「マネージャーじゃありません。」
「マネージャー!おかわり欲しいっス!」
「マネージャーじゃありません。…はいよ。」
「ふむ。マネージャー、いつもながらこの麦茶の濃さは絶妙だな。」
「マネージャーじゃありません。…お褒めにあずかりまして、参謀。」
なんだかんだ毎日通うテニス部。近頃暑くなってきたから、みんなに麦茶を用意してみた。
褒めてくれるのはうれしいけど、マネージャーに引き込もうとしてるのバレバレじゃい。
「うむ。茜もだいぶマネージャーが板に付いてきたな。」
「黙れオヤジ。」
「む…!」
ちょっとへこんだ弦一郎はほっとく。
少し離れたところに座り、仁王は麦茶を飲んでる。
他のやつらとは違って褒めたりしてこないけど、何回もおかわりにきてるの、知ってる。どうやら暑がりらしい。
おいしいと思ってくれてるといいな。
…麦茶においしいまずいがあるかわかんないけど。
「……というわけだ、茜。いいな?」
「ハイハイ。」
仁王を見てたせいで、適当に相槌を打つ。
「え!茜先輩、オッケーなんスか!?」
「ん?いいよ?」
なんかわかんないけどどうせまたパシリでしょ。もう慣れてきたもんね。どうせ拒否権ないし。
「やった!差し入れ忘れんなよ!」
「差し入れ?」
「茜先輩が応援してくれんなら張り切るっス!」
「オーエン?」
あれ?なんか雲行きがアレだぞ。
丸井と赤也はわーいって騒いでる。
「あ、あのー…、なん…、」
「何の話かもう一度説明して欲しいとお前は言う。」
「その通りだから説明して?」
その言葉に弦一郎はため息一つつくと、説明してくれた。
明日は試合であり、
あたしがマネージャーとして付き添うことになったそうだ。
「ちょっと待てい!」
「待ったはなしっス。」
「あたし明日はどーしても外せない用が…!」
「ダメだ。お前は明日マネージャーやるって決まったの。」
嫌だ!明日はあたしの世界で一番大好きな日、日曜なのに…!
…あ、でも待てよ?
朝になってから…、
「寝坊して行けませんでしたと言おうと企てる確率98%だ。弦一郎。」
「ああ。俺が責任を持ってこいつを会場まで連れていこう。」
お前らなんて大嫌いだ。なんとゆう連帯感。
はぁー…、明日は昼までゆーっくり寝られると思ったのに…。
ちらりと仁王を見ると、柳生としゃべってる。
正反対な二人は仲がいいって、最近知った。テニス部に顔出してるから、いろいろ観察できて。
あんなに拒否ってたのが嘘みたいに、今は楽しい。
試合も楽しいかな。昔見に行ったときは、弦一郎しか知り合いいなかったから。
でも今はみんな、ここで話してるみんなが試合するんだもんな。
仁王も。
「では、6時に迎えに行くぞ。」
絶対に早いけど反論するのもめんどくさくて、責任感に燃えるパパにつっこめなくて、
その日は、早くに寝た。
丸井からきた差し入れ催促メールは無視して。
試合。見て、ビックリした。
そりゃね、うちは今全国二連覇中で、三連覇を狙ってるもん。強いことは知ってた。
でもここまでとは。
テニスの上手い下手はよく知らないけど、君たちは強い!
「お疲れ!」
試合後のレギュラーたちに駆け寄った。あたしはちょっと興奮してる。
「茜先輩!俺の試合見てた!?」
「見てたよ!赤也ってばあっとゆー間に勝っちゃって!」
「俺の天才的妙技も見たか?」
「見た見た!なんで!?なんであんなすごいことできるの!?あれマグレじゃないよね!?」
「そりゃ、俺らは地獄のような練習してるし…。あ…、さ、真田、すまねぇ…!」
「ホントにすごい!みんなすごいんだね!ビックリし……、」
気が付けばみんなしてあたしを見てて、ちょっと恥ずかしくなった。みんなはきっと、勝つのが当たり前だから。こんなに騒いでるのあたしだけだ。初めて見たあたしのあまりのテンションに驚いてる。
「ははっ、お前興奮しすぎだって。」
丸井があたしの頭をグシャグシャした。
恥ずかしいけど。でも感動したんだもん。こりゃ三連覇間違いないね。
あたしはなんかうれしくて。そりゃテニス部なんかに興味はないって散々思ってたけど。いざじっくり試合を観てみると、すごく引き込まれるものがあった。
ジャッカルの言う通り、きっと今まで死ぬほど練習したんだろうな。あたしが家でゴロゴロしてる間も。
「先輩、かわいいっス!」
いきなり赤也が抱きついてきた。あんなに激しい試合をしていたというのに、あっという間に終わったせいか、ほとんど汗はかいてないように感じる。
「ちょ…、赤…!」
「いつも怒ってばっかだから、嫌われてんのかと思ってたんスよ〜!」
いつも通り空気の読めない赤也の言葉に、みんな苦笑いした。
はっきり言ったわけじゃなかったけど、やっぱみんなわかってたんだ。
怒ってばっかの自分を、ちょっと後悔した。
「先輩は笑うと百倍かわいくなるっス!」
「そ、そぉ?」
「まぁ、かわいいかどうかは別として、笑ってたほうがマシってことだろぃ。」
「あっそケーキいらないんだ。」
「待て待て待て!」
苦手だったし、なるべく関わりたくなかったけど、
だんだん、違くなってきた。
今は、自然と笑顔になってしまうぐらい。
この場所、居心地いいかも。
「もうマネージャーなっちまえよ。」
丸井の言葉に、こくんと頷きそうになった。
正式なマネージャーとなると、まだ自信が……、
「じゃあ、マネージャー(仮)でどうじゃ?」
(仮)というものに安心したのか、
はたまた仁王の提案だったからか。
あたしは首を縦に振った。
「よかった。明日からも麦茶飲めるんじゃな。」
初めてもらった褒め言葉に、
今日一番の、笑顔がこぼれた。
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