数学のテスト返却。
この、何ともいえないドキドキ。てか、ハラハラ。
男子から先に返されてく。
「仁王ー。」
「はーい。」
「…お前カンニングしたろ?」
「あ、センセーひど。実力実力。」
どうやら仁王は相当よかったらしい。うらやましい。
続いて赤い髪の彼は、
「丸井ー。」
「…。」
「…おい、目ぇ開けて答案見ろ。」
「…………………ッ!ぃよっしゃあ!」
片目を開けてこっそり自分の答案と対面した丸井、まさか丸井も点数よかったの!?
「いや、そんな喜ぶほどじゃなか。」
横から堂々と盗み見た仁王に、あっさり暴露されてた。赤点じゃなかったってことね。
「上野ー。」
「……神様仏様幸村様。」
「お前も目ぇ開けろ。」
「………………ッ!やたっ!」
「そんな喜ぶほどじゃないぞ。」
なーに言ってんすか!あたしの中じゃこれはいいほうだ!
ルンルーンって席についたら、
騒がしい、赤いやつがやってきた。
「お前何点だった?」
「ふっふっふ…、64点!」
「ちくしょ!…俺62。」
「勝った勝ったー!」
「なーにレベルの低い争いしとるんじゃ。」
仁王がいつもにも増して意地悪そうな笑みを浮かべてる。
「そーゆう仁王くんは?」
「あー、こいつの数学は聞かないほうがいいぜ。」
そういえば仁王は数学得意だったっけ。
てゆうかあたしも一時は数学得意だったはずなのに。朝予習してたし。
でもいつの間にやら毎日テニス部に顔出すようになったからな。てことは点数下がったのはテニス部のせいか。ちくしょう。
「お嬢さん、俺でよかったら家庭教師しますよ?」
「騙されるな茜。こいつウソしか教えねーから。」
「ククッ、ブンちゃんはコロッと騙されるからのう。」
チラッと仁王の点数を盗み見みると、
98点…!すごい!
ますますカッコいいな、仁王…!
てか家庭教師してほしい!
「上野ー。」
みんなの返却が済んだところで、あたしは再び先生に呼ばれた。なんだろう。
「ちょっと話あるからHR終わったら職員室にこい。」
先生に呼び出されるのはそれだけで緊張する。丸井も仁王も、何やらかしたんだ〜?ってからかってきたけど、何もした覚えはない。
とりあえずHR後、職員室まで行った。
「お前、確か読書部だったよな?」
テスト前は入れない職員室。久々に入った。先生の机は書類が山積み。これから成績つけたりするんだろう。期末は先生も大変だな。
読書部。読書部?
ああ、うっかり忘れてた。あたし読書部だったっけ。読書部と言う名の帰宅部。(第一話参照。)
「そーですけど、」
「だよな。実はこないだな、ある生徒から、お前が男子テニス部にも入ってるんじゃないかって、言われたんだ。」
「…え、」
「うちは部活の掛け持ち禁止だろ?だからそこんとこ聞いとこうと思ってな。」
そうだ。あたしはテニス部に入ってるわけじゃない。あくまで読書部。
でも近頃毎日行ってるし、ジャージも着てボール拾いしたり麦茶用意したりしてる。
そりゃ他から見たら、テニス部に入ってるように見えるよね。
「まぁ、違うならいいんだぞ。」
「は、はい…。」
「テニス部は全国にも出るから、部員かどうかはっきりさせる必要もある。追っかけも程々にな。」
追っかけ…。
やっぱり周りから見たらそう思われるんだろうか。他の人は、マネージャー(仮)だとか、丸井が言ってくれたこと、知らないわけだし。
先生は、もしテニス部に入るなら読書部やめてからにしろって、付け足してくれたけど、
結局あたしはテニス部に、入れるの?
部長からはっきりと許可をもらったわけでもないし…、
だらだらと、何となく曖昧なポジションでやってきたけど。
というより、あたしがこのポジションを選んだんだ。みんなは最初からマネージャーって言ってくれてたのに。あたしが弦一郎やみんなに甘えて…。
“テニス部は全国にも出るから”
テニス部は立海の期待。エリートだ。要は。
曖昧なあたしがこのままいていいはずない。
でも、
“一緒に全国、目指そうぜ”
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あれ?あいつは?」
「あいつ?誰っスか?」
「あいつだよあいつ。茜。」
「あー。……いないっスね。遅刻じゃないっスか?」
珍しい。いつもは練習始まる頃には麦茶作って持ってきてくれんのに。今日はいない。
「おーい、仁王。」
「なんじゃ。」
「あいつ知らね?」
「んー…、まだ着替えとるんじゃろ。」
いやいや、それにしちゃ遅いだろ。もう授業終わってだいぶたつぜ。
そーいや今日はここ来る途中見かけなかったな。どっか行ったのか?
「あ、」
仁王が思い出したように声を出した。
「あれじゃ、職員室。」
「職員室…?」
「呼び出されとったやろ。」
ああ!思い出した。そーいやそーだ。じゃあ職員室に行ってんのか。そっかそっかー。
……にしても遅くねぇ?
「なぁ、」
去っていこうとした仁王のしっぽを掴む。ガクッと仁王の首が後ろに下がった。ああ、しっぽって、仁王の髪の毛な。
「…なんじゃ。」
ちょっと怒っちまった。わりーわりー。
「職員室に何しに行ったんだ?あいつ。」
「知らん。」
「どっちにしろ遅いじゃん。」
仁王はまだ不機嫌そうに、俺に乱された後ろ髪を結び直した。そんな怒んなよな。
「気になるんなら探しにいけばよか。」
「でも練習中だし。」
「じゃーおとなしく待っとけ。」
「でも遅い!」
はぁー、と、仁王は深ーく深ーくため息をついた。ワガママだと思ってんだろ。
でも気になんだよ。あいつがいねーの。
「幸村。」
仁王は幸村君のとこに行った。
「マネージャー(仮)が迷子じゃき。迎えいってええ?」
迷子?何言ってんだこいつ。んな正直に言ったって、許してくれるわけ…、
「ああ、いいよ。」
幸村君は笑えるぐらいあっさりOKした。…なんで!?
「はよう行ってきんしゃい。」
「お、おう。…てか、なんで幸村君あんなあっさりなんだ?」
「…幸村もあいつがいないの気にしとったんじゃろ。」
ぼそっと呟いた仁王の言葉の意味はわかんなかったけど、
とりあえず感謝して、俺は走って校舎に向かった。まずは下駄箱だな。
下駄箱、あいつの靴はまだあった。てことはまだ校舎内ってこと。やっぱまだ職員室なのか?
じゃあ教室行って、まだ荷物あったらあきらめよう。まだ職員室ってことだろ。
そう思って教室行ったけど、荷物はなかった。っかしーな。職員室?
結局職員室にもあいつはいなくて、それどころか危うく理科の先生に捕まりそうだった。テストヤバかったもんな。説教なんかお断りだ。
あとあいつが行きそうなとこが思いつかなくて。
ますますあいつがどこで何してんだか気になり始めた。
真田に聞いてみる?もしかしたら今日休むつもりかもしんねーし。
そう思ったところで、廊下の向こうの方に、人を見つけた。
一発で、茜だってわかった。俺の天才的視力をなめんなよ。
体は勝手に走りだした。近づくにつれて、だんだんと安心してきた。ようやく見つけたぜって。
「茜!」
「…あれ?丸井?なんで…、」
「お前おせーよ。喉乾いた。麦茶!」
俺のいつものワガママに、こいつは笑ってついてきてくれると思った。けど、今日は違った。
「あー…、あたし、」
「?」
「テニス部行くの、やめようかなって。」
…いきなり何言ってんだこいつ。今更?
「あたし、実は読書部なんだよねー。」
「そーなの?」
「そうそう。だからテニス部にはちょっともう行けないかなー。掛け持ち禁止だし。」
「はぁ?だったら読書部やめりゃいーじゃん。」
めちゃくちゃなこと言わないでよーって、笑われたけど、
お前のほうこそめちゃくちゃじゃねーか。今更…、
「じゃあ、そゆことで、あたし帰る!」
「ちょ…!」
思い切り、腕掴んだ。掴まないと、こいつは逃げ足はえーから。逃げちまう。
力任せに掴んだもんだから、痛いって小さい声が聞こえた。
でも俺は緩めなかった。
「いきなり何言ってんだよ。」
「丸…、痛い…!」
「また何か言われたのか?」
「…え?」
「誰か、女にまた呼び出されたのか?」
一瞬止まって、違うって言った。本当かどうか知らねーけど、何かあったとしか考えらんねぇ。だって、
あの勉強会の日、言ってたじゃねーか。全国一緒に行くって。うれしそうに笑ってたじゃねーか。そんなすぐ変わるなんておかしいだろ…!
「………じゃないから。」
「え?」
「あたしはテニス部じゃないから。マネージャーでもない。」
はっきり、拒絶された。
俺は不器用だけど、うまいこととか言えないけど、こないだ、
俺は自分の素直な気持ちを言った。
そんでそれがこいつにも伝わったと思ってた。だから一緒に全国行けるって、思ってたんだ。
なのに…。
探しまくって汗かいたせいで、強く握ってる手に汗が滲んできて。
これ以上は駄目だって思って、手を離した。
また明日ね。
そう言って茜は帰っていった。
好きなお菓子が奪われたガキみたいに立ち尽くす俺を、残して。
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