15 パートナー

「さて、それじゃ今日は、二学期に行う合唱コンクールの指揮と伴奏を決めるぞー。」



音楽の時間。あたしは音楽の時間が好きだ。ピアノを小さい頃やってて、ちょっとそっち方面には自信があるし、鉛筆持って勉強をやらなくていいのが一番好き。

運良く、音楽室の席は窓際になったから、たまにボーッと外を見たりして。

今日は雨が降ってて外は暗い。窓に、教室内が反射してる。

その反射してる教室を見てたら、なんだかみんながこっちを見てる気がしてきた。

そして後ろからつっつかれる感触。鈴だ。



「茜ってば何ボーッとしてんの。」



確かにボーッとはしてたけど、そんなんでみんなから注目されるか?



「上野、できそうか?」

「はいは…、」



いや待て。

先生の言葉に思わず頷きそうだったけど、あたしは今まで適当に返事していい思いをしたことがない。



「合唱コンの伴奏、茜やってくれないかってこと。」



伴奏?合唱コンの?



「えー!無理無理!無理っス!」

「はい、じゃあ伴奏は上野に決定だな。」

「ちょっとー!」



人語が通じない音楽教師!

みんなから拍手と白々しい笑みがこぼれる。
頑張ってねーとか、伴奏できる人茜しかいないんだってーとか、何この連帯感。



「鈴!助けて!」

「無理だわー。」

「代わって!鈴もピアノできるでしょ!?」

「無理だわー。」



なんて冷たい友人!なんてひどいクラス!そりゃ確かにピアノはできるけど、めんどくさすぎる!本番も緊張していやだ!



「次は指揮だな。」

「この非道教師…。」

「上野、発言は挙手だ。」

「いえ、大丈夫です。」



でも考えようによっちゃまだマシかも。だって伴奏より指揮のほうがどちらかというといやだ。みんなのまとめ役なわけだし。



「はいはーい、先生。」



誰もが先生の視線を逸らす中、積極的に手を挙げた人物にみんな注目する。

丸井だ。教室(女子)が一気に騒つく。



「お、丸井立候補か?」



あたしもそう思って、ちょっと喜んだ。指揮者は伴奏のパートナー。丸井なら楽しくやれそう。



「いや、俺パートリーダーやる。代わりに指揮者、推薦してもいーっスか?」

「誰だ?」



丸井の推薦…?まさか…。



「やっぱ俺としては三年最後なわけだし優勝したいと思って。で、やっぱ指揮者も見栄えがいいほうが有利なんじゃねーかって。」

「まぁ生徒からの投票もあるし、一理あるな。」

「ほら!俺って天才的!…てことで、指揮者は仁王に決定!」



その瞬間、机に伏せて寝てた仁王がガバッと起き上がった。どうやら寝てるふりで、起きてたらしい。



「…おいブン太。お前ふざけんじゃねぇ。」

「まぁ聞けよ仁王。」



だいぶ怒りモードの仁王。
丸井はその仁王の肩に手を回すと、ひそひそ話し始めた。みんなその会話内容が気になってるはずだけど、この二人なだけにつっこめない。

秘密会議が終わったのか、二人は席に座り直した。



「俺やるぜよ。」



変わり身はやっ。一体丸井に何を吹き込まれた!?



「そうか。確かに仁王が指揮ならかなり有利かもな。」

「任せんしゃい。」



仁王が指揮者。

なんかすごく絵になる。仁王ファンだったら、絶対投票したくなる。丸井の言う通り、本当に優勝狙えるかも。それよりも、

仁王があたしのパートナー。
どうしよう、緊張する…!

心臓が速い…。



「じゃーこれで決定…、」

「ちょっと待ってください!」



一人の女子が立ち上がった。確かよくテニスコートに来てる。



「やっぱりあたしが伴奏やってもいいですか?」



……は?



「待ってください!あたしも立候補します!」

「私も!」

「あたしもです!」



続々と手を挙げる女子たち。

…おいおい、お前らさっきピアノ弾けないって言ってたじゃん!

唖然とするあたしの前で“あたしが合戦”を繰り広げる女子。ダチョウ倶楽部かっての。



「白々しいわね〜みんな。」



後ろから小声で鈴が囁いてきた。



「そーゆう鈴はどーなの。」

「あたし仁王君に興味ないもん。」

「…へぇ。」



何だかホッとした。だって鈴が仁王ファンだったら…、

…どうってわけでもないけど。



「あたしが狙ってるのは別のテニス部員。」

「え!だれだれ!?」



瞬間、丸井の顔が頭を過った。

何となくモテるといえば丸井のような気がして。
もしそうならうれしいかも。丸井は性格いいから。
…いい性格の間違いか。
あたし張り切って応援しちゃう。



「上野どーする?みんな代わりたいようだが。」



先生が呆れるように言った。確かにこの状況は呆れざるを得ない。
みんなして変わり身早すぎ。



「えーっと…、」



みんながあたしの言葉を待つ。女子たちからは祈るような視線も感じた。

どうしよう、代わりたくない…。
だって仁王と一緒。加えてパートリーダーが丸井。そのメンバーでクラスを引っ張って優勝に導く、そう考えただけでわくわくしてきちゃって。

でも最初、伴奏を嫌がってたのは事実。仁王が指揮と聞いて急にやりたくなったのはあたしもみんなと同じだから。

困ったあたしはついつい、仁王の方を見てしまった。そしたら仁王もこっちを見てて、目がバッチリ合う。

無表情のその目からは、特に嫌がってるとか喜んでるとかの感情は読み取れなくて、

ああ、興味がないのかなって思った。あたしや女子にとってはパートナーが誰かってことは重要だけど、彼には誰だろうと関係ないのかも。



「あ、あたしは別に…、」

「先生。」



さっきまで目が合っていた仁王が、手を挙げた。

手を挙げるなんて仁王らしくなく、それが逆に仁王らしい。



「伴奏、今のままでええと思うんじゃが。」



一気に騒つく教室(女子)。

いやいや、一番ビックリしてるのはあたしだよ。



「最近テニス部の仕事も手伝ってもらっとるし、何かと予定も合わせやすいしの。」

「確かに。指揮と伴奏は二人で練習も必要だし、それ重要だよな。」



丸井も同意した。



「あたしも上野さんがいいと思いまーす。一番最初に引き受けてくれたんだし。」



後ろから鈴も加わってきた。

丸井に鈴、そして仁王というあたしには強力すぎる味方ができて、

覚悟を決めた。いろいろと。



「…あたし、伴奏やります。」



残念がる女子ばかり。でもごめんなさい。あたしもやりたいの。

だってこのわくわくした気持ち、止められない。

中学最後の年、最高の合唱コンにしたい。それに、

仁王にもっと近付ける…。

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