32 ブルーハワイ

食事も終わって、みんな解散した。

ほんとはこの後花火の予定だったけど、あたしの体調のことも考え、明日の夜やることになった。ほんと申し訳ない。

鈴と一緒に部屋に向かう。



「あ、そうそう、仁王君にお礼言ったほうがいいかも。」



突然、鈴がこんなことを言い出した。

仁王。そういえばさっきから会ってない。ロビーにもいなかったし。心配してくれなかったのかなって、随分図々しいことを思ってた。



「茜のことロビーまで運んでくれたの、仁王君なんだよ。」

「仁王が!?」



マジか!それは…、うれしい…!やっぱ仁王は優しい!これはちゃんとお礼言わなきゃ…、



「あ、あれ…?もしかして仁王、あたしのはだ…、」

「だ、大丈夫!下着はあたしが着せた!」

「下着…、は?」

「あ、あははは…、」



鈴によると、とりあえず鈴は水死体のように浮かび上がったあたしを脱衣場に運んでくれて、パニくった状態で旅館の人を呼んでこようと外へ飛び出すと、

仁王に遭遇したらしい。

話を聞いた仁王は、一瞬中に入ったけど、



『…あのままはまずいじゃろ。』



って感じで気まずそうに出てきて、鈴は慌ててあたしに下着を着せてくれた。



「あ、大丈夫!そのときはタオルかけてたから見られてないし!」

「そーゆう問題じゃないっ!」



その後、仁王も心配になってまた中に入ってきて、冷たいタオルやら扇風機やらをあててくれたけど、結局ここじゃ暑いからって、ロビーにいくことになり、



「仁王君、浴衣の着せ方上手かったよ〜!やっぱ何でもできちゃうのねぇ!」



何でもできちゃうのには賛同だけど、



「おんぶして運んでくれたけど…、ここでお姫様抱っこだったら最高だったのに〜、ねぇ?」

「ねぇ?、じゃない!」



さっきからこの子は感想がズレてる…!

うわー!もう!最悪!恥ずかしい!こないだといい、下着姿見られて…、

チラッと、自分の下着を覗く。

よかった、白だ。何となく純な感じだ。

…そーゆう問題でもない!



「まぁまぁ、とりあえずお礼は言わないと…、」

「わかってるよ…!」



仁王、心配してくれないどころじゃなく、かなりお世話になってたのか。しかもそれを自分から言わないあたり、仁王らしい。

また、顔が熱くなってきた。心臓も、どことなく速いような、ドキドキしてるような、でも落ち着いてる。

早く仁王のところに行きたい。



仁王の部屋に行くと、ジャッカルがいた。



「仁王?…は、どこ行ったかー…、」



やっぱここでも仁王はフラフラしてるらしい。探してみよう。

他の部屋やロビー、広間にはいなくて、半分諦めかけたところ、

もう一度ロビーへ行くと、玄関から誰か入ってきた。



「あ、」



仁王だった。手には白いビニール袋を提げてる。



「おう。寝てなくて大丈夫なんか?」



会った瞬間、いつもの、軽く笑うあの顔。

仁王のこの独特の空気に、ドキドキしながら、安らぐ。



「う、うん。…どっか行ってたの?」

「ああ、コンビニ。」



ガサゴソと、仁王は袋の中のものを見せてくれた。

ジャンプ、ジュース、かき氷のアイスが二つ。



「ブルーハワイとレモン。どっちがいい?」

「え?じゃあ…、ブルーハワイ。」



仁王はブルーハワイをあたしに差し出した。

しまった。うっかりブルーハワイ=仁王を連想して選んでしまった。…ばれませんように。

さっきまであたしが寝てたソファーに座る。



「ありがとう。」

「いへいへ。」



口に冷たいかき氷を詰めながら、仁王は笑った。

あたしも詰め込むと、口の中が一気に冷たくなって、身体中、冷まされてく。

でも、すぐ隣に仁王がいて、この曖昧な体温が丁度いい。



「あ、あとさ、ロビーまで運んでくれたの、仁王くんなんだって?」



あたしがそう言うと、仁王はかき氷を吹き出しそうになった。仁王にしてはレアな失態。



「…見てないぜよ。」



すぐさま完全否定した仁王はちょっと、照れてる感があった。

疑ってるわけでもないのにこの慌てようがおかしくて、あたしもかき氷を吹き出しそうになる。



「わかってるって!ありがとうって、言いたかったの。」

「…もうお嫁に行けんて言うんかと思った。」

「はは!まさかー……、」



言うつもりなかったけど。思いつきもしなかったけど。



「…そう言ったらどうすんの?」



冗談で済ませられるレベル。でも、返答次第であたしは天国と地獄。



「真田んとこ行かんとなぁ。」

「弦一郎?」

「娘さんを嫁にください!…って。」



やっぱり仁王は、あたしよりも全然、百枚ぐらい上手。こういう女の子との掛け合いを、何度もこなしてきたんだろうか。

でもしっかりと浮かれてる自分もいて、のぼせてる。お風呂のせいじゃない。



「あ、茜、舌出しんしゃい。」

「…?」



言われるがまま、舌を出す。



「はは、やっぱり。」

「何が?」

「舌が青くなっちょる。」



一生懸命舌を伸ばして覗くと、うっすら青が見えた。ブルーハワイだ。

あたしの舌が青く染まってる。



「かき氷はこれが楽しみじゃ。」



仁王はまた子供のように笑う。やっぱり、子供のように見えるときもある。

本当に不思議な人。さっきみたいに、あたしより数倍大人のように見えて、でも子供のようなときもある。

それが仁王の、一番の魅力だろう。

しばらく話したところで、仁王は立ち上がった。時計を見たらもう9時だった。弦一郎は寝てるだろう。



「さてさて、そろそろ部屋戻るかの。」

「もう寝るの?」

「まさか。枕投げの時間。」



ああ、イタズラ時間ですね。ターゲットは弦一郎かな。



「明日は肝試しと花火もあるき、しっかり寝ときんしゃい。」

「やっぱり肝試しもあるの?」

「もちろん。そんな怖くなか。」

「怖いって!ビックリする…。」

「ほーう。…ま、安心しんしゃい。女の子は誰かとペアになるじゃろ。」



意味ありげに笑った仁王の真意はわかんなかったけど。仁王は部屋まで送ってくれた。

部屋に入ったら、鈴がニヤニヤしながら迎えてくれた。随分長くて何やってたのよーって。

そんな鈴のツッコミを後ろ向きに聞きつつ、あたしは鏡に向かう。

舌を出すと、やっぱり青く染まってた。
なんだか照れてしまう。

だって青は、仁王だから。



「明日、肝試しあるらしいよ。」

「マジで!…真田君と一緒がいいなぁ。」



多分、鈴の場合はほぼ公認だからかなり高い確率でペアでもなんでもなれると思う。

一応それは言わないでおいた。なんとなく、あたしや柳の立場が危うい。特に柳。

あたしも仁王と一緒がいいなぁ。
部長だったらどうしよう…。

ちょっとだけワクワクもしながら、寝た。

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