02 レンジ

コートではすでにテニス部が練習をしていた。汗を流す男子はわりと好きだ。けどさ、

そのコートの周りを囲む女子たち。君たち、早起きし過ぎでしょう。

立海に通うのは3年目だけど、こんなに早く来るのは初めてで、
世の中には早起きする中学生がこんなにもいるってことが、衝撃的だった。



「おはよう。弦一郎。遅かったな。」



後ろから低いイイ声がして、弦一郎とともにあたしは振り返った。



「ああ、蓮二。すまん。代わりに始めてくれたのだな。」



弦一郎がレンジと言う、背の高いこの人。

柳蓮二だ。弦一郎とかなり仲良しさん。同じクラスでもないのにいつも一緒にいる。

弦一郎と話すときに近くにいることはあったけど、直接話したことはない。
ちょっと緊張。ドキドキ。



「いや、問題ない。…それより弦一郎、彼女は例の、」



あたしがじーっと見つめてると、柳と目が合った。雰囲気が柔らかくて、思ったよりいい人そう。

てゆうか、例のってなんだよ。



「そうだ。今日から連れてくることにした。体力はある方なんでな、ボール拾いでもさせるか。」

「ちょっと!明日からあたしは普通にくる!てゆうかボール拾いなんて…、」

「そうか。よろしく。俺は柳蓮二だ。」



あたしの言葉を遮って柳は握手を求めてきた。なんか、嫌な感じね。



「…上野茜です。よろしく。」



ぶっきらぼうに挨拶をして握手をした途端、女子のざわめきが聞こえた気がする。睨むような視線も感じる。女のあたしがなぜか男テニのコートにいるせいもあるだろうけど。

だからやなんだよ、テニス部と関わるの。



「では、俺は着替えてくる。」

「はいは……、ちょっと待て弦一郎!」



あたしの呼び止める声を一切無視して弦一郎は去ってった。

ちらりと横目で見上げる。



「どうかしたか?」



二人きりにさせんなよ…!気まずいでしょ!あのKYの皇帝め!
ああ周りの目も痛い。そもそもあたしは今、恐れ多くもテニス部敷地内にいる。要は敵陣だ。ここは逃げるに限る。



「えっへっへ…、じゃ〜あたしはこれで…、」



あたしは走り去った。
後ろから聞こえた柳の呼び止める声を無視して。

だってそんな冗談じゃないよ。女子生徒を敵に回すなんて。だいたい、いきなり二人きりでしゃべれるかっての。ボール拾いなんかもやってられるかっての。

あたしはため息をつきながら教室に向かおうとする、けど、



「…教室どこだ?」



そういえば今日から三年生でした。あたし何組だろ?

たぶん新クラスの貼り紙がされるのは8時前とかだろう。それまでどーしよ。

弦一郎は部室にいてもいいって言ってたけどそれは無理。あそこ、女子の間では“聖域”って呼ばれてんですから。

暇つぶす時間、ぱっと思いついたのは、屋上。今のこの季節、絶対あったかくて昼寝に最適だ。行ったことはないけど、もしかしたら開いてるかもしれない。

あたしは屋上に向かった。



「わーい、ぽかぽかしてる。」



あったかい陽気。ごろんと横になると、すぐに眠気が襲ってきた。
どんくらいで起きようとか、そんなこと微塵も考えていない。





―ブーッブーッブーッ…



「……ん?」



ポケットに入れてあった携帯のバイブで目が覚めた。電話かしら。

ディスプレイの名前を見て固まる。どーしよ。出なきゃまずいかな。



「…はい。」

『茜!お前今どこにいる!?』



鼓膜が破れそうなぐらいのでっかい声。弦一郎は本当、お父さんみたいだ。



『聞いているのか?』

「聞いてるって。…あれ?」



ふとあたしは時計を見た。9時半すぎ。

始業式終わってる!?
うわー、最悪。



『始業式もサボってどこに行っていたんだ!たるんど…、』

「ごめんなさい!」



あたしの一発謝罪で誠意が伝わったのか、弦一郎はため息一つつき、それ以上は責めなかった。



『学校にはいるんだな?』

「うん。なんか寝てた。すいません。」

『まったく。もうすぐHRが始まるぞ。教室に戻れ。』

「はーい。」



苦労かける。呟きながら電話を切った。

朝も、弦一郎はあたしが遅刻しないようにって、起こしにきてくれたんだよね。悪いことしちゃったな。…まぁ、だからって朝練にまで連れてくなって感じですが。



「…あれ?」



教室に戻ろうと立ち上がりスカートをパタパタ払うと、目の前に青色のビンのようなものを見つけた。

手にしてわかった。懐かしげな物。縁日かなんかで売ってる、



「シャボン玉だ!うわー懐かしい。」



首から下げるタイプのもの。あたしは思わず首にかけた。誰かの忘れ物かな。

何となく懐かしくなって、誰のものかわからないシャボン玉を吹いてみる。きれいに膨らんだ。
思い起こせば寝る前はなかったよな。

あたしが寝てる間に、誰か来た?

うわっ!恥ずかしい!あたしすんごい格好で寝てたけど!足開いて口開いて…うああああああ……、



「ま、いっか。」



それよりHRに遅れたらまずい。急がねば。

シャボン玉はあたしが頂くよ。

|
[戻る]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -