27 さよならマネージャー(仮)

「じゃあ答案返すからなー。呼ばれたら取りにこーい。」



数学のテスト返却。
この、何ともいえないドキドキ。てか、ハラハラ。

男子から先に返されてく。



「仁王ー。」

「はーい。」

「…お前カンニングしたろ?」

「あ、センセーひど。実力実力。」



どうやら仁王は相当よかったらしい。うらやましい。

続いて赤い髪の彼は、



「丸井ー。」

「…。」

「…おい、目ぇ開けて答案見ろ。」

「…………………ッ!ぃよっしゃあ!」



片目を開けてこっそり自分の答案と対面した丸井、まさか丸井も点数よかったの!?



「いや、そんな喜ぶほどじゃなか。」



横から堂々と盗み見た仁王に、あっさり暴露されてた。赤点じゃなかったってことね。



「上野ー。」

「……神様仏様幸村様。」

「お前も目ぇ開けろ。」

「………………ッ!やたっ!」

「そんな喜ぶほどじゃないぞ。」



なーに言ってんすか!あたしの中じゃこれはいいほうだ!

ルンルーンって席についたら、

騒がしい、赤いやつがやってきた。



「お前何点だった?」

「ふっふっふ…、64点!」

「ちくしょ!…俺62。」

「勝った勝ったー!」

「なーにレベルの低い争いしとるんじゃ。」



仁王がいつもにも増して意地悪そうな笑みを浮かべてる。



「そーゆう仁王くんは?」

「あー、こいつの数学は聞かないほうがいいぜ。」



そういえば仁王は数学得意だったっけ。

てゆうかあたしも一時は数学得意だったはずなのに。朝予習してたし。

でもいつの間にやら毎日テニス部に顔出すようになったからな。てことは点数下がったのはテニス部のせいか。ちくしょう。



「お嬢さん、俺でよかったら家庭教師しますよ?」

「騙されるな茜。こいつウソしか教えねーから。」

「ククッ、ブンちゃんはコロッと騙されるからのう。」



チラッと仁王の点数を盗み見みると、

98点…!すごい!

ますますカッコいいな、仁王…!
てか家庭教師してほしい!



「上野ー。」



みんなの返却が済んだところで、あたしは再び先生に呼ばれた。なんだろう。



「ちょっと話あるからHR終わったら職員室にこい。」



先生に呼び出されるのはそれだけで緊張する。丸井も仁王も、何やらかしたんだ〜?ってからかってきたけど、何もした覚えはない。

とりあえずHR後、職員室まで行った。



「お前、確か読書部だったよな?」



テスト前は入れない職員室。久々に入った。先生の机は書類が山積み。これから成績つけたりするんだろう。期末は先生も大変だな。

読書部。読書部?

ああ、うっかり忘れてた。あたし読書部だったっけ。読書部と言う名の帰宅部。(第一話参照。)



「そーですけど、」

「だよな。実はこないだな、ある生徒から、お前が男子テニス部にも入ってるんじゃないかって、言われたんだ。」

「…え、」

「うちは部活の掛け持ち禁止だろ?だからそこんとこ聞いとこうと思ってな。」



そうだ。あたしはテニス部に入ってるわけじゃない。あくまで読書部。

でも近頃毎日行ってるし、ジャージも着てボール拾いしたり麦茶用意したりしてる。

そりゃ他から見たら、テニス部に入ってるように見えるよね。



「まぁ、違うならいいんだぞ。」

「は、はい…。」

「テニス部は全国にも出るから、部員かどうかはっきりさせる必要もある。追っかけも程々にな。」



追っかけ…。

やっぱり周りから見たらそう思われるんだろうか。他の人は、マネージャー(仮)だとか、丸井が言ってくれたこと、知らないわけだし。

先生は、もしテニス部に入るなら読書部やめてからにしろって、付け足してくれたけど、

結局あたしはテニス部に、入れるの?
部長からはっきりと許可をもらったわけでもないし…、

だらだらと、何となく曖昧なポジションでやってきたけど。

というより、あたしがこのポジションを選んだんだ。みんなは最初からマネージャーって言ってくれてたのに。あたしが弦一郎やみんなに甘えて…。

“テニス部は全国にも出るから”
テニス部は立海の期待。エリートだ。要は。

曖昧なあたしがこのままいていいはずない。

でも、



“一緒に全国、目指そうぜ”



◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「あれ?あいつは?」

「あいつ?誰っスか?」

「あいつだよあいつ。茜。」

「あー。……いないっスね。遅刻じゃないっスか?」



珍しい。いつもは練習始まる頃には麦茶作って持ってきてくれんのに。今日はいない。



「おーい、仁王。」

「なんじゃ。」

「あいつ知らね?」

「んー…、まだ着替えとるんじゃろ。」



いやいや、それにしちゃ遅いだろ。もう授業終わってだいぶたつぜ。

そーいや今日はここ来る途中見かけなかったな。どっか行ったのか?



「あ、」



仁王が思い出したように声を出した。



「あれじゃ、職員室。」

「職員室…?」

「呼び出されとったやろ。」



ああ!思い出した。そーいやそーだ。じゃあ職員室に行ってんのか。そっかそっかー。

……にしても遅くねぇ?



「なぁ、」



去っていこうとした仁王のしっぽを掴む。ガクッと仁王の首が後ろに下がった。ああ、しっぽって、仁王の髪の毛な。



「…なんじゃ。」



ちょっと怒っちまった。わりーわりー。



「職員室に何しに行ったんだ?あいつ。」

「知らん。」

「どっちにしろ遅いじゃん。」



仁王はまだ不機嫌そうに、俺に乱された後ろ髪を結び直した。そんな怒んなよな。



「気になるんなら探しにいけばよか。」

「でも練習中だし。」

「じゃーおとなしく待っとけ。」

「でも遅い!」



はぁー、と、仁王は深ーく深ーくため息をついた。ワガママだと思ってんだろ。

でも気になんだよ。あいつがいねーの。



「幸村。」



仁王は幸村君のとこに行った。



「マネージャー(仮)が迷子じゃき。迎えいってええ?」



迷子?何言ってんだこいつ。んな正直に言ったって、許してくれるわけ…、



「ああ、いいよ。」



幸村君は笑えるぐらいあっさりOKした。…なんで!?



「はよう行ってきんしゃい。」

「お、おう。…てか、なんで幸村君あんなあっさりなんだ?」

「…幸村もあいつがいないの気にしとったんじゃろ。」



ぼそっと呟いた仁王の言葉の意味はわかんなかったけど、
とりあえず感謝して、俺は走って校舎に向かった。まずは下駄箱だな。



下駄箱、あいつの靴はまだあった。てことはまだ校舎内ってこと。やっぱまだ職員室なのか?

じゃあ教室行って、まだ荷物あったらあきらめよう。まだ職員室ってことだろ。

そう思って教室行ったけど、荷物はなかった。っかしーな。職員室?



結局職員室にもあいつはいなくて、それどころか危うく理科の先生に捕まりそうだった。テストヤバかったもんな。説教なんかお断りだ。

あとあいつが行きそうなとこが思いつかなくて。

ますますあいつがどこで何してんだか気になり始めた。

真田に聞いてみる?もしかしたら今日休むつもりかもしんねーし。

そう思ったところで、廊下の向こうの方に、人を見つけた。

一発で、茜だってわかった。俺の天才的視力をなめんなよ。

体は勝手に走りだした。近づくにつれて、だんだんと安心してきた。ようやく見つけたぜって。



「茜!」

「…あれ?丸井?なんで…、」

「お前おせーよ。喉乾いた。麦茶!」



俺のいつものワガママに、こいつは笑ってついてきてくれると思った。けど、今日は違った。



「あー…、あたし、」

「?」

「テニス部行くの、やめようかなって。」



…いきなり何言ってんだこいつ。今更?



「あたし、実は読書部なんだよねー。」

「そーなの?」

「そうそう。だからテニス部にはちょっともう行けないかなー。掛け持ち禁止だし。」

「はぁ?だったら読書部やめりゃいーじゃん。」



めちゃくちゃなこと言わないでよーって、笑われたけど、
お前のほうこそめちゃくちゃじゃねーか。今更…、



「じゃあ、そゆことで、あたし帰る!」

「ちょ…!」



思い切り、腕掴んだ。掴まないと、こいつは逃げ足はえーから。逃げちまう。

力任せに掴んだもんだから、痛いって小さい声が聞こえた。
でも俺は緩めなかった。



「いきなり何言ってんだよ。」

「丸…、痛い…!」

「また何か言われたのか?」

「…え?」

「誰か、女にまた呼び出されたのか?」



一瞬止まって、違うって言った。本当かどうか知らねーけど、何かあったとしか考えらんねぇ。だって、

あの勉強会の日、言ってたじゃねーか。全国一緒に行くって。うれしそうに笑ってたじゃねーか。そんなすぐ変わるなんておかしいだろ…!



「………じゃないから。」

「え?」

「あたしはテニス部じゃないから。マネージャーでもない。」



はっきり、拒絶された。

俺は不器用だけど、うまいこととか言えないけど、こないだ、

俺は自分の素直な気持ちを言った。

そんでそれがこいつにも伝わったと思ってた。だから一緒に全国行けるって、思ってたんだ。

なのに…。

探しまくって汗かいたせいで、強く握ってる手に汗が滲んできて。

これ以上は駄目だって思って、手を離した。

また明日ね。
そう言って茜は帰っていった。

好きなお菓子が奪われたガキみたいに立ち尽くす俺を、残して。

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