45 最悪な日

最悪最悪最悪!

あたしは心の中で何度も何度も連呼してた。ちなみに全力疾走中。どこに向かってるか?あの生意気お気楽お寝坊ボーヤの家。

赤也を叩き起こしに!



遡ること一時間前。学校にみんな集合していた。赤也以外は。



「全く、また赤也は遅刻か!」

「まーいーじゃん。今日午後からだろ?その前に飯食ってから行こうぜ。」



そう。今日は試合の日。全国初戦。なのにあのバカ也は普段通り遅刻だって。何やってんだか。



「じゃあ先に俺たちだけ…、」

「精市。」



さっきから、何やら携帯で電話をしていた柳が割って入った。



「今貞治から連絡が入った。どうやら今日、棄権したチームがあったそうだ。」



全国棄権って、何があったんだ。もったいなさすぎる。全員腹痛とかかな。



「俺たちの試合が早まるかもしれないってこと?」

「そうなるな。前の試合の進行状況にもよるが。」



てことは、みんな早く行ったほうがいいんだよね。準備もあるだろうし。



「じゃあ、あたしが赤也呼びにいく。」



みんながこっちを見た。ちょっと驚いてる。なによ、あたしが自分からそんな面倒なこと志願するなんて珍しいとか思ってるんでしょ。

でもみんなはもしかしたら早まるかもしれない試合に遅刻するわけにはいかないし。赤也はこのままほっといたら下手したら夕方まで寝てるかも。じゃああたしが行くしかない。



「赤也の家行ったことある?試合の会場はわかってる?」



部長をはじめ、みんなちょっと心配そうな面持ち。わかってますよ。あたしが若干方向音痴だと感付いてんでしょ。でも、赤也ん家は前行ったことあるもん。試合会場は赤也がわかってるだろうし。地図付きのトーナメント表だってある。



「大丈夫大丈夫!さぁ、みんな早く行きなよ。あたしも急ぐからさ。」

「…じゃあお願いしようか。なぁ真田。」



部長は弦一郎に同意を求めた。弦一郎はさっきから腕を組んだまま眉間にシワを寄せて(元からか)考えこんでるみたいだった。



「……いや、やはり俺が行こう。」

「は?」

「お前一人だと不安でしょうがない。」



でたよ、過保護。もーいつものことだけど、あたしだっていい加減自分でできることだってあるんだから。少ないけど。



「いいって。あたし一人で大丈夫。」

「しかし…、」

「弦一郎は試合があるでしょ。さっさと行け。」



そう言って、半ば強引に弦一郎を跳ねとばした。みんなも割と素直に受け入れ、ぞろぞろと駅まで歩いていった。

さーて、あたしも赤也ん家に行かないと。赤也はいつも自転車で来てるけど、あたしは自転車今ないし。取りに帰るのも面倒だし。

学校の前のバスで行くことにした。ちょうど、あたしがバス停に着いたところでバスが来て、あたしは乗り込んだ。



途中、駅まで歩いていくみんなを追い越した。先頭に弦一郎と柳、部長。あとすぐ見つかったのは丸井。ほんとに目立つね。それから……、
仁王もいた。

頑張ってね、仁王。
誰よりも、応援してるよ。



と、ここまでは順調だった。
けど、





「………はっ!」



やばい、あたし寝てた。バスにゆらゆら、冷房の涼しさと窓から注ぐ日向加減にぐっすりとそれはもう。



「…ここどこだ?」



赤也ん家は確か何とか台4丁目。うちの学校から5、6こで着くはずだけど。



「すいません。」



勇気を振り絞り、運転手さんに聞いてみる。(走行中は運転手に話し掛けるのはやめましょう。)



「ああ、さっき通りすぎましたよ。」

「あー、そーなんですね。ありがとうございます。」



やばい。絶対やばい。ここで慌てふためくと乗り過ごしたのバレバレでかなりダサいので冷静に受けとめてみる。

いや、しかし冷静になってる場合じゃない。早く降りて反対方向のバスに乗らなくちゃ…!

あたしは次の停留所で降り、反対側の停留所に走った。危うく車にひかれそうだったけど。こんな現場弦一郎に見られたら絶対叱られる。



「えーっと、次のバスは……、は?」



30分後!?何これ!ちゃんと働けバス会社!住民の需要に気付け!

と、キレててもしょうがない。1つか2つしか乗り過ごしてないから、走っていっても間に合うだろう。

あたしは走ることに決めた。30分後のバスを待ってても間に合うかもしれなかったけど。
もしも、赤也が先に目覚めちゃってたら。入れ違いで会場に向かってたら。

あたし一人でたどり着く自信がありません。
そんなわけで全力疾走。この話の最初に戻るわけです。

最悪最悪!このくそ暑い中なんで走らなきゃいけないんだ!

ま、半分以上自分のせいだけど。ここは赤也のせいにしときます。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





「セーフ!間に合ったぁ!」



俺たちがストレッチをしてると、赤也のバカでかい声が響いた。

まーったく、こんな試合の日に遅刻なんてよー、あいつエースの自覚あんのかよ。あ、自覚だけはあるんだっけ。自称だもんな。



「赤也遅いぞ!」

「す、すんませんっス!」



真田が制裁をしようと赤也に近づく。けど、真田も俺も、きっと周りのみんなも異変に気付いた。

赤也の目が赤かった。

いつもの赤目とは違って。たぶん、泣いたような感じ。



「お前、何かあったのか?」



真田が振り上げそうになった手を引き、赤也に聞いた。一瞬、真田に殴られるから怖くて涙目なのかと思ったけど。



「へ?…い、いや、な、何もないっスよ!」



すげ動揺してやんの。バレバレだろい。

てか、あいつはどーしたんだ?迎えにいったから一緒に来たはずなのに、周り見渡してもいない。



「おい、茜は?一緒じゃないのかよ?」



俺の言葉に赤也は明らかにビクッとした。なんだ?茜と何かあったのか?



「あー…っと、茜先輩は、急用とかで、今日は欠席するっス!」

「はぁ!?」



何言ってんだこいつ。急用?だってさっきまで一緒にいたじゃねーか。欠席ってなんだよ。俺たちの試合より大事な用があんのかよ。

俺の心の声は思わず外にでてたらしく、いきなりまくし立てたせいで少なからず赤也はびびってた。



「赤也、本当のことを言え。」



俺が詰め寄る前に、真田が言った。

そーだ、こいつ絶対なんか隠してる。茜のこと、なんかあったんだ。



「赤也、言えないようなことなのかい?」



今度は幸村君が詰め寄る。ああ、俺ならこの時点でギブ。何かどーしても隠したいことあっても言っちゃう。だって幸村君怖えもん。



「えーっと……、」

「うん。」

「すんませんっ!」



いきなり大声で赤也は頭を下げた。

ますます意味わかんねぇ。いったい何があったって………、



「茜先輩が……、事故にあったんス…!」



頭ん中が真っ白になった。

周りのみんなもシンとして。世界中の時間が止まったみたいだった。

ただ、今まで何の言葉も発してなかった仁王が、持ってたドリンクを落とした。
ただそれだけ。いったいどれくらいその静寂が続いたかは、わかんねぇ。

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