24 Lesson

土曜。部長は無事、退院した。

うちに迎え入れて、ジュースだのお菓子だのでみんなでゲームもやってワァーっと盛り上がったところで弦一郎の一言。



「それでは、勉強会を始めるか。」



午後9時過ぎ。

みんなワァーっと、盛り上がってるとき。
ヒー・イズ・KY。

丸井なんかてめー何言ってやがんだってはっきり顔に書いてある。

頭の回転の早い仁王は早々と帰り支度を始めた。

ま、待って!仁王は待って!



「では、各々教科書を…、」

「みんな、今日は俺のために集まってくれてありがとう。こんなに楽しかったのは本当に久しぶり。」



弦一郎を遮って、部長が出てきた。弦一郎は、む?みたいな顔。
弦一郎の話は完全に流されたってことで。



「こないだの試合。これはもうみんな、十分すぎるほど反省してると思う。勝った人も、そうでなかった人も。」



だんだんとみんな俯き始めた。

それにしても部長はすごい。あれだけみんな騒いでたのに。弦一郎の提案にさらに喚き出しそうな空気だったのに。

一瞬にして静まり返った。みんな一言も漏らすまいと、必死で聴いてる。

これが部長。頂点に立つ人。



「正直俺は部長として、あのときあの場にいれなかったことを、恥ずべきことだと思ってる。」

「幸村部長!そんなこと…!」

「いいんだよ、赤也。…思うんだ。今回のことは、誰が負けたからとかじゃなく、それぞれが少しずつ、何か足りないものがあったんだ。だからこれは、みんなの敗北。」



部長は今、すごくいいことを言ってる。みんな、気付いてる?

赤也は…、危ないな。丸井もちょっと、ん?って顔。

柳は当然って顔して、柳生もジャッカルもいい顔してる。

弦一郎はさすがだね。きっと部長の一言一句、弦一郎の心と同じだ。

帰り支度をようやく止めた仁王(まだやってたのか)も、よくわかってるだろう。



「みんなで、この一敗を背負おう。次、這い上がるために。誰の油断もあってはならない。」



誰一人欠けてはならない、今度こそ。

部長の呟いた最後の言葉に、赤也だけが反応した。ずるいっスよって。

負けたのは俺らなのに、結局すべて、抜けてしまった自分の責任にしようとしてるって。

赤也、わかってあげようよ。部長は、

“みんながいるから、立海”
そう言いたいんじゃないかな。

みんなで負けを背負って、みんなで這い上がって、みんなで立ち向かって、みんなで勝利を掴もうって。それこそが立海なんだって。

仲間、か。
胸が熱くなってきた。



「大丈夫。俺もすぐに復帰するし。そしたら今度こそ、立海、優勝だ。」



そう言って部長は右手を差し出した。

赤也がすぐに、自分の右手をそこに重ねる。丸井も柳生もジャッカルも仁王も、重ねて、

柳と、弦一郎が同時に合わさった。



「常勝…、」

「「「立海大!」」」



みんなの声は、静かな住宅街に響き渡った気がする。
加えて、あたしと鈴の拍手も響いた。

大丈夫、きっと次は勝つ。

みんなでまた一から、頑張っていけばいいんだ。
みんながいる立海ならきっと、大丈夫。



「じゃあ、勉強しようか。」



…ん?

って顔が数名。あたしもね。

今まで感動的なお話をしてくださってた部長、何かおっしゃった?



「やっぱり王者立海は成績もよくないと格好つかないからね。真田。」

「そうだ!幸村の言う通り!赤点など論外だぞ!特にそこの三人!」



丸井と赤也とついでにあたしが指差された気がする。あたしは王者ではないはず。



「じゃあとりあえずチームに別れて勉強しようか。蓮二。」

「ああ。俺が最適な相性によるチーム分けを行おう。」



三強の意味がすーっごくわかりました。素晴らしい連携プレー。

すでに帰り支度の済んでる仁王も、観念した様子。

しかし勉強はこの際おいといて、このチーム分けは、かなりおいしいかもしれない。
あたしと鈴の未来がかかってる…!





「うーん…。」

「うーん…。」

「わっかんねー。…お前わかった?」

「さっぱり…。」

「二人とも、ちゃんと自分でやるんだよ。」

「だってわかんねーんだもん。幸村君、答え。」

「まだだよ。もう少し考えて。」



リビングのテーブルにて。あたしの右隣に丸井。真ん前に部長。

はぁ…、やっぱうまくいかないか。

その他:
柳チーム→赤也(一番出来が悪いのでマンツーマン)
柳生チーム→ジャッカル、仁王(多少不得意科目があるという程度なので割と和やか)

そしてなんと、
弦一郎チーム→鈴(まさかのマンツーマン!)

そこは空気読んだね、柳も。

てか、この組み合わせも全部空気読めてるか。

あたしも丸井となら平気だし。部長も…、



「どうかしたかい?」



思わず凝視してしまったら即ばれた。この人敏感だな。



「いやいや!何でも…!」

「そう?わかんないようなら質問してね。」

「幸村君、俺にも教えてくれよ。」

「ブン太は諦めるのが早すぎだよ。」



丸井はブーっと拗ねた。何だか部長と比べると、丸井はほんと子供に見えるな。

部長は、基本的に物静かで。でもむっつりしてる弦一郎とは違ってユーモアもあるし、表情も柔らかい。

それに、あたしは今までビビってたけど、予想外に話しやすい。

やっぱりテニス部に偏見持ってたからな。

気付けてよかった。



「あーもうっ!頭回んねー!」

「元から回ってないくせに。」

「るせ!なんかお菓子余ってねーの?」

「もう全部食べちゃったじゃん。丸井が。」

「くっそー。…なんか買ってきていい?」



実はあたしもちょっと小腹が空いてきてたんだ。お菓子類はほとんど丸井にとられたし。普通のご飯すらとられたし。



「じゃあ買いに行く?ちょっと歩いたとこにコンビニあるし…、」



ちらっと、部長を見やる。ここでOKがでなければ出られない。あたしんちだけど部長がルール(そんな気がする)。



「しょうがないな。早く帰ってくるんだよ。」

「「イエッサー!」」



あたしと丸井は飛び出した。丸井はきっとよっぽどお腹が空いてたから。

あたしはあたしで、ちょっと外に出たかった。なんかさっきから仁王のことしか考えてなくて、勉強に集中できなかったから。

せっかく勉強会なんて開いたんだから、ちょっとぐらい話したいな。



「幸村君、俺にけっこう甘いんだぜ。」



得意気にそういう丸井を見て、
丸井にはいろいろ感謝しなくちゃなって思った。たぶん、テニス部への偏見を消してくれた第一号だから。



「ずっと聞きたかったんだけどよ。」



コンビニからの帰り。これでもかってぐらいに丸井はお菓子を買い込んだ。かなりの量で袋は膨れ上がったけど、全部丸井が持ってくれた。

丸井もいっちょ前に男らしい。



「お前、テニス部はもう平気なの?」



同じような台詞を、ちょっと前にジャッカルに言われた気がする。

あのときはYesって答えられなかった。でも、

今ははっきり、胸張って言えるよ。



「もちろん。見てわかるでしょ?」

「マジか!…よかった。」



小さく呟いただけに、それは丸井の本音だろうとわかって、余計にうれしかった。



「その、前からよく、俺とかにマネージャーなれよって、言われてんじゃん?」

「あー…。」



そういえば最近は言われなくなったな。マネージャー(仮)である意味定着しちゃってるし。

今マネージャーとして誘われたら、断る自信と理由がない。



「これ赤也とも言ってたんだけど、正直さ、俺たちマネージャーが欲しいわけじゃねーんだ。」

「…え?」

「あ、勘違いすんなよ?要は、お前をマネージャーとして受け入れてるわけじゃねーって…、意味わかる?」



“一緒にいるならそれはもう仲間じゃ”



また仁王の言葉が頭を過った。



「だから、お前がマネージャーになってもならなくても、たいして変わんねーんだ。…っかしーな。赤也と話してたときはもっといい台詞が上がってたのに。」



ぶつぶつ呟く丸井は、不器用なやつだ。

今のあたしにとって、この上なくうれしい言葉を、こんなに乱暴に言うなんて。

そして鈍感なやつだ。

あたしにはもう、十分過ぎるほどに伝わってるのに。

ちょっと涙目になってるの、辺りが暗いからわかんないか。



「よし!…あー、俺の一番言いたいことはだな…、」



考えがまとまったのか、丸井はあたしの肩に手を乗せた。愛くるしい目は、真剣に、あたしを捕らえてる。



「一緒に全国、目指そうぜ!」



もう全国出場決定してること、忘れてるかのような台詞。

でもわかってるよ、丸井の“全国”の意味。

“全国No.1”ってことでしょ?



「…お供させてもらいます。」



そう笑うと、丸井はあたしの髪をぐしゃぐしゃってした。やっぱり加減を知らない。



「お前に優勝、見せてやる。」



その台詞がカッコよすぎたから、

髪のことは怒らないでおいたげる。

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