」



あの小僧…!ちょっと前まであたしのマネージャー(仮)存続を心配してたかと思いきや、そんなことまで観察してるとは!



「でもいいと思いますよ?仁王先輩カッコいいし。多分彼女には優しいと思うっス。多分。」



今でも十分優しいよ。

言うのはやめとく。肯定しちゃうことになるから。今んとこまだ認めてないし。



「ただ、」

「?」

「仁王先輩狙ってるんなら、もっと積極的にいったほうがいいっスよ。」



して、その心は?

聞く前にこの子なら答えてくれそうだ。あたしはこのまま黙秘権を貫こう。



「仁王先輩は告るより告られるのが好きなんスよ。ちなみに俺は逆。やーっぱ男なら自分からいかねーと。丸井先輩も何だかんだ自分からいけないタイプなんスよね〜。だらしねーの。」



君らのことはいいや。しかし意外。仁王は自分からガンガンいきそうなのに。

そこからなぜか赤也の恋愛トークに走った。隣のクラスの誰々が可愛いとか。まぁ、弟の恋ばなを聞いてるようであたしも楽しかったけど。

時計を見たら9時40分だった。間違いなくあたしも叱られる。

赤也を全力で恨みながら、コートまで走った。途中、赤也に言われたことを思い出しながら。

“もっと積極的にいったほうがいいっスよ”って。



練習後、夜ご飯も食べたところで外に集合をかけられた。



「じゃあ、肝試しを始めようか。」



にっこり、それはもう楽しみ〜といったような顔で部長は言ってのけた。

やっぱやるんだ…。花火だけかと思ってたのに…。

丸井や赤也はワイワイ騒いでる。きっとお互い脅かし合うか…、一瞬真田って単語が聞こえてきたから、二人して弦一郎をはめる気だろう。



「とりあえず女の子は誰かとペアでいこうか?」



部長の提案に、みんな一斉にあたしと鈴のほうを見る。

確かに、ペアのほうが断然うれしいけど。

問題は、誰と?



「あ、じゃあ誰と一緒がいいか、茜先輩たちに選んでもらいましょうよ!」



赤也の余計な言葉にあたしは睨みつける。ニヤっと笑ったのがわかった。くっそー。

そりゃ仁王と一緒なんて願ってもないチャンスだけど、それじゃ自白してるようなもの。

どーしたもんか…、



「じゃああたしは真田君とで!」



声の主のほうをみんな一斉に見る。あたしじゃないよ、もちろん鈴。

いつもは積極的で恥ずかしいとかも思わず攻めてるかと思っていたけど、

鈴の顔は、真っ赤だった。

恋する女の子。



「うん。じゃあ葛西さんは真田とペアにしようか。ね。」



部長はそして弦一郎も見る。あたしもつられて弦一郎を見た。

見た瞬間、弦一郎と目が合う。というより、最初からあたしのことを見てたんだ。

今まで何度だって弦一郎と目は合ってきた。今ではその目から何が言いたいのかわかる。あ、怒られるとか。あ、怒鳴られるとか。

でも、今のこの目は、何が言いたいのかわかんなかった。あたしがわかんないのか、弦一郎が伝えきれてないのか、

とりあえず、あたしの口からは何も出なかった。続けたのは柳。やっぱりいいパートナーだと思うよ。



「ふむ。ならば葛西は弦一郎に任せるとしよう。上野はどうする?」



今度はあたしにみんな目を向ける。何だかその、せーのって感じが嫌だわ。

どうしよう。言おうか。仁王と一緒がいいって。
でもそうすると、仁王のこと好きって言ってるようなもんじゃない。でも。



“もっと積極的にいったほうがいいっスよ”

…そうだよね。好きならちゃんと行かなきゃ。鈴みたいに。



「あの、あたし、にお…、」

「茜は、」



さっきからずっと黙りこくったままの弦一郎が口を開いた。あたしの名前を呼んだ。



「お化け屋敷といった類いのものが苦手だったな。」



そういえば、昔弦一郎とお化け屋敷に入ったことがある。

お化け(人間)に驚かされて失神寸前だったあたしを、弦一郎はおんぶして外まで運んでくれた。ついでにお化け(人間)の退治もしてくれた。(後で親にえらい怒られたけど)



「やはり不安も大きいだろうから…、」



一瞬、あたしは、弦一郎は自分があたしを連れてくって言うんじゃないかと思った。そしてあたしもそれを少なからず期待してることに気づいた。

弦一郎には昔から面倒見てもらってる。迷子になったときや親に叱られたとき。いろいろと、あたしのお世話をしてくれる。本当にパパのようで。

だから今回も、弦一郎はあたしを引き取ってくれるんじゃないかって、思った。鈴ではなく、あたしを。

なんてあたしは最低なんだって思った。弦一郎はあたしのものでもないし、ましてや友達の好きな人。あたしだって好きなのは仁王だ。それなのに、何でこんなこと考えちゃうんだろう。

でもすべて一瞬のうちに、消えた。



「仁王。」



弦一郎の口から出た名前に、ビクンと心臓が飛び跳ねる。



「お前はその手のものには強そうだ。お前が茜とペアになれ。」



弦一郎が何を言ってるか、いや、何で言ってるのか、わかんなかった。



「なんスか副部長!それじゃまるで俺たちがお化けにビビってるみたいじゃないスか!」

「そーだそーだ!お化け苦手なのはヒロシだけだろい!」

「わ、私は決して苦手では…、」

「いちいち騒ぐな!…葛西は俺がペアになろう。それで決まりだ。」



弦一郎は、仁王のほうを見た。



「はいよ。娘さんはお任せください。」



仁王はそう言うと、あたしの頭をぽんっと叩いた。
見上げると、いつものように笑ってた。

あたしの望んでた結果。すごくうれしい。

けど、その後一度も目を合わせてくれなかった弦一郎。あたしも、なぜだか気まずくなってしまった。

仁王への気持ちがばれてるかもしれないから?いつも弦一郎に甘えてる自分に気付いたから?

部長が弦一郎に、最初反対してたくせに何仕切ってんだよって凄んでたところは助けられなかった。

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