29 熱い胸に味噌汁

ガバッ……と。

勢いよく起きたら7時だった。一気に、落ち込んだ。

弦一郎こなかったな。

自分でまいた種とはいい、へこんじゃってる自分が悔しい。

いつもだったらてきぱき準備するのに、弦一郎がいないせいでのらりくらりしてしまう。

今日からもう、今までみたいにだらけちゃうんだろうなー…、



―ガチャッ



ちょうど、パジャマの上を脱いでワイシャツを羽織ったところで部屋の扉が開いた。

そこに立っていたのは、全然、予想もつかなかった人物。



「あ、」



きれいな銀髪に、きれいな顔立ちの彼の、目は真ん丸く開いた。



…仁王?

なんで仁王が………、



「…すまん。」



申し訳なさそうに、そそくさと扉を閉めて出ていった。

その仁王の態度で気付いた。



「うああああああー!!」



きっと近所中、響き渡った絶叫。

扉の向こうから笑い声が聞こえる。



「まだ寝とるって真田に聞いたんじゃがの。」

「げ、弦一郎に…!?」



あまりにショッキングなことに、あたしは半泣きだった。



「迎えにきたんじゃ。下で待っとるよ。」



とたとたと、下に降りていく音がした。

迎えにきた?弦一郎の頼み?なんで仁王が?てか、

見られちゃったよー!最っ悪!恥ずかしすぎて死にたいっ!

とりあえず着替えも済ませ、下に降りてく。階段の途中から、いい匂いがしてきた。

リビングの扉を開けると、テーブルにご飯や味噌汁や魚が並んでた。



「これ…、仁王くんが作ったの?」

「おう。」



ほらよって、最後に卵焼きがでてきた。



「い、いただきます。」

「はい、どうぞ。」



魚もちゃんと焼けてるし、味噌汁もおいしいし、卵焼きもきれい。



「仁王くんって、料理の天才?」

「はは、そんなうまいか?」

「うまいよ!」

「そらよかった。」



普通の朝食だけど、あたしにはうまく感じた。

こんな朝だからかな。それとも仁王が作ってくれたからかな。

味噌汁をすするふりして、鼻もすすった。

あったかく胸を通り抜ける。



「あと3日じゃな。」

「え?」

「合宿。」



どきーんっと心臓が跳ねた。ちょっと忘れてたけど、その問題があったんだっけ。



「楽しみじゃ。」

「う、うん。」

「夜はみんなで肝試ししたり、花火したり。」

「花火!いいなー!肝試しは嫌いだけど。」

「なんじゃ、お化け嫌いなんか?」

「お化けっていうか、びっくりするのが嫌い!」

「なるほど。それは驚かし甲斐あるのう。ますます楽しみじゃ。」



ククッと笑う仁王は、さすがに詐欺師と言われるだけあって、そーゆうことに長けていそうなのが伝わる。

この仁王の話し振りから、あたしは合宿に行くこと前提っていうのがわかった。



「やだ!あたしほんとに心臓止まるんだから!」

「止まったら人工呼吸してやるぜよ。」



こんなふうに笑う仁王を見ると、やっぱり胸が熱くなる。味噌汁のせいじゃないね。

仁王は昨日のことにも触れず、あたしが迷ってることも気付かないふりしてくれた。

なんでこんなに優しいんだろう。

もちろん仁王だけじゃない。みんな、みんなそれぞれが、みんならしく、優しい。

あたしはテニス部のいいところを知ることができて、うれしいけれど少し切なかった。

胸が熱くなりながらも、味噌汁も飲み干した。



仁王が作ってくれたザ・和食の朝食も完食し、一緒に学校へ向かう。

どうやら今日は朝練はなく、しかも弦一郎は風紀委員の仕事で朝早くに学校へ行ったらしい。それで弦一郎が仁王に頼んだって。

それにしてもなんで弦一郎は仁王に頼んだんだろう。

まさか気を利かせて…?

ていうか、中三にもなって迎えにこなくてもいいんだけど。

…まぁ、仁王がきてくれてすーっごくうれしいけど。

学校に近づくにつれて、周りに生徒が増えてきた。こそこそと、話し声も聞こえてきて。もしかしたら仁王に迷惑になるかもって心配した。



「お、真田。」



校門にて、明るい髪の生徒を取っ捕まえて説教してる。

それはもう、すごい剣幕で。このままだと銀髪の仁王やスカートの短いあたしは確実に検挙され叱られる。

困った…、



「茜、走るぜよ。」

「え?」



仁王はあたしの手首を捕まえて、走り出した。

一気に弦一郎の横を擦り抜ける。

近くにいた柳生は、止めにすらこなかった。

多分、仁王と目が合って、軽くため息をついてるように見えた。柳生も大変だね。



「むっ!仁王!茜!」



後ろのほうで弦一郎の怒鳴り声が響いた。

下駄箱についたところで、二人して笑いながら胸を撫で下ろす。



「弦一郎怖かったねぇ…!」

「ああ。俺らを一掃したかったんじゃろ。」



ざまあみろーって仁王は楽しそうに笑ってる。

一掃…?

そっか、仁王もあたしも弦一郎は捕まえたかったから、二人まとめるために、仁王に迎えにこさせたのか。

…確かに、弦一郎はそこまで気利くはずないか。



「さーて、まだちょっと時間あるし、屋上でも行かんか?」



でも、どっちにしてもこーゆう時間を与えてくれた弦一郎に感謝した。

ずっと仁王と一緒にいて、迷惑かなって思ったけど、仁王は全然嫌そうじゃないし、

むしろ、前のあたしだったらまず自分が嫌がってたはずなのに。

あたしも変わった。

テニス部が、好きなんだ。
仁王のことも…。

合宿、行きたい。

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