13 マネージャー(仮)

「やっぱマネージャーが入れてくれる麦茶は違うな!」

「マネージャーじゃありません。」

「マネージャー!おかわり欲しいっス!」

「マネージャーじゃありません。…はいよ。」

「ふむ。マネージャー、いつもながらこの麦茶の濃さは絶妙だな。」

「マネージャーじゃありません。…お褒めにあずかりまして、参謀。」



なんだかんだ毎日通うテニス部。近頃暑くなってきたから、みんなに麦茶を用意してみた。

褒めてくれるのはうれしいけど、マネージャーに引き込もうとしてるのバレバレじゃい。



「うむ。茜もだいぶマネージャーが板に付いてきたな。」

「黙れオヤジ。」

「む…!」



ちょっとへこんだ弦一郎はほっとく。

少し離れたところに座り、仁王は麦茶を飲んでる。

他のやつらとは違って褒めたりしてこないけど、何回もおかわりにきてるの、知ってる。どうやら暑がりらしい。

おいしいと思ってくれてるといいな。
…麦茶においしいまずいがあるかわかんないけど。



「……というわけだ、茜。いいな?」

「ハイハイ。」



仁王を見てたせいで、適当に相槌を打つ。



「え!茜先輩、オッケーなんスか!?」

「ん?いいよ?」



なんかわかんないけどどうせまたパシリでしょ。もう慣れてきたもんね。どうせ拒否権ないし。



「やった!差し入れ忘れんなよ!」

「差し入れ?」

「茜先輩が応援してくれんなら張り切るっス!」

「オーエン?」



あれ?なんか雲行きがアレだぞ。

丸井と赤也はわーいって騒いでる。



「あ、あのー…、なん…、」

「何の話かもう一度説明して欲しいとお前は言う。」

「その通りだから説明して?」



その言葉に弦一郎はため息一つつくと、説明してくれた。

明日は試合であり、

あたしがマネージャーとして付き添うことになったそうだ。



「ちょっと待てい!」

「待ったはなしっス。」

「あたし明日はどーしても外せない用が…!」

「ダメだ。お前は明日マネージャーやるって決まったの。」



嫌だ!明日はあたしの世界で一番大好きな日、日曜なのに…!

…あ、でも待てよ?
朝になってから…、



「寝坊して行けませんでしたと言おうと企てる確率98%だ。弦一郎。」

「ああ。俺が責任を持ってこいつを会場まで連れていこう。」



お前らなんて大嫌いだ。なんとゆう連帯感。

はぁー…、明日は昼までゆーっくり寝られると思ったのに…。


ちらりと仁王を見ると、柳生としゃべってる。

正反対な二人は仲がいいって、最近知った。テニス部に顔出してるから、いろいろ観察できて。

あんなに拒否ってたのが嘘みたいに、今は楽しい。
試合も楽しいかな。昔見に行ったときは、弦一郎しか知り合いいなかったから。

でも今はみんな、ここで話してるみんなが試合するんだもんな。

仁王も。



「では、6時に迎えに行くぞ。」



絶対に早いけど反論するのもめんどくさくて、責任感に燃えるパパにつっこめなくて、

その日は、早くに寝た。

丸井からきた差し入れ催促メールは無視して。



試合。見て、ビックリした。

そりゃね、うちは今全国二連覇中で、三連覇を狙ってるもん。強いことは知ってた。

でもここまでとは。
テニスの上手い下手はよく知らないけど、君たちは強い!



「お疲れ!」



試合後のレギュラーたちに駆け寄った。あたしはちょっと興奮してる。



「茜先輩!俺の試合見てた!?」

「見てたよ!赤也ってばあっとゆー間に勝っちゃって!」

「俺の天才的妙技も見たか?」

「見た見た!なんで!?なんであんなすごいことできるの!?あれマグレじゃないよね!?」

「そりゃ、俺らは地獄のような練習してるし…。あ…、さ、真田、すまねぇ…!」

「ホントにすごい!みんなすごいんだね!ビックリし……、」



気が付けばみんなしてあたしを見てて、ちょっと恥ずかしくなった。みんなはきっと、勝つのが当たり前だから。こんなに騒いでるのあたしだけだ。初めて見たあたしのあまりのテンションに驚いてる。



「ははっ、お前興奮しすぎだって。」



丸井があたしの頭をグシャグシャした。

恥ずかしいけど。でも感動したんだもん。こりゃ三連覇間違いないね。
あたしはなんかうれしくて。そりゃテニス部なんかに興味はないって散々思ってたけど。いざじっくり試合を観てみると、すごく引き込まれるものがあった。

ジャッカルの言う通り、きっと今まで死ぬほど練習したんだろうな。あたしが家でゴロゴロしてる間も。



「先輩、かわいいっス!」



いきなり赤也が抱きついてきた。あんなに激しい試合をしていたというのに、あっという間に終わったせいか、ほとんど汗はかいてないように感じる。



「ちょ…、赤…!」

「いつも怒ってばっかだから、嫌われてんのかと思ってたんスよ〜!」



いつも通り空気の読めない赤也の言葉に、みんな苦笑いした。

はっきり言ったわけじゃなかったけど、やっぱみんなわかってたんだ。
怒ってばっかの自分を、ちょっと後悔した。



「先輩は笑うと百倍かわいくなるっス!」

「そ、そぉ?」

「まぁ、かわいいかどうかは別として、笑ってたほうがマシってことだろぃ。」

「あっそケーキいらないんだ。」

「待て待て待て!」



苦手だったし、なるべく関わりたくなかったけど、

だんだん、違くなってきた。

今は、自然と笑顔になってしまうぐらい。

この場所、居心地いいかも。



「もうマネージャーなっちまえよ。」



丸井の言葉に、こくんと頷きそうになった。
正式なマネージャーとなると、まだ自信が……、



「じゃあ、マネージャー(仮)でどうじゃ?」



(仮)というものに安心したのか、
はたまた仁王の提案だったからか。

あたしは首を縦に振った。



「よかった。明日からも麦茶飲めるんじゃな。」



初めてもらった褒め言葉に、

今日一番の、笑顔がこぼれた。

|
[戻る]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -