47 ベストメンバー

「失礼しまーす!」

「ぎゃっ!」



あたしがのんびり病室で寛いでると、病室のドアがいきなり開いて、

わいわいがやがやと、うるせー奴らが入ってきた。



「いぇーい!」

「いぇーいって……な、なんで!?」



あたしの目の前には立海レギュラー、部長を除く7人が。ちょっとせまいんだけど。てか、なんでこいつらがここに!?

あたしは赤也をぎろりと睨み付ける。赤也め。口止めしたのに。

当の本人、赤也はへへ〜と苦笑い。まったく。赤也め。



「なんでじゃねーよ。このバカ。」

「痛いっ。」



ビシッと、丸井からデコピンをくらった。



「ちょっと!あたし一応頭打ったんだから!」

「それでかすり傷一つ?茜ちゃんは丈夫ですねー。」



またビシッと、デコピン。なんなんだよ、リアルに痛いぞ。
てゆうかなんか、丸井怒ってる?不機嫌そう。なんでよ?

うわーお前事故ってマジ鈍くさー、とか、鼻の頭擦り剥くなんてだせー、とか笑われると思ったのに。

ぷいっとそっぽ向かれてしまった。

なんかちょっと、胸が痛んだ。



「茜、」



今度は弦一郎があたしの前に立つ。うわー、めっちゃ怒ってますよこの人も。まぁ、予想はついたけどさ。



「何か言うことはないか?」



言うこと?

えーっと、何にしよう。試合お疲れ?それとも初戦突破おめでとう?もしくは次も頑張ってね?



「おめでとう?…にしとこう。」



はぁーっと部屋全体に響き渡るぐらいの盛大なため息をついた弦一郎。次の瞬間、



「ばかもんっ!」



もしかしたら病院全域に響き渡ったかもしれない。怒鳴り声。



「お前のことだ。大方赤也を見つけて道路に飛び出したんだろう。」



う。なぜわかる。さすがパパ。見つけて飛び出したってゆうか、赤也ってば呼んでるのになかなか止まらなかったから。だから必死で追いかけようと。

でもこれさっき赤也に言ったら赤也、俺のせいだーっつって泣いちゃったから、言わないでおいとこ。あ、でも赤也泣いてるの可愛かったからまた泣かせようかな。



「無事だったからよかったものの。死んでいたら大変だぞ!」

「そりゃ死んだらここにいないからね。」

「しっかり反省しろ!」



だいたいお前は普段から交通ルールを守らんからこういう事態になるのだうんたらかんたら………と、弦一郎の説教が始まった。ここ病室なんですけど。



「ま、でも無事でよかったけど。」



丸井が弦一郎の説教を遮るように、話をまとめてくれた。

もう一度丸井の顔見ると、もう怒ってないようだった。よかった。

…そっか。心配かけちゃったからか、丸井怒ってたの。怒ってる丸井なんて見たことなかったから。子どもみたいに拗ねてるのはしょっちゅうだけど。

弦一郎にも、久しぶりに怒鳴られたなぁ。最近、娘に甘々なパパだったから。



「……ごめんなさい。」



あたしの呟いた言葉にやっと丸井は笑い、弦一郎はフンっと息を吐いた。

ごめんなさい、より、本当はありがとうって言いたかった。そんなに心配してくれてありがとうって。

でもそんなこと言ったらまた反省しろって弦一郎に怒られそうだから、やめといた。



「ところで、擦り剥いた以外には怪我はなかったのですか?」



そう問いかけてきたのは柳生。

柳生と話すことって実はあんまない。みんなといるときはいつも一緒だけど。風紀委員の検問にひっかかったときぐらいかな、柳生と会話するのは。

でも、仁王とすっごく仲良しだから、けっこう気にはなってた。仁王のオモチャにされてるって専らの噂だけど。



「うん、ちょっと足捻ったぐらいで。後は大丈夫。」

「そうですか。それはよかったです。実は、」



そう言って、柳生は後ろにいる彼をあたしの前に軽く押し出した。

仁王。
控えめに、扉側、あたしから一番遠いところにいたんだ。

ふいに突き出されて仁王もちょっと困惑気味だった。



「ほら仁王君、お見舞いの品。持ってきたでしょう。」



お見舞いの、品?

え、まさか、仁王から…?

仁王は柳生の方を見て、ちょっと困った顔をした。え、なに。なんかドキドキしてきた。なんでちょっと困ってんの?なにかくれるの?



「あー!」



と、今度は赤也が叫びだした。

あまりにもでかい声で、あたしも仁王もびくっとした。



「俺たち急用できました!ね、丸井先輩?」

「は?」

「ほらほら、急用!ね!ジャッカル先輩!」

「え?あ…あー…、」

「つーことで、俺たち帰るっス!仁王先輩はごゆっくりー!」



早口かつほぼでかい独り言。強引に、赤也は他の5人をグイグイ押してった。



「ちょ、ちょっと待て、俺まだ茜と話す…、」

「丸井先ぱーい、空気読みましょ?」



その台詞に丸井はぐっと、息を呑んだ。結局最後まで丸井はこっちを振り返ってたけど、仁王を残してみんな出ていった。

えっと、これは気を使ってくれたのよね?ずいぶんあからさまな気の使い方ですけど。てゆうか赤也、空気読めるのか読めないのか微妙だし。

仁王のほうを見ると、目が合った。なんかおかしくて、二人して軽く笑った。

きっと仁王も何かしら思ってるだろうけど、何も言わない。変に突っ込まないところが仁王らしくて、いい。

笑いが止み、少し沈黙。そして仁王から、口を開いた。



「見舞いの品ってほどじゃないけどな、」



そう言って、仁王はがさがさ、鞄から取り出した。

テニスボールだった。



「これな、今日の試合で使ったボール。」

「え?…持ってきていいの?」

「んー、ダメじゃろな。」



ダメって。ならなぜ持ってくる。てかよく持ってこれたね。まぁ仁王だからそんなのはお手の物か。



「今日、幸村がいーこと言っとった。」

「?」

「“俺たちの立海はここからだ”って。」



そういえばそう。部長含めた立海8人全員が揃う試合は初めてだろう。

本当の本当に、初戦だったわけか。



「でもお前がおらんかったから。」

「うっ…、ごめんなさい。」

「はは、いいよ。だからこれ、」



仁王は、あたしにボールを渡した。



「記念すべき初勝利ボールじゃ。」



あたしがもらっていいの?聞く前に受け取ってしまった。

だって、わざわざ仁王が持ってきてくれたんだよ?返せって言われたって返さないよ。



「…ありがとう。」

「いえいえ。次の試合はこれるんじゃろ?」

「うん。今日は念のため病院だけど、明日は退院だから。」



そう言うと、仁王はニヤッと笑った。なに、なんか嫌な予感。



「夜の病院ねぇ。」

「な、なにか?」

「出ないといいんじゃが。」

「な、なななななにが!」

「くくっ……、」



―ガラッ!



「ぎゃっ!」



突然、部屋のドアが勢い良く開いた。なぜあたしの訪問者はみんなノックをしない。ビビらせんな!



「あ、ごめん。」



見たら、部長だった。

そういえばさっきからいなかった。



「おう。もう話は終わったんか?」

「ああ。」



そうか。ここ、部長が入院してた病院だったっけ。お世話になった先生とかいるだろうしな。



「フフ、それより茜ちゃん。」

「?」

「鼻の頭かわいいね。」

「…!」



咄嗟に鼻を両手で覆う。すっかり忘れてた!恥ずかしい!丸井もみんな何も言わないから!

てかこんな恥ずかしい状態で仁王と二人きりだった…!うっわー最悪。



「あーあ、幸村、気にしとること言っちゃいかんぜよ。」

「ごめんごめん。でも似合ってるよ。」



二人ともフォローになってないし。さすがテニス部きってのSコンビ。

その後、三人でずっとしゃべってた。顔に傷が残ったらお嫁さんにもらってあげるよ、いやいや俺がもらうぜよ、とか。じゃあ次試合勝ったほうが告白権ね、とか。この二人はどこまで本気かわかんない。ある意味似てる。



「あ、そういえば仁王。明日午前中ミーティングやるから。」

「何の?」

「対青学。」



その名前を出した途端、仁王の空気が鋭くなった。



「ほーう。俺は?」

「S2だよ。」

「へぇ。あっちは誰じゃろ。」

「蓮二が言うにはNo.2がくるだろうってさ。」

「なるほど。ベストメンバーってわけか。」

「こっちもベストメンバーだよ。」



部長がそういうと、仁王は目を丸くした。そしてうれしそうに、でもちょっと切なげに笑った。

“ベストメンバー”

その言葉の意味ぐらいならば、あたしにもわかった。

部長が試合に出る。
対青学。きっと、決勝。

残りの話は大方理解できなかった。でも、二人の笑ってはいるけどその緊張感漂う空気から、話に割って入ることはできない。



「そうそう、仁王のために予選の映像集めといたから。」

「え、誰の?」



二人のその話の意味もわかんなかったけど。らしくなく、仁王がちょっと不安気な表情に感じた。



「とりあえず手塚。あとは蓮二が、決勝までに彼と対戦するだろう選手をピックアップしてくれたから。それ全部ね。」

「全部って…、そいつらの中に勝てるやつおるんか、あの天才に。」

「どうだろうね。でもかなり興味深い予想してるよ、蓮二は。」

「へぇ。…全部か。」



ため息をつきつつ、仁王は実に楽しそうに呟いた。

どういう意味なんだろ。その後仁王は、俺アトベがいい、とか言ってた。ジャージの投げ方練習したからって。でもアトベはボウヤに当たるからって部長が。…アトベって何か聞いたことあるな。ボウヤは誰だろ。変わった名字だ。



「えーっと、…なんかよくわかんないけど頑張ってね?」



あたしのなんかよくわかんない励ましに、二人とも笑った。

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