44 ブン太お悩み相談室

全国大会。初戦の前日。いつも通り練習が終わって、それぞれ自主練に入る。

俺は、昨日に引き続き仁王とペアで練習。けど、



「今のは絶対仁王だろ。」

「や、どー考えてもブン太じゃろ。この跡見てみんしゃい。」



仁王はラケットの先でボールの跡をつつく。

お互い取れなかった球の擦り付け合い。

柳、今回の戦略失敗じゃないのか?だって俺も仁王も攻撃派。ボール追っかけるのは得意じゃない。おまけに自慢じゃないけど俺ら協調性0だぞ。それは前からわかってたはず。

なのに何で今回に限って。まぁ、多少連携うまくいかなくても負けることはねーけどよ。

俺がボーッとつっ立ってると、仁王は飛んでったボールを拾ってた。ついでに周りのボールも拾いまくってる。



「なぁ、」

「?」

「お前ボール拾い、けっこう好き?」



何となく思った。別に今まで気になんなかったけど。そーいやこいつ、よくボール拾ってんなって。普通はそんなこと1、2年がやるんだけど。…赤也はやんねーけど。

最初練習サボるためかと思ったけど違うみたいだし。



「好きなわけなか。」

「…あ、そ。」



だよな。そんなの好きなやついねーし。だいたい仁王だぞ。好きなわけねぇもんな。

アホなこと真剣に考えちまったと反省しながら、仁王から放られたボールを受け取る。



「好きじゃないが、」

「あ?」

「そーゆうのやったほうがいいって、言われた。」

「…誰にだよ。」



仁王は答えず、定位置についた。練習相手に向かって、始めるよう合図を送る。



「ブン太。」

「ん?」



俺に呼び掛けつつ、仁王は向こうからきたサーブに軽くリターンエースを決めた。

こいつもうまいし、俺もうまい。でもさっきから、二軍相手にうまいこといかない。やっぱチームワーク悪いからかな。



「何で幸村、試合出ないんだと思う?」



今度は俺がリターンエースを決める。なんつーか、個人プレーならうまくいくんだけどな。



「秘密兵器だからじゃん。」

「へぇ。」

「柳も言ってたろ。」

「…俺は、」



今度は何回かラリーが続いた。話してるせいか、お互い決定打をなかなか打てない。



「幸村は、もうテニスができないんじゃないかって、」



俺は、ボールを追いかけるのをやめた。明らかに俺のエリアだけど俺のせいじゃない。仁王のせいだって。



「変なこと言うなよ。」



抑えようと思いつつ、思ったより怒った声になっちまった。



「思ったこと言っただけじゃ。」

「だからって適当なこと言うな。」

「じゃあ何で幸村は試合出ない。」

「秘密兵器だからだって言ってんだろ。」

「秘密兵器?…はっ、」



仁王は俺をバカにするかのように笑った。うぜー。キレそう。



「関東大会出れなくてあれほど悔しがってたやつが、全国初戦に参戦したくないはずないじゃろ。」



もっともだと、思った。思ったからこそ、俺は怒った。俺だって気付いちまったよ。あのメンバー発表されたときに。あーもう幸村君テニスできないんだなって。いつまでできないかはわかんないけど、とりあえず全国は間に合わないんだなって。

だからってよ、聞き返せるわけねーじゃん。空気読めない赤也じゃあるまいし。幸村君がしばらく出ないって言った、じゃあそのうち出るんだろって。

そんなやたらポジティブなことしか考えられなかった。

信じるしか、ねーじゃん。



俺も仁王も、立ち尽くしたまま。コートの向こうの相手はかなり困ってるとは思ったけど。俺と仁王に文句言うわけにもいかねーだろうし。

いやーな空気。今俺が否定しても仁王とケンカになるだろうし。かといって肯定すんのは絶対やだ。

仁王も仁王で何も言わない。まさか自分で話題振っといて後悔してんじゃねーだろうな。



「お疲れ!」



嫌な空気の中、耳に響いた神の声。

女神だ。



「…えと、麦茶、持ってきた。」



もう帰ったかと思ったけど。わざわざまた作って持ってきてくれたわけか。

しかもどことなく挙動不審。仁王がいるからか。

嫌な空気だったのに。きっと俺の顔、しかめっ面になってたと思う。

でもいつの間にか。こいつが、茜が現れてから、急に顔が笑った。



「おー、サーンキュ!」



俺が茜に近寄ると、仁王も来た。きっとこいつも、茜が来てよかったと思ってんだろ。



「どう、うまくいってる?」

「あー、まぁ、な。」



チラッと仁王を見ると、
あからさまにはぁ?って顔、された。



「俺もうブン太と組むの嫌じゃ。」

「どーゆう意味だよ。」

「だって全然動かんし。」

「それはこっちの台詞だっての。」

「まぁまぁ。」



やっぱこいつは、周りを笑顔にさせる力あんのかな。さっきまでの空気、打ち壊してくれた。

俺も仁王も、笑ってる。



「3Bコンビ、絶対勝ってね。」



言われて気付いた。クラス一緒だった。茜も一緒だし、じゃあ今ここにうちのクラス集結してんだ。

あ、しかも合唱コンも俺ら一緒じゃん。伴奏、指揮者、パートリーダー。

…なんかやたら仲良しみたいで恥ずいな。

でも、それぐらい関わりあるんだったら、協調性0とかダブルス合わないとか言ってる場合じゃねーよな。

そんなこと思ってたら、他の奴らにも麦茶配りにいくのか仁王がいて緊張するのか、そそくさと茜は去っていった。



「絶対勝ってね、だって。」

「聞いとった。」

「負けらんねーな。」

「元から負ける気はないぜよ。」



応援されてうれしかったのか、口からは憎たらしい言葉が出てるのに、仁王は笑ってる。



「いいやつだと思うけど。」



お節介とは思った。でも思わず言っちまった。だって、本当にあいついいやつだもん。今までの女友達の中で一番。

もし、あいつが、仁王を好きじゃなかったら。俺がそのこと、気付かなかったら。もしかしたら……、

…それはないか。



「俺、」

「?」

「ひどいフラれ方したんよ。あははは。」



もちろん顔は笑ってない。なんだ、フラれたって、元彼女か?



「だからまーだ彼女いらんかなと。」

「…何があったんだよ。」



あの仁王をこんなに打ちのめした攻略法、是非聞きたい。

いや、悪い意味でなくて。

一応、クラスメートとして。今回限りのパートナーとして。合唱コンのリーダーとして。
ブン太お悩み相談室、開いてみました。



「実はな、かくかくしかじか。」

「省略すんな。」



そーいや二軍のやつに自主練付き合ってもらってたのに待たせたままだった。まいっか。

とりあえず仁王から悩みを無理矢理聞いた。たぶん、9割り方嘘混ぜたり省いたりしたんだろうけど。

なんか、仁王に、
幸せになれよって、言いたかった。

あいつとならなれる気するけどな。
それはお節介すぎるから言わなかった。

別に仁王に今まで興味なかったけど。てか興味持ったところで怖い。

でも、 茜のせいかな。
俺も仁王に興味出てきた。
…変な意味じゃないからな。自分であいつはこーだろうなって思ってたことと違うことされると、あれ何でだってなるじゃん。そんな感じ。

柳が今回に限ってこのダブルスにした理由、何となくわかった気がする。

うまいとか強いとかじゃなく、
チームワーク。
優勝するために一番不可欠。

幸村君も絶対、
戻ってくるよな?

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