31 温泉フレンズ

「あー疲れた!飯!」

「ご飯はまだだろ。まだ6時過ぎだぜ。」

「うぇ〜?腹減って死ぬー!」

「死なないから大丈夫っス。てか風呂行きましょうよ!」

「風呂で気紛らわすか…。飯…。」



練習が終わると、みんなはお風呂へ直行した。丸井は最後まで飯飯言ってたけど。暑いし、汗もびっしょりかいてるんだろう。



「うちらもお風呂入る?」

「んー、どうしよっか…、」



みんなの洗濯物を済ませたところで、お風呂に入るか悩む。

お風呂入る=ノーメイク。まぁたいした化粧はしてないけどさ。浴衣とかも、何となく恥ずかしい。



「先にお風呂入っちゃいなよ。」



そう言われながら後ろから肩を叩かれた。

にっこり微笑む部長。必要以上に飛び跳ねる心臓。



「ご飯食べた後、花火するから。」

「ほんと!?うわ〜楽しみっ!」



鈴は本当にうれしそうだ。弦一郎と近付けるチャンスだもんね。



「…あれ、茜ちゃんは?」

「へ?」

「花火、楽しみじゃないかな。」



あたしは…、もちろん、花火は楽しみだけど。リアクションを逃してしまった。

さっきの、部長とのことを思い出してしまって。なんだか妙に意識してしまって。



「部長〜!茜が楽しみじゃないわけないでしょ!さぁさぁ、うちらも早くお風呂入ろう!」

「う、うん、」

「フフ、いってらっしゃい。」



鈴にぐいぐい背中を押され、その場を後にした。



お風呂は、思ったよりも広くて、あたしたち二人だとなんだか寂しかった。



「…ぶわっ!冷てぇ!てめ赤也!」

「へっへ〜!丸井先輩〜、さっきのお返しっス!」



どうやら赤也が丸井に水をぶっかけたらしい。すぐ隣だから声が筒抜けだ。

ギャーギャー騒ぐ音、弦一郎の怒鳴り声も混じって、最終的にジャッカルの悲鳴らしきものも聞こえた。ジャッカル、ご愁傷さま。



「茜、まだ上がんないの?」

「え?あ、まだ浸かってる…。」



鈴はシャコシャコ頭を洗ってて、あたしはさっきからずっと湯船に浸かってる。気持ちいいっていうのもあるけど…、
さっきから頭がぼーっとしてる。

そういえば隣から、仁王や部長の声は聞こえないな。一緒に入ってないのか、もしくは声が小さいのか。

…やだ、またドキドキしてきた。部長。どーゆうつもりであんなこと…。

でもさ、考えてみれば部長はうちの学校でも最大級にモテるわけじゃん?

ってことはだよ、やっぱりそれなりにそういった経験もアレなのかしら。真に受けてるあたしってバカかしら。

だいたい、あたしは仁王が好きなんだから、そんなことにドキドキしてもしょうがないし、ってかきっとこれはドキドキじゃないし、ただビックリしただけというか、あたしも何だかんだ男に免疫ないわけだし、いくらもう慣れてきたとはいえ、やっぱりテニス部はイケメン揃いだし、結局は弦一郎やジャッカルですら人気があるし、てか弦一郎と同じ部屋の人災難だろうな………、

そこまでであたしの思考はストップする。





「……ん?」



パッと、目を開けたら天井の光が眩しかった。

それを遮るように覗き込む顔、鈴だ。



「あ!目覚ました!よかった〜!」



少し半泣きの鈴を目の前に、あたしは今の状態がすぐに理解できなかった。



「お前、心配かけんなよ!」



鈴に変わり、今度は丸井があたしの顔を覗き込む。まだ何が起こったのかよくわかんないけど、だるい身体、火照るほっぺた、涼しい風が顔に当たる。

あたしはゆっくりと起き上がった。

そこには丸井たちの他に、弦一郎、ジャッカル、そして部長がいた。

みんなして浴衣を着てて、なんだか色っぽい。弦一郎にいたっては制服より数千倍似合ってる。



「まったく!自分の体調管理もできんとは!」

「まぁまぁ。何とか平気そうだしよかったじゃねぇか。」



ジャッカルは、イライラピリピリ弦一郎を優しく和ませてくれた。ジャッカルも意外と浴衣が似合う。なんだかぼーっとしながらそんなどうでもいいことを考える。



「無事で何よりだよ。」



部長の笑った顔を見て、ようやくあたしも今の事態に気付いた。

あたしは湯船に浸かったままいろいろ…、部長とかのことを考えながらのぼせて、



「お前、湯船に浮かんだ死体みたいだったらしいぜ!」



丸井は爆笑。なんかもうちょっと言葉選んでくれません?

あー、そっか。のぼせて気絶したんだ。道理で頭もぼーっとするし、身体中熱い。

周りを見渡すと、ここはロビーらしく、あたしはソファーに横になってた。クーラーガンガンに、横には扇風機+ジャッカルが団扇を仰いでくれてたみたいだ。



「先輩たちご飯…、あ!茜先輩!気付いたんスね!」



そのまま、赤也はソファーにダイブするかのようにあたしに飛び付いてきた。かわいくて犬みたいだ。

でも横から、丸井と弦一郎にげんこつされて痛そう。よしよし。



「あ、先輩たち、もうご飯できてるっスよ!」

「そうか。ならば食べにいくか。茜はどうだ?食べれそうか?」



気分はそこまで悪くないけど、ちょっと今は食べれそうもない。あたしは軽く首を横に振った。



「あ、じゃあ真田君たちご飯食べてきなよ。あたしまだ茜の看病してるし。」

「え!あたしなら大丈夫だから鈴もご飯に…、」

「いーっていーって!」

「…ならば、一刻も早く食べ終えて交替しよう。」



また妙な責任感からか、弦一郎は一目散に広間に向かった。じゃあ俺たちもーって、鈴を除く他の人たちも行った。

一気に、ロビー中が静まる。



「ごめんね、鈴…、」

「何言ってんの!……あれ?」



鈴の目線を追う。

あたしたち以外、誰もいなくなったはずの、ロビー。みんなが向かった広間への廊下から人影が見えた。



「丸井?」



ご飯を前にして戻ってきた?あの丸井が?まさか。忘れ物かな。



「あー…、葛西。お前飯行ってきていいぜ。」

「え?」

「俺が看るから。」



何となくの空気を、きっと鈴は読んでくれて、わかったとだけを言い残し、広間へ向かった。

丸井はソファー、あたしのすぐ隣に座った。ギシッと、古いソファーが軋む。


不可解な点が2つ。

1つは、丸井がご飯のある広間から戻ってきたということ。

もう1つは、丸井がご飯を優先しなかったこと。
…どっちも同じか。



「丸井、…ご飯は?」

「ん?あー、今腹いっぱい。」



嘘。さっきまで腹減った連発してたじゃん。

なんで?

でもそれは聞けなかった。せっかく、丸井があたしのために戻ってきてくれたんだ。

あたしに、きっとチャンスをくれてる。

甘えてみようかな。



「調子は?」

「ん、もう平気。」

「そか。心配かけんなよ。…って、さっきも言ったか。」



二人してちょっと気恥ずかしそうに笑う。バスの中でもしゃべったけど、

こんなふうに、ちゃんと話のできる雰囲気は久しぶりだ。



「心配かけてごめんね。」

「おう。ま、もう大丈夫ならいいよ。」

「…じゃなくて、」

「…え、」



あたしは深々と、丸井に頭を下げた。ソファーの上だから、イマイチ真剣味にかけるけれど。



「ごめん。あたし、やっぱりテニス部が大好きみたい。」



あたしの誠意を込めたつもり。

あたしの素直な気持ちを込めたつもり。

言葉足らずかもしれない。丸井みたいに不器用かもしれない。

でも、これが一番、今、伝えたいから。



「マネージャー(仮)に…、戻っていいかな…?」



最後のほうは擦れてしまった。小さかったから聞こえたか不安になる。

でも、顔を上げた先には、

あたしみたいに、ちょっと涙目な丸井がいて。
愛くるしい目が、うるうるしてて。



「…心配、かけすぎだ!」



ガッと頭を押し込まれた。鼻をすする音が聞こえた。もしかしたら丸井は泣いてるかもしれない。

あたしも鼻をすする。もしかしたらあたしも零れてるかもしれない。

けど、お互い、顔が見えないから。

鼻をすする音と、変に照れた二人の小さな笑い声だけが誰もいないロビーに響く。



「マネージャーやならやんなくたっていい。」

「…。」

「早起き無理なら、遅刻したっていいし。」

「…。」

「麦茶面倒くせーなら、……たまにでもいい。」

「…。」

「お前には俺たちの、仲間でいてほしいだけだから。」

「…うん…!」



丸井は、あたしの首にがっしり腕を回した。プロレス技でもかけるつもり?

でもロマンチックに言うなら、抱きしめてるつもり?

相変わらず不器用なやつだ。



「一緒に全国、No.1目指そうぜ!」

「うん…!!」



振り回してごめんね。自分勝手でごめん。

でも今はもう、嘘つけそうもないから。

みんなと一緒に頑張ることの楽しさ、知っちゃったから。

あたしはみんなが、大好きです。



―ぐぅぅ〜…



「「……。」」



ロビーは静かなだけに、その腹鳴は旅館全体に響き渡った気がする。



「わ、笑うなよ!」



よっぽど我慢してたんだね。

髪の毛並みに真っ赤になった丸井は、全然、カッコ悪くないよ。



「せっかく友情を分かち合ったいいシーンがぶち壊し。」

「うっせ!腹減りまくってんだよ!」

「さっき減ってないって言ったじゃん。」

「たった今から減り始めた!ほら!飯食いいくぞ!」



ぐいっと、一応病み上がりなあたしの腕を掴んで立ち上がらせた。

あたしのほうが身体中熱いはずなのに、丸井の手のほうが熱かった。

捕まれてる部分がちょっと痛いけど、
こないだみたいな痛みはなかった。

丸井と仲直りできたのがうれしくて、
またマネージャー(仮)のポジションに戻れたことがうれしくて、

ご飯はほとんど、丸井にあげた。あたしはただ水を飲んでるだけだったけれど。

みんなと一緒にいるんだって、
身体だけじゃなくて、胸も熱くなった。

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