23 関係者各位

へこむ。へこむわぁ…。
なんであんなこと聞いちゃったんだろ。うーん…。



「どーしたのー。茜、元気ないじゃん。」



鈴はポッキーをくわえながらあたしの目の前の席に座った。きっと丸井からもらったんだろう。



「…ん、ちょっと。」

「まーそりゃへこむよね。160ページは有り得ない。」

「うん。有り得な……い?」

「数学。期末テストの範囲。」

「嘘だッ!!」



あたしはどうやらボーッとしすぎてたようで、期末テスト範囲を聞き損ねてたけど、数学の範囲160ページですと!?

鬼だ!鬼ー!



「でもいいじゃない。茜は。」

「なにが。」

「真田君にいつも勉強教わってるし。」



ああ、あの迷惑な押し掛けカテキョね。
どこでどうあたしのテスト結果を入手したんだか(今思えば柳の仕業だろう)、いろんな意味でリーチだった成績をなんとか上げようと、去年辺りから勝手に奮闘してくれてる。

ありがたいっちゃありがたいけど、テスト一週間前から遊びに行くのはおろかテレビすら見させてくれない。だいぶ迷惑。あたしとしてはテストは一夜漬けって決めてるのに。



「てか明日から一週間前?」

「だね。」



はぁー、明日からカテキョ始まるよー…。
しかも、部活も休みになる。

部活休みになったら、テニスが見れない。

ふと、廊下側の席に座る仁王を見つめる。近くに丸井と、他男子数名がいる。たぶん丸井がまたバカな話でもして、なんだか盛り上がってる。

もちろん、今も仁王は楽しそうなんだけど、やっぱりテニスをやってるときの仁王が一番いい。なんといってもカッコいい。

ほんの少し前まではテニス部なんて練習すら見るの嫌だったのに。今は毎日見てる。飽きない。

それはやっぱり、仁王に、
…こ、こ、…恋してるからっスかね。

今さらだけど照れる。あー、やっぱあたしも女の子だったな、と。絶対テニス部なんかにハマるもんかって思ってたのに。よりにもよって仁王。

カッコいいし、しょーがないよね。だからこそ恋の噂の一つや二つあるわけだし。(…それ以上ありそうだが)



「ほらほら、茜もポッキー食べなって。」



目の前のこの子もあたし同様、ちゃっかり恋してる。たぶん、あたし並みにハードな恋。別の意味で。



「鈴もうちくる?」

「…え?」

「真田くるからさ、鈴も勉強教えてもらったら?」

「いいのっ!?」



ガタンッと音を立てて席を立ち上がった鈴。本当にあんなパパに恋してんだな。ういやつ。



「あ!じゃあさじゃあさ、あたしいいこと考えた!」

「なになに?」

「茜んち今親いないんでしょ?だったら、テニス部集めて勉強会しようよ!」

「勉強会〜?」

「丸井とか柳君とかも呼んで!…もーちーろーん、仁王君もっ。」



最後の名前は小声だった。けれど、あたしの心を踊らせるには十分な衝撃。

仁王も……、うちくるかな…?
ちょっとワクワクしてきた。

しかもみんながいれば(特に丸井や赤也)、勉強できなくても弦一郎に怒られる確率が減る。



「よし!そうと決まったらさっそくみんな呼ぼう!」

「…誰が?」

「やだね、茜に決まってんでしょ!頑張れマネージャー(仮)!」



やっぱりね。恋する乙女は強いな。

あたしも強くなろうっ!



「そういえばさ、最近なんで真田君のこと弦一郎って呼ばないの?」



いつかつっこまれるだろうと思ってた。…って、別に鈴のせいじゃないけど。



「んー、何となく。みんな真田って呼んでるし。」

「ふーん。あたしは茜が弦一郎って呼んでんの、好きだったけどなぁ。幼なじみってなんかいいじゃん。」



鈴がいつ、なんで弦一郎を好きになったのか、そういえばまだ聞いてなかったな。もともと知り合いじゃなかったみたいだし。

今度、じーっくり語ってみたい。





「勉強会?俺パス。」

「あ、俺もっス。」



丸井と赤也に話を持ちかけたところで即座に一刀両断された。



「な、なんでよ!みんなで協力して…!」

「とか何とか言っちゃって、真田の説教の飛び火をみんなに分散させようって魂胆だろ。」

「副部長のカテキョなんて想像しただけで恐ろしいっス!」



な、なんて鋭い。確かにそれも目的の一つだけど、一番の目的は…、



「俺は行こうかのう。」

「仁王、お前正気か?」



ちょっと離れていたところから仁王はやってきた。ちゃっかり話を聞いてたんだ。

しかも行くって。



「やるとしたら土曜やろ?勉強は適当に終わらせて、みんなで一杯やりたいぜよ。」



一杯?なんの一杯?



「お前な、真田がいんのに適当に終わらせるとか無理だろ。」

「そうっスよ……って、あれ?もしかして土曜って、」

「…ああ!幸村君が退院する日か!」

「そーゆうこと。」



そっか!忘れてた、部長の退院する日!

じゃあみんなでパーティーだね。うちで勉強会なんてやってる暇…、



「なるほどな!んじゃー俺お菓子いっぱい持ってくわ!」



へ?



「はいはーい!じゃ俺はゲーム持ってくっス!」



あれ?



「俺は酒とつまみ…、や、何でもなか。」



な、なんか話がえらい大事に。

って、会場はうちってこと!?部長の退院祝いパーティーなのに!?



「じゃ、今週の土曜な。」

「先輩、部屋片付けといてくださいよ!」



言われなくても片付けるけど……、

部長の退院祝いパーティー。

楽しみ…!
仁王がくるだけで楽しみなのに。パーティーだって…!



“一緒にいるならそれはもう仲間じゃ”



こないだくれた仁王の言葉が胸に響いた。
あたしが部長の復帰を祝うパーティーに参加することを、みんなは躊躇わないんだ。(…鈴もいるけど)

それが何よりもうれしい。

カテキョはアレだけど、

張り切ってきたよ、上野さん。

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